救援投手が先発マウンドへ MLBで流行の「オープナー制」は日本でも有効か

日本ハムでの起用法に注目が集まる金子弌大【写真:石川加奈子】

昨季レイズが採用した新たな継投策を日ハム栗山監督も導入検討?

 昨年末、日本ハムの栗山英樹監督が「オープナー制」の導入に意欲的であるということが報じられた。オープナー制とは昨季MLBの一部の球団において実践された、試合当初の1、2回を、従来のリリーフ投手が担当する戦術だ。それ以降のイニングは従来の先発投手が引き継ぐのが基本的なパターンとなる。この試合当初に登板する投手の役割をオープナーと呼び、栗山監督は新入団の金子弌大のオープナー起用も検討するというのだ。

 MLBでこの戦術をはじめに導入したのはタンパベイ・レイズ。レイズは昨季の開幕当初、失点の多さに苦しんでいたが、オープナー導入以降は防御率を改善させ、この戦術が有効であることを示した。

 オープナー制にはどういった狙いがあるのだろうか。その大きな狙いの一つは、リリーフ投手が初回を受け持つことで、それを引き継ぐ先発の負担を軽くするというものだ。ここでの負担は具体的に二種類に分けることができる。

(1)不安定な立ち上がりにおける上位打線との対戦の回避
(2)上位打線との対戦回数の減少

(1)については想像しやすいのではないだろうか。オープナーが初回を担当した場合、それを2回から引き継ぐ先発はよほどのことがない限り、打順が下位に向かうタイミングでマウンドに上がることができる。不安定な立ち上がりに、強力な打者が配置される1~3番との対戦を避けられることが負担軽減になるというわけだ。

(2)はどういうことか。5月19日のエンゼルス戦、レイズが初めてオープナーを採用した試合を例に説明する。この日は、オープナーのセルジオ・ロモが初回を三者三振に抑え、それを2回から受け継いだライアン・ヤーブローが8回途中までの6回1/3、打者23人を担当した。もしヤーブローが同じ投球イニング、対戦打者数を先発として担当していた場合、1回から7回途中までの23人を担当していたと仮定できる。

オープナー導入による「先発」の担当回の変化

 この2パターンの登板を、各打順との対戦回数という観点で見てみよう。従来のとおり、先発が初回から登板し23人の打者と対戦する場合、1番から5番打者とは3回、6~9番打者とは2回対戦することになる。しかしオープナーを起用した5月19日は、先発・ヤーブローの対戦は4番から8番打者と3回、1~3・9番打者と2回と、強力な打者が並ぶ1~3番打者との対戦を減らすことに成功している。

NPBではMLB以上に顕著? 先発投手の「周回効果」

 このように同じ打者との対戦回数に気を払う背景には、「Times Through the Order Penalty」と呼ばれる考え方がある。日本語訳すると「打順の周回による投手への不利益」。試合中に同じ打者との対戦を繰り返すことで、次第に投手が不利になっていくというものだ。ここではこれを「周回効果」と呼びたい。分析により先発投手の周回効果が確認されることで、オープナー制が実現に至ったのだ。

 さてMLBで有効な戦術として流行しはじめているオープナーであるが、NPBでも同じように効果を挙げられるものなのだろうか。イラストは打順が一巡するごとにどの程度打者の成績が向上するのかを表したものだ。成績は出塁・長打両面を加味し、打席あたりの総合的な貢献度を測る打撃指標wOBA(weighted On-Base Average)(※1)で示している。高いほど投手がよく打たれていると考えてもらえればよい。

日本でもオープナーの導入は効果的であることが予想される

 2017-18年のNPBのデータを見ると、1巡目に.309だったwOBAは打順が一巡するごとに右肩上がりに上昇。3巡目では.342、4巡目では.345まで上がっている。先行研究で紹介された2000年前後のMLBのデータと比較してもwOBAの上昇具合は急になっており、NPBではかなり周回効果が強いことがわかる。日本でもオープナーが効果的にはたらく可能性を感じさせるデータだ。

オープナー制導入を検討すべきNPBの投手

 NPB全体という大きな視点で、打者が一巡するごとの成績の悪化を確認した。しかし個別の投手にまで踏み込んだ時、すべての投手の成績がこのように悪化しているわけではない。それぞれの投手で成績の変化にもムラがあるようだ。

 例えば広島の野村祐輔。昨季は打者1巡目のwOBAが.312、3巡目が.342と周回効果が大きかったが、2017年は1巡目が.317、3巡目が.277と、周回したほうがよく打者を抑えていた。

 これは、年度ごとに投手の傾向が変化しているというより、この成績自体に運の要素が絡んでいるためだ。そもそも打球が安打になるかどうかは運が大きく関わっている。この運が純粋な能力の上にノイズとして乗ってしまうため、それぞれの投手の周回効果が見えづらくなってしまうのだ。

 このため、あるシーズンで周回効果が大きいからといって、その投手が本当にそのような能力の投手であるかはわからない。1シーズンの周回効果を見て、すぐオープナーの導入に飛びつくのは危険である。

 イラストに挙げた小野泰己(阪神)と東浜巨(ソフトバンク)は、2017-18年の2年連続で周回効果(1巡目と3巡目の比較)が大きかった先発投手だ。この成績悪化も、周回効果ではなく打者3巡目での不運が2年続いただけという可能性はあるが、例として挙げておく。

2017~2018年、阪神・小野泰己とソフトバンク・東浜巨は特に周回効果が顕著だった

 特にオープナー制が効果的にはたらきそうなのは小野泰己だろうか。小野は1巡目から3巡目にかけてのwOBAの悪化が2017年は.047、2018年は.033と大きい。昨季後半戦11度の先発で6イニング以上に到達したのがわずか2度と、深いイニングまで投げることができなかったのはこれが原因だろう。

 東浜巨は小野以上にwOBAの悪化は大きいが、2017年に関しては悪化した3巡目でも.305と、NPB平均の.323より打者を抑えることに成功している。このように周回効果がある先発投手でも、そもそもその投手がハイレベルな場合、あえてオープナーを導入する効果は小さくなる。ローテーション中位~下位の先発投手の登板試合で、その投手の周回効果が大きい場合においてオープナー制は効果を発揮しそうだ。

(※1)wOBA(NPB版)={0.692×(四球-故意四球)+0.73×死球+0.966×失策出塁+0.865×単打+1.334×二塁打+1.725×三塁打+2.065×本塁打 }÷(打数+四球-故意四球+死球+犠飛)(DELTA)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1・2』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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