ブラジル、ロシアとワールドカップのたびに貧乏旅行を続けてきたサッカー大好き若手芸人の私、カカロニ菅谷。
そんな貧乏芸人の筆者が「どうしても日本代表がタイトルを獲るところを生で見たい」との思いから、日雇いバイト終わりにアジアカップを参戦するべくUAEに降り立ち、準決勝の2試合、そして決勝を現地で観戦しました。
しかし結果は周知の通り。日本代表はカタールの前に1-3で屈し、準優勝に甘んじました。
ブラジルの新聞は自国開催のワールドカップでドイツに負けた際、新聞の見出しを全て白紙で世に出したそうです。
言葉がない――記事を書く気力がない。
解釈はそれぞれですが、「さすがはサッカー王国のブラジルだ」と日本でも話題になりました。
僕も今日この記事でそれをやろうかと思いました。サッカーをこよなく愛する『Qoly』の読者であれば、それもまた許されるのではないかと。
しかしアジアカップでそれをやってしまうと、「こいつ負けるたびに白紙の記事送ってくるな」と思われかねません。
今後も良好な関係を築いていきたい『Qoly』さんからも仕事がもらえなくなりそうなので、ちゃんと書きます(笑)
写真ではこんな顔をしていますが、メンタル的なことで言えば、ワールドカップでベルギーに負けた時と比べるとだいぶ元気なので、「白紙の記事」はワールドカップで負けた時まで温存しておくことにします。
正直、勝てると思っていました。
準備に労力を費やせば費やすほど、負けることを想像できなくなるのは「アウェー観戦あるある」です。
僕の中では「アジア最強」と言われたイランを倒して、開催国のUAEを完全アウェーで破って優勝。
そんな理想的すぎるドラマを想像していました。
なぜなら、借金寸前まで有り金を叩いて苦労してUAEに来たわけですから…。ちなみに、帰国して3時間半後にはバイトが待っています(笑)
さて、ここまで16得点0失点の6戦全勝という驚異的な勝ち上がりを見せてきたカタールを完全にノーマークにするほど、「日本代表の勝利」を確信していた菅谷は、昼にドミトリーを出てスタジアムへ向かいました。
ご存知の方も多いかと思いますが、UAEはカタールと国交が断絶中です。
僕自身も準決勝後からは日本では見たことがないほど、心の底からの両国間の不仲を感じました。
街を歩けば、「カタールには絶対勝ってくれよ!」と声をかけられ、子供からも「カタールが嫌いだから日本に勝ってほしい!」と言われる始末。「小さいころからそのように刷り込まれているんだろうな」と悲しさを感じるほどでした。
そんな中でも、スタジアムに着くと数人のカタール人の姿が。彼らはカタールのウェアを着て大会を存分に楽しんでいるようでした。
またこれは余談なのですが、会場に訪れていたイラン人からも話しかけられました。
「お前、こいつか?」と。
ケータイを見ると、画面の中で僕が何かを喋っています。
その動画は、アル・アインでのイラン戦後にイランサポーターに言われるがままに向こうの言葉を復唱した動画でした。僕はこの日、3人のイラン人からそれを見せられました。
ちなみに、僕は同じ動画を実は3日前にもカタール対UAEの会場で見せられています。
話を聞いてみると、僕は『Tik Tok』のイラン版みたいなやつでめっちゃバズっていたようです(笑)
「おそらく汚い言葉を言わされてるはず」と予想がつくので、通常の人間なら嫌な気持ちになるのでしょうが、僕は動画内の僕が服を着ていたことに最低限の安堵をしていました。
「国際大会の度にどっかでバズる」という稀有な特殊能力をなかなかお笑いに活かせないのが悩ましいですが…。
話がちょっと横道に逸れたので戻します。いよいよ試合は開門の時間へ。
手荷物検査では、今日の日付と両国のエンブレムがプリントされたタオルマフラーを没収される(片方のチームの応援グッズじゃないからダメだそうです…理解に苦しみますが)など、厳しく取り締まっていました。
持ち込み禁止だったはずのペットボトルが、カタール対UAEの試合でガンガン投げ込まれた影響でしょうか。
入場ゲートをくぐると、そこには軽食屋や屋台カーによるコーヒー販売など、準決勝よりも遥かにお祭り感の強い空間が広がっていました。
クラブミュージックが重低音で流れるブースでは、外国の音楽の合間に米津玄師の曲も。彼もまた日本代表に選出されたということでしょう。
そして、いざスタジアム内へ。
エミレーツ航空の便が雪によって欠航したことで、多くの日本人が予定通り出国できなかったとの話も聞いていましたが、それでも明らかにこれまでより多くの日本人がスタジアムへ訪れていました。
会場は「日本の完全ホーム」かと思いきやフラットな目線で見ている方が多かった気がします。
日本側にホーム感があるわけでもなく、かたやカタールにもヒール感を感じることはありませんでした。
「日本のホーム感もカタールのヒール感もない…」。
少し意外でしたが、冷静に考えれば、それも頷けます。
カタールはグループリーグでサウジアラビアを撃破して3連勝で首位通過したチーム。
さらにワールドカップ常連国の韓国、ホスト国UAEを完全アウェーの環境の中で見事破り、決勝の相手は、アジアで唯一ワールドカップで決勝トーナメントに進出した日本です。
この流れは、まさに主人公のためのストーリーなんですよね。周囲が自ずと応援ムードになるのもわかる気がします。
悔しいですが、我らの日本は「主人公」ではなく「ラスボス」の役回りになっていました。
そこにきて、あのオーバーヘッドでの先制ゴール。完全に空気を持っていかれたと言わざるを得ません。
さらに印象的だったことは、カタールがいい意味で「中東的ではなくなっている」という点です。
守備は最後の最後まで統率が取れ、なによりとてもフェアで、試合終了間際でも時間稼ぎをほとんどしませんでした。
2トップを軸とした戦術面を含め、今大会のベストチーム、優勝にふさわしいチームだったと言えるのではないでしょうか。
他の中東勢もそうですが、ただ引いて守るのではなく時間帯によっては前からプレスをかけたりと「挑戦する意思」が感じられました。
サウジアラビアもまだゴール前の崩しの部分に課題はあれど、ポゼッションを徹底したりと数年前に日本代表が取り組んでいたような課題を取り組んでいるように見えましたし、今大会は、アジア全体のレベルの向上が顕著に感じられた大会になったように思います。
まぁ、僕はスタジアムで「冷静さゼロ」の状態で見ているので、堂々と評論できる立場ではありませんが(笑)
そして、激闘は終了。
カタール代表には会場中から大きな拍手が贈られました。
そこにブーイングする人はおらず、UAE人のサポーターですら彼らを称えていました。
またカタールの選手は会場を一周する際、拍手をする我々日本サポーターに気づくと足を止め、こちらの方に深く頭を下げてくれました。
憎しみやライバル関係がもたらす「殺伐感」はサッカーの面白さの一つですが、試合や大会が終われば、このようにハッピーな空気になれるもサッカーの素晴らしさであると思います。
ちなみに試合後の僕はどうだったかと言うと、(大人な)日本サポーターの方々に誘っていただき、ヒルトンホテルでお酒をご馳走になりました(笑)
久しぶりにビールをたっぷりと飲みながら「また4年後にタイトルを獲る瞬間を見に来よう」と、アジアカップに再び挑戦する理由が出来たことを嬉しく思うのでした。
帰国の3時間半後からはバイト生活が待っていますけどね(笑)
全ては4年後のために!
文:カカロニ菅谷