V3広島の未来を左右する存在!? 高卒ルーキー内野手たちへの高い期待値

ドラ1小園の陰に隠れつつも、林晃汰と羽月隆太郎の新人2人は将来性も明るい

広島に出現しない高卒内野手の不動のレギュラー、ドラ3林とドラ7羽月に注目

 オフにも球界の話題の中心にいた広島カープ。念願の日本一に向け、大きな可能性を感じさせるシーズンである。同時に、数年で大幅な血の入れ替えが起こりそうなチーム状況も同居している。だからこそ高卒野手に大きな期待がかかっている。今はドラ1小園海斗の話題に隠れてはいるが、将来性豊かな2人、林晃汰、羽月隆太郎に注目してみた。

 2018年にリーグ3連覇を達成したカープであるが、最後のところで日本一まで手が届かなかった。あれから早いもので3か月近くが経過。キャンプイン前、1月下旬の広島では大野練習場とマツダスタジアムで多くの選手が自主トレを行っていた。 

 今オフ、球界を大きく騒がせたFAでの丸佳浩の巨人移籍、それにともなう長野久義の広島加入。今自主トレでは長野の姿を見ることはできなかったが、もともと実績のある選手である。終結した首脳陣たちも「シーズンが始まれば相応の結果は残してくれるはず」という確信に近いものがあるはずだ。むしろ長野以上に注目していたのは新人選手たちの現状ではないだろうか。 

 長年、広島のウィークポイントは左腕投手と言われる。確かに18年、先発ではクリス・ジョンソン、ブルペンではヘロニモ・フランスアしかコンスタントな活躍をした左腕はいない。しかし床田和樹、高橋昂也、高橋樹也、戸田隆矢など1軍経験も能力もある若い投手はいる。結果には結びついていないといえ、決して悲観することはない。 

 逆に広島は野手、それも二遊間に関して将来に多少の不安を抱えている感がある。現在、二塁・菊池涼介、遊撃・田中広輔という球界を代表する2人を有する。しかし菊地は昨オフの契約更改時、「ポスティング制度でのメジャー挑戦」を直訴。田中も順調なら20年中に国内FA権を取得する。センターラインがいなくなる可能性も否定できない。 

 また二遊間のみならず、三塁、一塁を含めても、長い期間、実は高卒選手が何年間も試合に出続けるような内野の不動のレギュラーに定着していない。移籍した丸や4番の鈴木誠也も高卒ながら外野手。そういった意味でも守れるだけでなく、打てる高卒内野手の登場に期待もかかる。18年ドラフトで指名した7人のうち3人が高校生内野手。これらを見ても現状が見て取れる。 

3位・林晃汰、7位・羽月隆太郎の大いなる可能性

 堂林翔太が三塁などに起用されていた時期があった。17年は安部友裕がポジションをつかんだように見えたが、18年には成績不振とケガに見舞われた。実際、広島に関して高卒で内野手のレギュラーに定着した、と言えるのは00年代の東出輝裕打撃コーチまでさかのぼらないといけない。 

 他球団に目を移すと、年齢はまちまちであるが活躍している高卒内野手は何人もいる。巨人・坂本勇人、岡本和真、ヤクルト・山田哲人、ソフトバンク・今宮健太、西武・中村剛也、楽天・浅村栄斗、日本ハム・中田翔など球界を代表する選手も多い。 

 広島にも高卒内野手として期待されている庄司隼人や桑原樹、そしてソフトバンクから18年途中に移籍してきた曽根海成らがいるが、未成熟な状態。新入団の3人は彼らとの競争にも打ち勝たねばならないが、入団時から評価が非常に高く、期待値が大きいのが伝わってくる。 
 
 メディアを騒がせ、4球団競合したドラ1指名・小園海斗の評価が高いのは当然。ただ、自主トレ段階とはいえ、3位・林晃汰、7位・羽月隆太郎に首脳陣も大きな期待を寄せていた。
 
「昨年までは2軍担当だったので若い選手もたくさん見た。もちろん、まだ高校生というのを差し引いても林と羽月は良さそう。林の下半身はかなり鍛えられている感じがする。また羽月のスピードは現時点でも素晴らしい。タイプは違うけど、スピードだけでいえば小園より上なんじゃないかな」 

 山田和利内野守備走塁コーチは、瞬発系サーキットや捕球練習をおこなう2人を見ながら語ってくれた。 

「素材が素晴らしいのはわかっている。今後、高校を卒業して寮に入って野球に没頭する。食生活やウエイトもやって、身体がプロ仕様になる。そこから自分の真のプレースタイルを見つけていくことになるんじゃないかな。もちろん呑気なことも言っていられないけどね」

林は長打、羽月はスピードに注目

「長打を打てるのがアピールポイント。本塁打は理想の形。それを打てるのは一番良いこと」と話す林は名門・智弁和歌山高で1年夏からベンチ入りし、春夏3度の甲子園出場。高校通算49本塁打。金属バットとはいえ甲子園で逆方向へ2本塁打を放っている。182センチ、88キロと現時点でも恵まれた身体をしており、「3冠王をとりたい」というコメントからも志の高さが伺える。
 
 また、「トリプルスリーを目指したい。特に盗塁数は30ではなく、40、41と伸ばしていきたい」 と話すのは羽月。167センチ、70キロは新人選手の中でもひときわ小柄に見えるが、50メートル5秒7というスピードはすでに1軍クラス。ところが本人からトリプルスリーという言葉が出たのには驚かされた。「1軍昇格はやはり今年が良い。足で魅了できる選手になれれば」。17年夏の甲子園で2三塁打を放った足に新たなものを加える気持ちがあるのだろう。

 たまたまこの日、メニューに打撃練習は入っておらず、視察に訪れた3軍統括コーチの浅井樹は「今日、打撃はしないのか? なんだつまんない」と笑っていた。新人の打撃を見るのが楽しみでしょうがないようだ。

「もちろん映像では見ていますけど、現状の打撃を知っておきたい。林は大きく育ってほしい、松山竜平のようなイメージかな。羽月はやはりスピードが武器になるんじゃないかな。広島らしいタイプというか、うちの野球にマッチしそうなのでプロに慣れればチャンスも多いと思う」

「でもまだ高校生ですからね。気持ち的にも高まっているから、オーバーペースにならないようにこっちは気につけないといけない。小園ももちろんですが、どこまで伸びるのか楽しみでしょうがない」

 年明け早々、都内でおこなわれたNPB新人研修会に同行したカープ球団関係者は「まるで遠足や修学旅行ですよ。引率の先生の気分です。まぁ、まだ高校生ですからしょうがないですけど……。でも可愛いですよ(笑)」と思い出し笑いで語ってくれた。 

 強豪チームの新人、数年前までとは比較にならないほど注目度は高い。連日のようにメディアやファンからも声をかけられる。これまでの普段の生活では経験したことのないことだろう。だがこれからはこれが日常。自らを見失うことなく、真っ直ぐ、愚直に進んでいくこと。それこそが遠回りに見えながらの成功への近道、球団関係者の願いである。

 瀬戸内は冬でも日差しが眩しく、林と羽月の2人も大粒の汗を流していた。戦いの舞台は高校野球からプロへ変わるが、前を見据える表情は以前と変わらず、まるで季節外れのひまわりのように輝いて見えた。どこまで成長し、どんな選手になっていくのだろうか。

 大人のトビラを開けた夏の少年たちを、合宿所に対面する世界遺産・宮島が見守っている。熾烈な競争がいよいよスタートだ。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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