【平成の長崎】長崎奉行所芝居組座長・副座長 本山善彦さん(72)、早苗さん(66) 笑い、涙「お裁き」5000回 平成26(2014)年

 長崎歴史文化博物館(長崎市立山1丁目)で寸劇を上演している「長崎奉行所芝居組」を夫婦で率いて8年余。2,013年11月、上演回数が通算5000回に達した。
 2,005年11月3日の歴文博開館以来、土日祝日と正月三が日に一日5、6回の上演を続けてきた。「本当に素晴らしいのは私たちじゃなく、ボランティアでやってくれているみんな」。座長の本山善彦さんと副座長の妻早苗さんが10人のメンバーに感謝する。
 寸劇は江戸時代の長崎で起きた事件を記す「犯科帳」が題材だ。復元した長崎奉行所の御白洲(おしらす)を舞台に笑いあり、涙ありの芝居で奉行の「お裁き」を再現する。国内博物館では唯一の取り組みで今やすっかり歴文博の名物になった。
 三菱重工長崎造船所勤務の傍ら役者として長年活動し県演劇界を引っ張ってきた善彦さん。歴文博の開館前に「寸劇で歴史を再現したい」と県に直談判した。開館1カ月前にメンバーを急募。音響や照明は主宰する「劇団ちゃんぽん」の機材を提供して「初舞台」を迎えた。
 集まったメンバーは素人。演技指導はむろん、化粧、かつら付け、着付けまで夫婦2人で世話を焼かねばならず舞台裏は怒声が飛び交った。早苗さんは「忙しくてピリピリしていた」と振り返る。
 メンバーが慣れ、ようやく軌道に乗りかけた2年目の2,006年9月、最大の危機が訪れる。善彦さんが脳梗塞で倒れた。
 自宅で異変を感じ受診した善彦さんは「命が危ない」と診断されて即入院。右半身が動かず言葉も出てこない。医師は早苗さんに「今後舞台に立つのは無理」と告げた。
 ところが、ベッドに伏したままの善彦さんが無意識に、まるで「芝居をやめるな」というような合図を左手で早苗さんに送った。驚いた早苗さんが上演を予定していた新作の台本を見せると、言葉にならない声でせりふを読み始めた。
 善彦さんの様子を伝え聞いたメンバーは「座長が戻るまで頑張る」と奮起。全員が芝居や裏方にかいがいしく動き回った。早苗さんは「一気に結束が固まった」と語る。
 善彦さんは懸命のリハビリを続け、半年後には医師が「数百人に1人」と驚く奇跡的な回復を見せた。以前と同じ奉行役で舞台復帰を果たし20分の芝居を見事演じきった。舞台裏では、早苗さんが止めどなく感動の涙を流していた。
 「よう続いたよね」としみじみ話す夫婦。「演劇で故郷を盛り上げたい」との志がロングランを支えている。
 雨の日も風の日も、観客がいる限り寸劇は続く。
 「これにて一件落着!」。奉行が締めると、観客が「お約束」の掛け声を飛ばす。
 「いよっ 名奉行!」
(平成26年1月12日付長崎新聞より)
   ◇   ◇   ◇
【平成の長崎】は長崎県内の平成30年間を写真で振り返る特別企画です。

「芝居に関しては互いに意見を言い合う」と話す本山夫妻=長崎歴史文化博物館

© 株式会社長崎新聞社