KAATがキャバレーに 独・劇作家ブレヒトの戯曲上演へ

 ドイツの劇作家ブレヒトの戯曲「マンイストマン」が、歌あり踊りありのエンターテインメント作品としてKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演される。英軍隊を舞台にした、アイデンティティーをめぐる物語。ショー仕立ての観客参加型舞台となる見込みで、出演する元宝塚歌劇団星組の俳優、安蘭けいは「どんな世界観になるか注目してほしい」と話している。

 KAATの大スタジオをキャバレーに見立て、飲食をしながら観劇できる斬新なスタイル。約170席の小規模空間で、安蘭が生歌や踊りを披露するというぜいたくなつくりだ。

 演出は串田和美。「串田さんは作品を創る上での固定概念があまりなく、発想が実に豊か。私がタブーと思うようなことを軽々と越え、舞台の楽しみ方を教えてくれる存在です」と安蘭。「漂流劇ひょっこりひょうたん島」(2015年)以来の串田とのタッグに心を躍らせる。

 安蘭が演じるのは駐屯地の酒場のおかみ。インドが英国の植民地だった頃の英軍隊内、隊員たちがある男を一人の兵隊の身代わりにさせる。軍曹らをだます彼らを傍観しつつ、時に片棒を担ぐ場面もある役どころだ。「突っ込まなくていいのに自ら進んで入ってしまうところなど、自分に似ている一面もありますね」と笑う。

 宝塚で20年近く男役を務めた元トップスターの安蘭にとって、女性を演じるのは一種の難しさがあるという。

 「女として女を演じるだけなので、男役を演じていた時の『一人の男になる』という過程がないんですよ。まるで自分が裸で舞台に立っているような気恥ずかしさがあり、初めは戸惑いました」

 今回は座席によってはコース料理が振る舞われ、観客には自由にブーイングができる笛が渡される。劇場全体が演劇空間となる中、安蘭が観客とやり取りをする時間も「あると思います」と言う。「そういう絡みができるよう、ちゃんと役になりきって余裕をつくれるようにしたいです」

 ブレヒトの原作については「一人の人間が別の人間に成り代わり、その人の本質が変わっていく恐さがある一方で、人の神髄を突いているとも感じます」。難しいイメージがある戯曲を、食事をしながら観劇できるといった独創的な発想で観客の緊張を解きほぐす。「そこに串田さんの演出の狙いがあると思います。ぜひ構えずに鑑賞してほしい」と期待する。

 「キャバレースタイルの舞台は私自身初めて。お客さんがいつブーイングをしてくるかも分からないし、演者としても毎回違う緊張感があります。お客さんがこの作品にどう絡んでくれるか、楽しみですね」

◆KAAT、まつもと市民芸術館(長野県)の共同プロデュース公演。KAATでは26日~2月3日。29日休演。料金はS席(料理付き)9千円、A席6千円など。残席わずか。問い合わせは、チケットかながわ電話(0570)015415。

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