検証 佐世保市政 朝長市長の3期(4)<企業誘致> 交渉巧者 対照的印象も

 「4年半での完売は想定以上に早い」。昨年12月の定例佐世保市議会冒頭、市長の朝長則男(69)は、小佐々町の市営工業団地「ウエストテクノ佐世保」が、10年間での完売目標を大幅に上回ったことを報告した。10月に分譲を始める相浦工業団地にも触れ、「早期完売に向け最大限努力する」と意気込んだ。

 朝長の主な実績は、経営危機に陥ったハウステンボスの再建支援などが注目されがちだが、継続的に結果を残す企業誘致を挙げる声は少なくない。

 市外企業の誘致実績は新設13社、増設延べ3社で、雇用計画数は計2737人に上る。特に3期目は優良な製造業を次々に誘致。若い人材が地元に残るきっかけを生み出した。人口の減少や流出は続くが、あるベテラン市議は「現市長でなければ、さらにひどい状況だった」と評価する。

 水資源が乏しい佐世保市は企業誘致に不利と見られてきた。それでも水利用が少ない業種に的を絞り、地道な交渉を積み重ねてきた。市幹部は「最後は市長の熱心なトップセールスに頼る所が大きい。経営者の懐に入り、心をつかむのがうまい」と舌を巻く。

 ただ、別の角度から見ると、その交渉力の印象は、がらりと変わる。

 「何度協議をお願いしても私たちとは会ってくれない。自分と違う意見には耳を傾けない頑固なイメージがある」。県と市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設問題で、ダムに反対する市民団体「石木川まもり隊」代表の松本美智恵(67)はもどかしそうに語る。

 過去に市長と対面できたのは、2014年7月に県知事と現地住民が面談した際の1回のみという。反対派との訴訟に発展して以降、溝はさらに深まっている。市長就任時から「市民第一主義」を掲げ、コミュニケーションを重視する朝長だが、その態度に松本は矛盾を感じている。

 市民との対話では、3月末に市交通局(市営バス)を廃止する路線バス再編でも同じような不満が噴出した。赤字路線の切り捨てを懸念し、再編に反対したある社民市議は「事前に地域住民の意見を十分に聞いて決断したとは思えない。再編ありきだった」と批判する。

 外向きの経済政策では巧みな交渉で実績を重ねながら、足元の懸案では自らの考えを譲らずに進む-。こうした政治姿勢に市民の評価は分かれる。

 =文中敬称略=

朝長市政3期目の市外企業誘致実績

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