斜面都市の景観

 かつては離れていた場所からよく見えていた長崎市の山や教会が、建物の高層化で見えなくなってきた。「ランドマークとしての価値が失われつつある」。郷土史や建築の専門家らでつくる市都市景観懇話会は、既に1988年にこう指摘していた▲長崎らしい都市景観の創造へ向けた条例の制定を盛り込んだ懇話会の提言は、長崎の街並みをバブル期の無秩序な開発から守りたいという危機意識を背景にしていた▲中でも強い懸念を示していたのが、高い建物による眺望悪化。「斜面上の建物の大規模化・高層化は、背後地からの眺望を阻害するとともに、下から見上げる視線をさえぎり、斜面の景観を分断するという問題を引き起こしつつある」と指摘した▲その後市が制定した都市景観条例(現景観条例)によって、南山手一帯や平和公園周辺などの重点地区では、新築建物に高さ規制が掛かった。条例がなければビルが建ち、平和公園から浦上天主堂への眺望が確保できなくなっていたかもしれない▲その一方で、規制されなかった街の中心部や斜面の住宅地では、次々と開発が進んだ▲「斜面都市には、平坦地の都市では味わえない眺望、日照、開放感などの魅力も多い」。31年前の提言がそう評した景観が、これからも失われていくとしたら寂しい思いがする。(泉)

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