肉、魚抜きで理想の肉体を手に入れる!

 ベジタリアントレーナーの挑戦 平成元年生まれ、私のリアル

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 肉や魚を一切食べなくても、理想の肉体を手に入れることはできるのか。自らの身体で、その問いに答えるベジタリアンがいる。東京都墨田区在住のトレーナー伊藤広晃(いとう・ひろあき)29歳。主に豆類からタンパク質を摂取し、週に3日のトレーニングで分厚い筋肉で覆われた体を作り上げた。180センチの身長に体重は87キロ。重さ120キロのバーベルを上げる力を持つ。

 「野菜だけでも筋肉は作れる」とベジタリアン向けパーソナルトレーナーとして活動している。一対一で、運動のやり方だけなく野菜の食べ方まできめ細かく指導するのが特徴だ。目指すのは、自らに続く「筋肉ベジタリアン」を少しでも増やすことだ。

 ▽野菜だけでどうしてあんなに元気なの?

 元々、体を動かすことが好きだった。小学6年から20歳までは水泳の選手。平泳ぎ50メートルで全国大会に出場した実績がある。引退後は水泳のインストラクターとしてスポーツジムに勤務していた。

 朝は焼き魚、夜はハンバーグ。実家暮らしで、母の作る料理を毎日おいしく食べていた。食生活に疑問を持ったことはなかった。

 ベジタリアンに転向したきっかけは23歳のとき。幼なじみが突然、肉や魚をやめた。以前より生き生きとしている友人に疑問がわいた。「野菜だけでどうしてあんなに元気なのか」。自分の体でも試してみたくなった。

 1カ月かけ、徐々に食事を変えた。おかずから肉や魚を外し、みそ汁のカツオだしやスープのブイヨンも抜いた。実家では自分の分の食事だけ別に用意した。

 ▽心がなぎのように穏やかに

 突然ベジタリアンになったことで、周囲は戸惑った。父ははっきり反対した。「家族で一緒に同じ料理を食べるべきだ」「日本人はみんな、肉や魚を食べている」。顔を合わせるたびに言い争いになった。

 大好物だった焼き肉も食べなくなった。職場のスポーツジムの懇親会が焼き肉店で開かれ、白米しか食べられなかった。上司から「何で肉を食べないんだ、もっと食べろ」と言われても、白米を食べ続ける姿に、同僚から白い目で見られたこともある。

 最初は物足りなかったものの、意外にすぐ慣れた。始めて数カ月で疲れにくくなった。それまで頻繁におなかを下していたが、胃腸の不調がおさまった。イライラしたり怒ったりすることが減り「心がなぎのように穏やかになった」。

 ▽食べたもので変わる、心と体

 自らの体験が自信となり、その良さを確信した。「食べたもので心と体は変わる。ベジタリアンの良さをもっと広めたい」。スポーツジムを2017年に退職し、アルバイトをしながらパーソナルトレーナーとしての活動を始めた。ジム勤めの7年間で、1対1のトレーニングの需要が増えていると感じていたことも、決断を後押しした。

ジムで指導する伊藤さん(右)=東京都渋谷区

 「どこを鍛えているか意識して。息をゆっくり吸って、吐いて」。ジムでダンベルを上げ下げする男性の傍らに立ち、声を掛ける。まだ生徒は少ないが、菜食に興味を持つ人が集まっている。

 

 日本ベジタリアン協会(大阪市)によると、ベジタリアンは動物性食材をどこまで避けるかでさまざまな分類があり、最も厳格な「ヴィーガン」は卵や乳製品など動物由来の食品を一切口にしない。伊藤は「オリエンタルベジタリアン」。仏教の精進料理で除かれるネギ類は避けるが、卵、乳製品は食べられる。

 ▽インターネットで、生活しやすく

 それでは「おかずはサラダくらいしか食べるものがないのでは?」というと、そうでもない。ここ数年、ベジタリアンをめぐる環境は変わり、生活しやすくなった。インターネットでは、大豆を肉そっくりに加工した「ソイミート」など、動物性成分を除いた食材や調味料が簡単に手に入る。

 実家を出て1人暮らしする自宅で作る野菜カレーも、よく見ないと、ベジタリアン向けメニューだとは分からない。ソイミートは、見た目は豚肉のよう。口にすると、大豆の風味は全くせず、肉のようにしっかりとした歯ごたえだ。何も知らずに食べれば、肉だと思い込んでしまうかもしれない。

ソイミートで作った、ヴィーガンカフェのハンバーガー=2018年12月 17日、東京都港区

 外食も気軽に楽しめるようになった。動物性食品を抜いたメニューに対応するレストランやカフェが増え、アプリで検索もできる。東京都港区にある行きつけの「ヴィーガンカフェ」では、ソイミートを使ったハンバーガーや唐揚げが並ぶ。店内はおしゃれな雰囲気で、フランス料理のコースを楽しむイベントも不定期で開いている。

 店主の猪野(いの)裕子(32)も野菜中心の食事に変えてからアレルギーが改善したという。「ボリュームたっぷりで目で見て楽しめ、体にもいい。誰でも気軽に試してほしい」と笑顔だ。

 ▽野菜で目指せ、健康的マッチョ!

 野菜だけでも病気にならず、順調に筋肉を増やす姿を見て、父は何も言わなくなった。時折、トレーニングの動画や写真撮影を手伝ってくれることもある。

 夢は、パーソナルトレーニングのスペースを併設したカフェを開くこと。「ベジタリアンのストイック過ぎるイメージを変えるため、発信する場所を作りたい。食事もトレーニングも楽しんで、野菜で健康的なマッチョになろう」
(敬称略、共同通信=小林清美)

 

▽取材を終えて

 生まれたときから野菜しか食べない環境で育ったのなら理解できるが、一度肉や魚の味を知ってからベジタリアンに転向するのは非常に困難ではないか。そんな疑問はあっさり打ち砕かれた。伊藤さんは前向きで筋肉への情熱にあふれ、肌もツヤツヤ。野菜だけのカレーやハンバーガーを「うまい、うまい」とたいらげ、トレーニングに励む姿はエネルギーにあふれていた。週に1日、野菜だけの日を作る「ゆるベジ」でも体は変わるそう。少しずつ試して、マッチョとまではいかなくても健康な心と体を目指したい。(終わり)