金正恩氏の「風紀取り締まり」に北朝鮮庶民が強く反発

北朝鮮の金正恩党委員長は1月1日の施政方針演説「新年の辞」で、次のように述べている。

党と大衆の渾然一体を破壊し、社会主義制度をむしばむ権柄と官僚主義、不正腐敗行為は大小をとわず一掃するための闘争の度合いを強めなければなりません。

社会主義的生活様式と高尚な道徳的気風を確立するための旋風を巻き起こして、朝鮮人民の感情・情緒と美学観に反する不道徳で非文化的な風潮が現れないようにし、われわれの社会を徳と情によって睦まじい一つの大家庭にしなければなりません。

これに基づくと思われる風紀取り締まりが、庶民の激しい反発を招いている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として伝えたところによると、当局は新年に入ってから清津(チョンジン)市内のいたるところに糾察隊(風紀取り締まりチーム)を配置し、取り締まりに当たらせている。その対象は、通行人の服装だ。これが、大きなトラブルへと発展した。

数日前、水南(スナム)区域と松坪(ソンピョン)区域の間にかかる橋の上で、ある女性が糾察隊に呼び止められた。「服が汚い」との理由だった。それを聞いた女性は「堆肥戦闘に行くのにきれいな服など着ていけるか」と強く反発した。

堆肥戦闘とは、不足する肥料を補うために人糞を集めて堆肥を作ることを指すが、現在、多くの市民がこの堆肥戦闘に動員されている。女性は動員先に向かう途中だったのだが、理不尽にも服装を咎められたことで怒りを爆発させたのだ。

糾察隊は、この女性を頭ごなしに抑えつけようとした。すると、女性同様に堆肥戦闘に向かう途中だった人々が騒ぎを聞きつけて集まり、「堆肥戦闘に行くときにきれいな服を着ろというのは、どの法律の何条何項に基づく取り締まりなのか」と強く抗議して大騒ぎになった。

また別の情報筋によると、肖像徽章(金日成主席、金正日総書記のバッジ)を見えるところに付けていないことも糾察隊の取り締まり対象になる。肖像徽章は、元旦の銅像への献花など政治的な行事の際に限って外に見えるところに付け、普段はインナーシャツに付けるのが一般的だが、それを「肖像徽章未着用」だと取り締まるのだ。そのたびにジッパーを降ろして「ほら、ここにあるだろ」と見せつけるという。

冬と夏とは異なり、学生糾察隊や労働者糾察隊の姿は見かけないが、そのかわりに女盟糾察隊が嫌がらせのように取り締まり、住民の反発は高まっている。

© デイリーNKジャパン