「曙ブレーキ工業グループ国内取引状況」調査

 1月29日、東証1部上場のブレーキ製造、曙ブレーキ工業(株)(TSR企業コード:290001102、法人番号:8010001034724、埼玉県羽生市)が北米事業の不振による業績悪化から、事業再生実務家協会に対し私的整理の一つである事業再生ADRを申請した。
 事業再生ADRは金融機関に借入金の返済猶予や減免などを要請し、一般取引先への直接的な影響はない。だが、金融機関との交渉による再建計画の進捗次第では、取引先の与信対応など間接的な影響が生じる可能性がある。
 東京商工リサーチ(TSR)では、曙ブレーキ工業と同社グループ(以下、曙ブレーキ工業グループ)と直接取引のある1次、間接取引の2次の取引先数を調査した。取引先総数は仕入先合計が1,703社(重複除く)、販売先合計は681社(重複除く)だった。
 曙ブレーキ工業グループと直接取引している1次仕入先は326社で、このうち製造業は176社(構成比53.9%)と半数を占めた。1次仕入先の本社所在地は、最多の東京都が76社(同23.3%)、2位の埼玉県が65社(同19.9%)と拮抗している。曙ブレーキ工業グループと直接取引のある1次仕入先では約6割、1次販売先では約4割が関東に集中している。
 また、資本金1億円未満(個人企業を含む)の中小企業は、1次仕入先の326社のうち、275社(構成比84.3%)、1次販売先117社のうち、95社(同81.1%)と、ともに8割を超えた。
 筆頭株主のトヨタ自動車(株)(TSR企業コード:400086778、法人番号:1180301018771、東証1部)をはじめ、国内外の多くの自動車メーカーと取引実績を持ち、中小の下請け先や外注先を数多く抱えているだけに、今後の手続き進捗が注目される。

  • ※本調査は企業情報サービス(tsr-van2)の企業相関図から、曙ブレーキ工業および同社グループの仕入先、 販売先を1次(直接取引)、2次(間接取引)に分け、業種、地区、規模などを抽出、分析した。
  • ※1次取引先は直接取引のある取引先、2次取引先は1次取引先と直接取引がある間接取引企業を示す。
  • ※曙ブレーキ工業のほか、2018年3月期の有価証券報告書に記載されている国内連結子会社8社、持分法適用会社1社(大和産業(株))の合計10社を対象とした。

1次販売先の最多業種は自動車部分品・附属品卸売業

 曙ブレーキ工業グループと直接取引のある1次仕入先は326社。産業別では、最多は製造業の176社(構成比53.9%)。以下、卸売業67社(同20.5%)、サービス業他25社(同7.6%)と続く。
 産業別で最も多かった製造業(176社)の業種別では、自動車部分品・附属品製造業が34社(構成比10.4%)で最多。次いで、金属工作機械製造業が9社(同2.7%)、金属プレス製品製造業が8社(同2.4%)、ボルト・ナット・ねじ等製造業が7社、配電盤・電力制御装置製造業とアルミ・同合金プレス製品製造業、機械工具製造業が各6社の順。
 また、2次仕入先は1次仕入先の4.4倍の1,441社だった。産業別では、製造業が最も多く690社(同47.8%)。次いで、卸売業560社(同38.8%)で、この2産業で8割を占めた。
 販売先では、1次販売先は117社、2次販売先は596社だった。産業別の最多は、1次販売先は卸売業57社(同48.7%)、2次販売先は製造業191社(同32.0%)となった。
 販売先を業種別でみると、1次販売先(117社)は自動車部分品・附属品卸売業(同39.3%)、自動車部分品・附属品製造業(同20.5%)で6割を占めた。2次販売先では自動車部分品・附属品卸売業(同10.7%)、自動車一般整備業(同10.4%)、自動車(新車)小売業(同8.5%)の順。

産業別 曙ブレーキ工業グループ国内取引状況

本社地別 1次仕入先は子会社がある埼玉県、岡山県、福島県が上位に名を連ねる

 曙ブレーキ工業グループの取引先を本社所在の地区別でみると、関東が1次・2次の仕入先、販売先で約半数を占めた。以下、1次仕入先は東北(構成比13.1%)、中国(同11.6%)、2次仕入先は近畿(同14.3%)、中部(同11.3%)。1次販売先は中部(同15.3%)、東北(同12.8%)、2次販売先は中部(同13.2%)、近畿(同11.2%)と続く。

 都道府県別では、1次仕入先の最多は東京都76社(構成比23.3%)。次いで、埼玉県65社(同19.9%)、岡山県29社(同8.8%)、福島県26社、群馬県23社の順。埼玉県、岡山県、福島県は、関連会社の曙ブレーキ岩槻製造、曙ブレーキ山陽製造、曙ブレーキ福島製造の本社工場があり、多くの取引先が存在することがわかった。
 1次販売先では、東京都が19社(構成比16.2%)で最も多かった。次いで、埼玉県14社(同11.9%)、神奈川県と愛知県が各7社(同5.9%)、大阪府と岡山県が各6社の順。

地区別 曙ブレーキ工業グループ国内取引状況

資本金別 1次仕入先は1億円未満が約8割を占める

 資本金別では、1次仕入先(326社)では、1千万円以上5千万円未満が188社(構成比57.6%)と最も多かった。1億円未満の中小企業は275社と、8割(同84.3%)を占めた。2次仕入先(1,441社)では、最多が1億円以上で639社(同44.3%)。
 1次販売先(117社)では、1千万円以上5千万円未満の60社(構成比51.2%)が最も多かった。次いで、1億円以上が22社(同18.8%)、5百万円以上1千万円未満が13社(同11.1%)と続く。1億円未満の中小企業は95社と8割(同81.1%)を占めた。
 2次販売先は、1億円以上が296社(同49.7%)で最も多かった。

従業員数別 1次仕入先は100人未満が7割超

 従業員数別でみると、1次仕入先(326社)は、最多が10人以上100人未満が161社(構成比49.3%)と、約5割を占めた。100人未満(不明含む)は250社と、7割(構成比76.6%)を超えた。2次仕入先では、10人以上100人未満が556社(同38.5%)と最も多かった。
 1次販売先(117社)は、最多が10人以上100人未満の53社(構成比45.3%)。100人未満は84社(構成比71.7%)を占める。2次販売先は500人以上が220社(同36.9%)で最多。

 曙ブレーキ工業は民事再生などの法的手続きではなく、私的整理の一つである事業再生ADRによる再建を選択した。2018年6月には田淵電機(株)(TSR企業コード:570115531、法人番号:3120001102037、東証1部)が関連会社とともに事業再生ADRを申請し、上場企業の申請は3社とも言われる。今後、金融機関と調整を図っていく。
 曙ブレーキ工業は今後の資金繰りについて、DIPファイナンスを受ける予定で当面の資金繰りに問題はないと説明する。曙ブレーキ工業は2月12日、2019年3月期第3四半期の決算を公表し、事業再生ADR手続きの対象となる全取引金融機関と第1回目の会議を開催する予定だ。
 事業再生ADRの成立には、取引金融機関30行以上のすべての合意が必要だ。一部金融機関は、すでに「債権の取立不能又は取立遅延のおそれに関するお知らせ」をリリースしており、足並みが揃うか注目される。仮に、全金融機関が合意できない場合、法的手続きも視野に入ってくる。
 2018年7月の産業競争力強化法の改正で商取引債権の優先弁済の考慮規定が盛り込まれたが、法的手続きに移行すると、一般債権者に影響が出てくる。主要取引先であり、株主でもあるトヨタ自動車など、曙ブレーキ工業グループの取引先の動向が注目される。

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