「メールは電話の代わりにならない」、聴覚障がい者が訴え

メールと電話の違いを説明するIGBの伊藤理事長

NPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB/横浜市)は2月2日、ユニバーサルマナーに関するセミナーを開催し、「メールは電話の代わりにならない」として電話リレーサービスの必要性を訴えた。同サービスは、聴覚障がい者と聴者がリアルタイムでやり取りできるように、通訳オペレーターが「手話や文字」と「音声」を通訳する仕組みだ。損害保険ジャパン日本興亜は2017年9月から自動車保険の事故対応に同サービスを提供している。(オルタナ編集部=吉田広子)

内閣府の調査によると、日本で障害者手帳を持つ聴覚障がい者数は約35万人だが、難聴や高齢者など聴覚に障がいを持つ人を含めると、その数は約1400万人(人口の11%)に上る(日本補聴器工業会調べ)。

自身もろう者であるIGBの伊藤芳浩理事長は2011年、大手IT系企業に勤める傍らIGBを設立。電話リレーサービスの公共サービス化に力を注いできた。電話リレーサービスは世界25カ国以上で公共サービス化しているものの、日本では一部の民間サービスのほか、日本財団がモデルプロジェクトとして実施するにとどまっている。

だが、ようやく実を結びはじめ、2018年11月7日に開かれた参議院予算委員会で安倍首相が「電話リレーサービスは重要な公共インフラで、検討を進める」との意見を表明した。これを受け、「電話リレーサービスにかかわるワーキンググループ」が発足し、2019年1月24日に第1回が開かれた。

電話が使えないとなぜ困るのか

「電話が使えなくてもメールやファクスがあるのではないか、とよく言われる。しかし、実際には、予約や問い合わせなど電話対応のみのところも多い。仕事上でも電話であればすぐに済む用件も、メールだと何往復もして一週間かかってしまうこともある」(IGBの伊藤理事長)

IGBの調査によると、電話が使えなくて困ることとして、「緊急連絡ができない」が37%、「リアルタイムで会話できない」が30%、「電話しかないところに連絡できない」が21%、「本人確認ができない」が11%に上る。

緊急時も大きな問題だ。警察や救急など、メールやファクスで連絡する手段はあっても、一方通行なのでリアルタイムで細かい説明をすることが難しい。消防庁は「Net119緊急通報システム」の導入を進めているものの、運用している地域は限られる。

ミライロの薄葉さんは、「日本が100人の村であれば、障がい者は7人、左利きは10人、高齢者は28人いる」と説明した

ミライロ(東京・渋谷)の薄葉幸恵さんは「音声情報を取得できないことで、災害時の避難情報や車のクラクションにも気付けない。逃げ遅れるかもしれないという命の危険もある」と話す。

薄葉さんは幼少期に重度の肺炎に罹患したことが原因で、20年以上かけて徐々に聴力を失った。「障がいは人の内部にあるのではなく、自分と社会との間にあるもの。障がい(バリア)を価値(バリュー)に変えていけるはず」と力を込めた。

事故対応に手話通訳サービス

日本財団は2013年9月から「電話リレーサービス・モデルプロジェクト」を展開。通訳事業者10社・団体と連携し、午前8時から午後9時まで年中無休で実施している。利用件数は2万7000以上に上る。

民間事業者が独自に電話リレーサービスを提供する場合もある。損害保険ジャパン日本興亜は2017年9月、自動車保険の受付・初動対応コールセンターで、手話による事故対応を開始した。それまでは専用ファクスなどで対応していた。

損害保険ジャパン日本興亜はプラスヴォイスと連携し、手話通訳コールセンターを運営している

同社お客様事故サポート部特命課長の池田幸一さんは「当然、電話をかけてくるお客様は緊急時。手話通訳サービスを導入したことで手間や不安感を減らすことに役立った」と言う。「電話リレーサービスは通訳が間に入っていると思えないほど、会話がスムーズで違和感がない」と続けた。

IGBの伊藤理事長は、「自分の言いたいことが伝わらない、使う言葉が違う、耳が聞こえないなど、社会にはさまざまなコミュニケーションバリアがある。バリアがあることで、能力を十分に活用できなかったり、消費などの機会を損失したりしている。それは社会にとっての損失になる。コミュニケーションバリアを解消することの大切さを知ってほしい」と呼びかけた。

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