山形で受け継がれる宝の絵・・・民教協スペシャル 「想画(そうが)と綴(つづ)り方(かた)」が示す戦争、国家、教育の矛盾

山形で受け継がれる宝の絵・・・民教協スペシャル 「想画(そうが)と綴(つづ)り方(かた)」が示す戦争、国家、教育の矛盾

力強く生き生きと描かれた絵。昭和初期、山形県の農村の児童が描いたもので、自分の身の回りをありのままに描く「想画」と呼ばれています。山形県東根市の長瀞(ながとろ)小学校には、これらの生活画925枚が有形文化財として大切に受け継がれてきました。今年、第33回を数える「民教協スペシャル」は、全国的にはあまりに知られてこなかった「想画」と、その指導をした青年教師の物語。山形放送制作の「想画(そうが)と綴(つづ)り方(かた)~戦争が奪った子どもたちの“心”~」は2月9日(土)または11日(月)にテレビ朝日ほか全国の民教協(公益財団法人民間放送教育協会)加盟33局で放送されます。

昭和初期の日本では手本通りに写す図画指導が施されていましたが、長瀞小の教師たちは自分の目で社会を見つめ、得られた感動を表現する教育を進めていました。昭和5年(1930年)に赴任した教師・国分一太郎(のちに児童文学者)の指導のもと「想画」と詩や作文を書かせる「生活つづり方教育」は校内に根付き、やがて全国の「想画教育三大校」と呼ばれるほど成果を上げていきました。しかし、しのびよる戦争の影により国の統制が強まっていく中、つづり方教育に関わる全国の小学校教師たちが治安維持法違反で次々に検挙されるようになりました。そして国分も山形県警特高課に検挙されてしまいます。

番組を指揮した伊藤清隆チーフディレクター(取締役 報道制作局長)は「今の日本にこんなに生活を豊かに表現できる子どもたちがいるだろうか。描かれたのは昭和の初期、戦争に向かうころで、農村は疲弊し、山里では娘の身売りが相次いでいました。そういう時代に子どもたちが何を見つめて何を思っていたのか、その答えが学校に残されていました」とタイムカプセルに例えました。一方でこれを指導した教師を罪人にしてしまった歴史の事実に対し、「それはどういうことなのか? 忖度(そんたく)とか空気を読むとか、ネトウヨとか息苦しさが増している日本で、明るく伸び伸びと表現することの素晴らしさを共有したい。そして、それを阻むものを許してはならないのではないか」と制作への思いに力を込めました。

現場で取材した熊坂太郎ディレクターは、国分先生の血の通った教えの大切さを強調。中でも「悲しいことや苦しいこと、くやしいことに目を向けることが今こそ大事だと伝えたい。そして、家族や友達など、人に目を向けること、人を思いやること、人と人が力を合わせること、生の人を見るということの大切さを考えるきっかけにしてほしい」と、若い世代にも訴えかけています。

応募32作の中からこの作品を最優秀企画に選んだ審査員の一人、写真家で作家の星野博美氏は、これまで民教協スペシャルでは戦争で起こったことを検証したり、自分の家族が関わった戦争を家族の目線から反省したりしてきたと振り返り、「今回は過去を描きながらもまるで未来を見ているようだ。今も起きている進行形を見ている気がして、とても新しい切り口を見せていただいた。山形の一つの地域で、村の人たちがみんなで大切にしてきた思い出を通してすごく大きな、現在性のあるテーマを描いてくれたと思います」と称賛のコメントをしています。

番組内に登場する90歳を過ぎた教え子たちは皆、恩師・国分一太郎の教えを今なお鮮明に記憶し、忘れることのない思い出としてうれしそうに語っています。長瀞地区では、児童が生活の様子を俳句に詠み、それを絵にして灯ろうを作る特別授業が現在も続いています。毎年お盆の夜に長瀞二の堀を淡く彩る絵灯ろうは夏の風物詩になっています。

「第33回 民教協スペシャル『想画(そうが)と綴(つづ)り方(かた)~戦争が奪った子どもたちの“心”~』」


■制作/山形放送 ナレーター/余貴美子
ディレクター/奥山剛 熊坂太郎 プロデューサー/伊藤清隆 雪竹弘一
*山形県東根市の長瀞小学校では、昭和初期に児童が自分たちの暮らしをありのままに描いた「想画」が受け継がれている。当時、手本通りに写す図面指導がなされている中、長瀞小の教師・国分一太郎は、児童の目を生活に向けさせる詩や作文を書く「生活つづり方教育」を「想画」とともに実践していた。しかし国の統制が強まる中、綴り方教育に関わる教師たちは治安維持法違反で検挙されていく。

[放送スケジュール]
2月9日(土)
ABS 秋田放送/午前10:30~11:25
YBS 山梨放送/午前10:30~11:25
テレビ朝日/午前10:30~11:25
SBS 静岡放送/午後4:00~4:55
JRT 四国放送/午前10:30~11:25
RKC 高知放送/午前10:30~11:25

2月11日(月)
HBC 北海道放送/午前10:25~11:20
RAB 青森放送/午前10:30~11:25
IBC 岩手放送/午後2:50~3:45
YBC 山形放送/午前10:25~11:20
TBC 東北放送/午前10:25~11:20
FTV 福島テレビ/午後2:55~3:50
BSN 新潟放送/午前10:25~11:20
KNB 北日本放送/午前10:30~11:25
MRO 北陸放送/午後2:48~3:53
FBC 福井放送/午前9:55~10:50
SBC 信越放送/午前10:25~11:20
メ~テレ/午前10:25~11:20
ABCテレビ/午前10:25~11:20
NKT 日本海テレビ/午前10:30~11:25
BSS 山陰放送/午前10:30~11:25
RCC 中国放送/午後1:55~2:50
KRY 山口放送/午前9:30~10:25
RNC 西日本放送/午前10:25~11:20
RNB 南海放送/午前10:30~11:25
RKB 毎日放送/午後1:55~2:50
NBC 長崎放送/午前9:55~10:50
OBS 大分放送/午後2:50~3:45
RKK 熊本放送/午後2:50~3:45
MRT 宮崎放送/午前9:55~10:50
MBC 南日本放送/午後2:50~3:45
OTV 沖縄テレビ/午後3:55~4:50
RBC 琉球放送/午後2:50~3:45

Y・I


株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事制作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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