くだらないことを大真面目に 県立近代美術館葉山で堀内正和の回顧展

 日本の抽象彫刻を代表する彫刻家の一人、堀内正和(1911~2001年)の回顧展「堀内正和展 おもしろ楽しい心と形」が、県立近代美術館葉山(葉山町一色)で開催中だ。初期から晩年までの約40点の彫刻が並び、独特のエロスやユーモアを楽しむことができる。

 堀内は東京高等工芸学校に在学中の1929年、18歳で二科展に初入選するなど、早くから才能を発揮。中途退学し、フランス留学時はロダンの助手を務めた彫刻家・藤川勇造に師事して研さんを積んだ。

 戦時中は戦意高揚のプロパガンダに同調する彫刻界に疑問を抱き、創作を中断。この間、哲学書を読みふけり、ギリシャ語やラテン語を学ぶなど、知的な思索を深めたという。

 豊かな学識に裏打ちされた創作は、戦後、一気に開花する。言葉遊びやイメージと戯れるような作品も多い。どきっとさせられる題名の「指の股もまた股である」や、穴をのぞき見ることで鑑賞する「のどちんことはなのあな」などには、遊び心があふれる。

 「D氏の骨ぬきサイコロ」は、さいころの目を立方体からすっぽり抜き出したもので、見方によってはパズルのようだ。

 こうした堀内作品の魅力を、同館の長門佐季主任学芸員は「見ていると自分にも考えられそう、という部分をくすぐられる。抽象彫刻というと堅苦しいイメージになりがちだが、単純に形として面白い」と語る。

 会場には、紙でできた小型の彫刻、ペーパー・スカルプチュアも多数展示している。堀内の思考の過程で生み出されたもので、画家がドローイングを描くようなものだという。

 同館の鎌倉館彫刻室では堀内の個展を63年に開催。同時代の作家として新作が並んだ。当時の堀内は、新しい素材を積極的に取り入れ、繊維強化プラスチック(FRP)やセメントを使用した彫刻を手掛けた。

 だが、こうした作品は経年劣化や保管場所の問題により、今では修復が必要な場合もある。長門学芸員は「使われた素材の面から、50年代の彫刻作品、特に流行した野外彫刻について、今後どうしていくのかを、美術館として考える時期にきていると感じる」と問題意識を抱く。

 2003年に同館鎌倉館で行った大回顧展では、FRPによる大型作品「ななめの円錐(えんすい)をななめに通り抜ける円筒」を修復した。今回も初期の具象作品を修復して、初公開している。

 長門学芸員は「くだらないことを大真面目にやっている面白さがある。堀内さんを知らない若い人たちに、楽しんでほしい」と来場を呼び掛けた。

 3月24日まで。祝日を除く月曜休館。一般1200円、20歳未満と学生1050円、65歳以上600円、高校生100円。同時開催のコレクション展「モダンなフォルム」も観覧可。

 2月24日午後2時から同館講堂で、講演会「堀内正和と辻晋堂」を行う。講師は鳥取県立博物館の尾崎信一郎副館長。参加無料、当日先着順。問い合わせは葉山館電話046(875)2800。

ユニークな形の彫刻が並ぶ「堀内正和展」会場=県立近代美術館葉山

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