明治期の風情、今に 湯河原・富士屋旅館 休業経て17年ぶりに開業

 江戸時代創業「富士屋旅館」(湯河原町宮上)が17年の休業を経て9日、再び開業した。温泉街の伝統と風情を生かし地域活性化を図ろうと、官民5者が連携し実現。明治や大正期の建物の従来の外観を残しつつ設備は全て改修し、旅館関係者は「新旧時代のコントラストを楽しんでもらえたら」と話している。 

 改修を手掛けた際コーポレーション(東京都目黒区)などによると、富士屋旅館は湯河原温泉を代表する宿の一つとして知られていたが2002年に閉鎖。同町はまた、観光客がピーク時の1990年から半数以下に減るなどしていた。

 県内で観光活性化のモデル作りを模索していた地域経済活性化支援機構(REVIC)、横浜銀行はファンドを設立。2017年3月、同町などを交えた計5者で協定を締結、同町・温泉場地区の象徴的存在だった同旅館の再生を核に同地区全体の活性化事業を開始した。

 当初18年春の開業を予定したが、17年夏に実施した調査解体で、長い休業の間に生じた建物の激しい傷みが発覚。計画を練り直し18年5月に着工した。

 工事では、同旅館を象徴する明治・大正期の建築意匠の風情が味わえるよう梁(はり)や欄間、窓ガラスの一部を修復し再活用するなど、建具をできるだけ残した。一方、床や天井が抜け落ちたり壁がはがれたりと傷みが激しく、全体で50~70%程度を入れ替え今月、開業にこぎ着けた。

 旅館は新館、旧館、洛味(らくみ)荘の計3棟で構成し、計18客室のうち8室は温泉付き。レストランではウナギ料理や、小田原漁港で揚がったキンメダイ、地場産野菜を使った料理などが振る舞われる。

 9日の開業セレモニーで、運営も手掛ける際コーポレーションの中島武社長は「日本の文化が消えるのはもったいないと苦渋の決断で再生したが、やってよかった」とあいさつ。冨田幸宏町長は「住民は開業を喜び心から歓迎している。新たなスタートを応援してもらえたら」と話した。

 予約受付とレストランのオープンは16日からで3月1日頃から本格稼働する。1泊朝食付き1万8千円~4万円(開業記念価格)。

休業を経て今月再び開業した富士屋旅館=湯河原町宮上

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