松崎 悠希 / Yuki Matsuzaki 俳優
世界の役者が目指す最高峰の舞台、ハリウッド。映画であろうとドラマであろうと、アジア人俳優が成功するのは難しい。松崎悠希さんはその厳しい状況においてオーディションを勝ち抜き、『ラスト・サムライ』『HEROES』『パイレーツ・オブ・カリビアン』など有名作品への出演を果たしている。自身はその〝勝因〟が英語力にあると分析する。
映画俳優を志して渡米したのは2000年。はじめはニューヨークに滞在し、所持金すべてを盗まれホームレスになるという衝撃的な体験を経て、1年後にロサンゼルスへ移った。渡米から6年ほど経ったある日、英語の壁にぶつかる。
「外国人俳優が米国で活動するには、まず語学は必要不可欠。台本にある日本語のセリフを直したり、翻訳したりすることが必要になることもあり、そういった変更について交渉し説得する英語力が求められる」と気づき、本格的なスキルアップを決意した。もともと「こだわってとことんやる凝り性」という性格の持ち主。辞書をまるごと暗記するなど徹底的に勉強するうちに、日本人俳優が米国で活躍できない原因の一つが英語のイントネーションにあると気づき、研究を重ねた松崎さんは役によって異なるイントネーションやアクセントを使い分けられるようになった。
これを生かして役を得たのが『ミュータント・タートルズ』。同作では古い英語に日本語のアクセントを加えた「サムライが英語をしゃべったらこうなる」という独自のアクセントを生み出した。映画『オセロさん』ではシェイクスピアの堅いセリフに日本語のアクセントを加えた英語を使いこなし、主役に抜てきされた。高い英語力を身につけることで演じられる役の幅も広がり、アジア系アメリカ人の役もこなすようになった。
まだまだ差別を感じるというアメリカの撮影現場において、演技以外で松崎さんが力を入れるのは「間違った日本人像を改善していくこと」。ステレオタイプの日本人像を実際の日本人に近づけたいと考える。身長183センチの松崎さんは「背が高すぎて日本人らしくない」という理由でオーディションに落とされることもあった。「外見だけではなく、習慣や文化についてのイメージを現実に合ったものにしたい」と、出演作品では正しい日本語が使われるよう自ら小道具を製作することも。軍事コーディネーターがいなかった『硫黄島からの手紙』では進んで資料の作成も行った。日本作品への出演経験もあるが「やりやすさは日本、世界的に日本文化を広められるものが多いからやりがいはアメリカ」。自由の国での挑戦意欲は増すばかりだ。