内外に方便

 「方便」という語を辞典で引けば「目的を果たすために用いる、かりそめの手段」とある。「うそも方便」と言うように「時と場合により、致し方なく持ち出すもの」といった含みがあるが、この感じはなかなか英訳しにくいかもしれない▲物は言いようとも、方便とも思えたが、米国民はどう受け止めただろう。トランプ米大統領は一般教書演説で、対立する民主党も含め超党派で「一つの国」を目指そう、と呼び掛けた▲数十年来の政治の行き詰まりは打破できる、連帯して解決策を見いだそう、と結束を求める言葉には、どうしても「この人らしからぬ感じ」を覚えてしまう▲国境の壁の建設を巡る党派対立がある。ロシア疑惑で追及の目が向けられている。内政で苦境に立たされた末、かりそめの手段、つまり方便として持ち出した融和策にも見える。民主党の諸君、歩み寄ったらどうだい? 争っても仕方ないだろう? と▲方便と思えることならば、もう一つある。2度目の米朝首脳会談の開催がきのう発表された。事前交渉はろくに進まないまま「まず会談ありき」の危うさを伴いながら▲内に向けては結束を。「対北」ではともかく会話を。内外に方便を用いて、うわべの緊張緩和を掲げているように見える人の、胸の内はどうだろう。内憂外患かもしれない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社