知っておきたい「フェイク広告」の今 〜あなたのメディアは大丈夫ですか?

By 中瀨竜太郎

先日(2019年1月22日)、NHK総合の番組「クローズアップ現代+」のシリーズ「ネット広告の闇」で、「追跡!“フェイク” ネット広告の闇」という新たな回が放送されていました。
 これは、

芸能人の写真などを無断で加工・使用し、ウソの体験談などをまじえて商品を紹介し、消費者をだまそうとする、いわゆる「フェイク広告」

にかんする放送で、私たちにとっても大変身近に感じる話題でした。
 私たちも日々、こうしたフェイク広告の「ブロック」運用に勤しんでいるからです。

レコメンド・ウィジェットにフェイク広告が集まる理由

 ウェブ上のメディアは一般的に、「アドネットワーク」と呼ばれる仕組みによって広告収益を得ています。
 無限増殖するウェブページと、そのページに付随して同様に無限増殖する広告枠。その膨大な場所と在庫数を広告主や広告代理店が把握しきれないことから、これら無数の広告枠を共通の仕様で束ね、オークション形式などで販売することで広告主が出稿しやすくしている(=メディアが広告収益を得やすくしている)のが、アドネットワークです。

 こうしたアドネットワークのなかに、番組で「レコメンド・ウィジェット」と呼ばれていたサービスも含まれます。
 レコメンド・ウィジェットの導入にあたってニュースサイトなどの媒体運営者がやることは、従来のアドネットワーク同様、簡単なタグを記事ページのHTML内に記述しておくだけ。すると、レコメンド・ウィジェットが自サイトの記事の中から読者に適した記事を何本か自動的にパッケージしておすすめしてくれるだけでなく、パッケージの中にさまざまな広告案件をミックスして掲出してくれて、媒体運営者はそこから広告収益を得られます。

 では、同じアドネットワークという仕組みなのに、なぜバナー広告ではなく、ここ数年で一般的になったレコメンド・ウィジェットの広告でばかり今回の番組で取り上げられたような問題のある広告に出会いやすいのでしょうか?
 私たちが業界各社にヒアリングしてみたところ、以下のような理由が複合的に絡んで起こっているようです。

1. 枠を安く買える。

 バナー広告に比べ、レコメンド・ウィジェットのほうが1ページあたりの広告枠数が多い(ページ内に設置された1つのウィジェット内に、だいたい8つ以上の広告枠がある)ため、1枠をめぐる競争率が下がり、低い入札価格でも広告が掲出されやすい、ということが言えます。

他のネットワークと比較して枠に対する競争率が低いため、低単価で広告の配信が可能となります。

 また、レコメンド・ウィジェットの広告ではそもそも、掲出ロジックが必ずしも純粋なオークション方式のみではないため、他よりも低い入札価格の広告であっても掲出される可能性がある、という点でもバナー広告に対し低予算での出稿が可能です。
 さらに、最低出稿費用も安価である、ということも言えます。一部のバナー広告でたとえば最低出稿予算が50万円からというのに対し、レコメンド・ウィジェットでは15万円程度から出稿できる、ということがあります。

 広告代理店は一般的に、広告主に対して「最低○万PV保証で、○百万円で広告出稿を運用します」といった受注の仕方をしているため、少しでも支出を抑えて自分たちの手元により多く残したいと考えますから、このように「安く買える」広告枠をより積極的に多用します。

2. クリエイティブを作りやすい。

 バナー広告と異なり、レコメンド・ウィジェットの広告では画像部分に文字などの訴求要素すべてを詰め込む必要がなく、また画像部分のサイズも小さいため、高いデザイン力は求められません。番組で取り上げられていたように芸能人の写真を使ったり、ネットの拾いものの画像を使ったり、フリー素材を使ったりして、あとはテキストを付けるだけ。テキストを作るだけなら日本語が使えればOK、ということで、クリエイティブのバリエーションも大量生産して大量出稿しやすくなっています。

 番組でも「アフィリエイト」という商流を使った個人による広告制作の仕組みが紹介されていましたが、それもこの「制作のプロではない素人でもクリエイティブを作りやすい」というレコメンド・ウィジェットの特性があってこそ、というところがあります。

3. クリックさせやすい。

 レコメンド・ウィジェットでの広告は、バナーのように「いかにも広告」という顔をして表示されず、レコメンドされる記事の中に紛れて、記事のような顔をして表示されます。結果として、記事を見るのと同じような感覚で読者がクリックしやすくなっており、その効果を好んで出稿する広告主がたくさんいる、ということです。

フェイク広告をブロックしやすいレコメンド・ウィジェット?

 このような構造によって、レコメンド・ウィジェットの広告には、バナー広告に比べてより問題のある広告が集まりやすい、ということが言えます。

 私たち自身も、これまでいろいろな会社のレコメンド・ウィジェットを利用してきましたが、だいたいどこでも常に何らか問題のある広告に出会ってきました。そうした広告は、提供されている管理ツールを使ってブロックできるため、私たちは日々、広告のブロック運用を行なっています。

 現在、私たちは日本語の記事ページには「popIn」というレコメンド・ウィジェットを採用していますが、以前よりもブロック運用のコストは大きく上がっています。ただ、それはpopInでは他のレコメンド・ウィジェットより問題のある広告が配信されやすいからではありません。popInでは、広告配信をより私たちのコントロール下に起きやすいからこそ、ブロック運用に時間をかけるようにしています。

 どういうことかというと、レコメンド・ウィジェットには、大きく分けて、

  • そのレコメンド・ウィジェットに直接出稿された広告のみを配信するもの
  • 外部のアドネットワークと接続し、直接出稿された広告以外も1〜2割程度含んで配信するもの

の二つがあります。

 後者の場合、外部の広告ネットワークと接続するということですから、そこの審査は外部任せということになります。もちろん、そうしたレコメンド・ウィジェット事業者のスタンスは「私たちは、信頼できる外部アドネットワークとしか接続していない」というものではありますが、問題は未然に防ぎにくいということです。

 外部から流れてくるクリエイティブがあるということは、「今この瞬間にどんなクリエイティブの、どんな広告が流れ得るのか?」を完全に捕捉することができない、ということを意味しています。
 結果として、そうしたレコメンド・ウィジェットの管理ツールからのブロックというのは、そのレコメンド・ウィジェットに直接出稿された広告も、外部のアドネットワークから流れてきた広告も、すべて「広告のランディングページ(LP)のURLベースでブロック」することになります。
 つまり、広告が引き当たってLPのURLが判明してからしかブロックできないため、「今この時点で問題がある広告は一切出ていない」と担保できる瞬間が存在しない、ということです。

 一方で、popInなどのように自社レコメンド・ウィジェットに直接出稿された広告のみを配信するサービスでは、管理ツールから案件ベースやクリエイティブベースでブロックできます。入稿されている案件を目視し、クリエイティブやLPに問題のある広告をすべてブロックしきれば、「今この時点で問題がある広告は一切出ていない」と担保できる瞬間が存在し得る、ということです。

せっせとブロック

 アドネットワークへの広告の出稿は常時行われており、ブロック運用なんて所詮は気休めにすぎない、という部分は確かにあります。「解くべき問題の質」は高いとして、管理ツールからせっせとブロックするという「解法の質」が低いことも間違いないでしょう。
 また、ユーザーがGoogleやヤフーを起点としてあちこちに“たまたま”出没するようなかたちで情報消費をしてきたここ20数年、メディアが一生懸命に品質を維持したところで、そのメディアの「トップページ」にユーザーがアクセスしてくれるような情報消費行動はまずありません。よって、企業に勤める会社員でもある読者が、「ここは広告品質の維持がしっかりしているから、ここのメディアにうちの広告を出稿しよう」などと思ってくれるようなことも期待できません。
 さらに、問題のある広告の多くが、番組にも出てきた「コンプレックス系」という商品群のものであり、それらをブロックすることによって代わりに出てくる広告へのユーザーのクリック数は減ります。「コンプレックス」が人を動かす力の大きさを実感します。ともあれ、そうすることで、メディアとしての収益も下がります。

 それでも、自身で配信するページの広告枠をアドネットワークに在庫として供出するということは、どんな零細ブロガーでも大手報道機関でも等しく「媒介者」としての責任が伴うものだと考えています。「ブロックは現実的ではない」といって匙を投げ、審査責任をアドネットワーク事業者側だけに求めることはできない、と考え、私たちは不毛なブロック運用にも可能な限りコストを割いています。

ただ、

なぜバナー広告ではなく、ここ数年で一般的になったレコメンド・ウィジェットの広告でばかり今回の番組で取り上げられたような問題のある広告に出会いやすいのでしょうか?

と書きましたが、バナー広告などにもこうしたフェイク広告が少しずつ出始めていて、ブロック運用では手に負えない感じにもなってきています。このあたりのからくりも含め、このテーマで引き続き業界や消費者の皆さんに向けて情報共有を進めていきます。

この記事のページ下方「こんな記事も」に、もしフェイク広告や法的に問題がある広告(権利侵害含む)が出ていましたら、このページの最下段にあるリンク「この記事へのフィードバック」から教えてください。

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