エボラ出血熱との闘いは今も続く 州都に近づく大流行【情報まとめ】

ブテンボのエボラ治療センターで防護服を装着するスタッフ © Alexis Huguet

ブテンボのエボラ治療センターで防護服を装着するスタッフ © Alexis Huguet

2018年8月にエボラ出血熱の流行宣言が出されたアフリカ中部、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)。6ヵ月が経った今も、現地では抑え込みができないまま、流行の中心地域が移動を続けている。国境なき医師団(MSF)はコンゴ保健省と協力して治療と感染制御に尽力しているが、現地の人びとの習慣や政治情勢、この地の地形も、活動を難しくしている。これまでの状況をまとめた。 

これまでの数字(2019年1月29日現在・コンゴ保健省発表)

合計症例数:736 件(確定例 682件、および ほぼ確実例54件※1)
確定例のうち、死亡した人数: 459人(確定例 405件、および ほぼ確実例54件)
MSFの受診者数合計:3292人
エボラ確定例のうちMSFによる治療を受けた患者数合計:321人
活動中のMSFスタッフ:合計200人 (北キブ州とイトゥリ州のエボラ・プロジェクト※2)

※1「ほぼ確実」は、この地域で亡くなった人のうちエボラ確定例と関連があったが埋葬前に検査できなかった人。感染が確定した患者はすぐにエボラ治療センターに移送されている。疑い例の段階でも、症状が重い人はエボラ治療センターに移送してより高度な治療を受けられるようにしている。
※2 この数にはMSFの医療機関で働く保健省職員は含まれていない。 

現地の概況と流行の移動

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北キブ州は人口密集地で、人口は700万人。うち100万人以上が州都ゴマに、また80万人ほどがブテンボで暮らしている。地形と道路状況が悪いにもかかわらず、住民は活発に移動し、商業も盛んだ。北キブ州は東側でウガンダと国境を接しており、国境の両側の地域では、住民が国境を越えて親戚に会いに行ったり市場に品物を売りに行ったりする習慣が定着している。

北キブ州は25年以上にわたり紛争が続いていて、推定100以上の武装勢力が活動している。拉致などの犯罪行為も比較的多く、武装勢力同士の小競り合いも地域全体でよく起きている。広い範囲で武力衝突が起きているため、住民は避難し、一部地域は立ち入りが極めて困難である。都市部の大半は比較的戦闘の影響を受けずに済んでいるが、保健行政区の中心地ベニでは何度も襲撃と爆発が起きており、MSFは何度か活動を制限せざるを得なくなった。

北キブ州は全面積の3分の1が採鉱地で、天然資源に恵まれた豊かな地域だ。一方で、野党が優勢な地域でもあるため、政治的な問題を抱えている。直近の選挙では、複数の地域で選挙が遅れるなどして、全有権者のうち10%しか民意を反映していないため、大きな問題となった。 

ブテンボのエボラ治療センターで亡くなった患者の棺おけを消毒するスタッフ © Alexis Huguet

ブテンボのエボラ治療センターで亡くなった患者の棺おけを消毒するスタッフ © Alexis Huguet

今回のエボラ流行は、まず人口4万人の小さな町マンギナで発生した。その後、流行は徐々に南に動き、約40万人が住む行政の中心地、ベニに移った。住民が頻繁に移動することもあり、流行はさらに南下して商業の中枢ブテンボに到達。近隣のカトゥワは2018年末新たな感染拡大地域となり、ここ3週間に報告された新規症例の65%(合計104件のうち68件)は、ここで現れている。また、さらに南に下ったカニャ地域でも症例が見つかっている。新規症例の一部は既に知られている感染経路と無関係で、接触先の追跡調査と流行の抑え込みがより難しくなっている。

流行の広がりは予測しづらく、小さな集落が各地に点在していることから、地域内のどこでも集団発生が起こり得る。このパターンだと、流行の終結はさらに難しくなる。新たな確定例が南に広がり続けていることから、流行が州都ゴマに達する恐れもあり、これも懸念されている。

これまでに、北キブ州とイトゥリ州内にある18の保健区域(イトゥリ州:コマンダ、マンディマ、ニャクンデ、チョミア/北キブ州:ベニ、ビャナ、ブテンボ、カルングタ、カトゥワ、カイナ、キョンド、マバラコ、マングルジパ、マサレカ、ミュジヤンエーヌ、ムトゥワンガ、オイシャ、ヴオヴィ)でエボラの確定例、またはほぼ確実例が報告されている。 

情勢不安でエボラ治療が困難に

ブテンボ周辺の診療所で感染予防・制御のため消毒を行うスタッフ © Alexis Huguet

ブテンボ周辺の診療所で感染予防・制御のため消毒を行うスタッフ © Alexis Huguet

2018年12月、2年前から先延ばしにされていた大統領選挙が、予定されていた22日から30日に再び延期されることになった。この決定で国中に緊張が走り、ベニとブテンボなど、野党派の勢力圏は特に不穏な空気が強まった。12月26日、独立国家選挙委員会(CENI)は、ベニとブテンボのほか3ヵ所でさらなる延期を発表。エボラ流行が続いていることと、襲撃のリスクを理由として挙げた。これをうけて暴力的な抗議行動が発生。12月27日にはベニにあるMSFのエボラ一時滞在センターが、投石や機器の略奪などの被害を受けた。

抗議行動が行われていた当時、ベニの一時滞在センターにいた28人の患者のうち9人は自発的にセンターを離れ、18人が200mほど離れたエボラ治療センターに移送されたほか、1人は退院した。チームは一時的に退避し、患者のいないままベニ一時滞在センターは12月30日まで待機状態に置かれた。その後、活動を再開して現在では通常通り稼動している。

ベニ周辺の診療所では、MSFの感染予防・制御チームがエボラとみられる症状のある患者のスクリーニング、搬送や移送のサポートを行っていたが、こうした襲撃のため、住民は診療所にこられなくなり、疑い例をスクリーニングしたり移送したりできる病院や診療所が減ってしまった。情勢不安がピークに達した時期には、MSFはブテンボとカトゥワのエボラ治療センターもしばらくの間、活動を制限せざるを得なくなった。

スクリーニング、確定例の治療、接触先の特定も遅れたことに加え、感染予防・制御チームの活動が中断していた間に、周辺の診療所内で感染が拡大する恐れもあった。具合が悪くなった人は疑い例と分かるまでに2ヵ所以上の診療所を受診していて、その後エボラ治療センターに搬送されることが多い。だが一部地域では情勢不安のため、搬送にも影響が出ている。

※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること。 

MSFの役割

隔離病棟、移送と治療センター

ベニの一時滞在センター 高リスク区域へ入る前の準備室 © Gabriele François Casini/MSF

ベニの一時滞在センター 高リスク区域へ入る前の準備室 © Gabriele François Casini/MSF

MSFがベニに建設した隔離センターは、その後保健省への移譲を経てNGO団体の「アリマ」が受け持っている。アリマはここを改装して治療センターにした。2018年11月14日、MSFはベニに一時滞在センターを開院。疑い例の患者を対象に、1日あたり約30人を受け入れている。現在のベッド数は60床。患者の大半は疫学調査・監視チームから紹介されてきた人だ。 この一時滞在センターはアリマのエボラ治療センターから200mほどの場所にあり、確定例を救急車で移送する流れとなっている。陰性の人は地域にある他の医療機関に紹介し、受診を促している。また、MSFはニャクンデの病院や診療所と合意を結び、紹介した症例の経過観察も行っている。

ブテンボとカトゥワでは、MSFが運営しているエボラ治療センターが稼働中だ。2018年11月、推定人口80万人のブテンボは流行の「ホットスポット」となった。感染者の一部はベニと周辺地域から来ている。ブテンボ市の東側、カトゥワのエボラ治療センターは 1月3日に開院し、翌日から患者が入院している。2019年1月現在、両センターで合わせて96床が稼働している。 

ブニアの隔離センターで足の消毒を受ける女性 © John Wessels

ブニアの隔離センターで足の消毒を受ける女性 © John Wessels

2018年11月第1週、MSFはイトゥリ州ブニアの総合病院敷地内に隔離センターを開院。ベッド数は8床、玄関にはスクリーニング・ポイントを設け、1日に2000人余りを検査している。疑い例用の小さな隔離室も設置した。このセンターは現在も稼働中で、MSFの運営下にある。

2019年1月4日に、イトゥリ州ブワラ・スラで新たな確定例が出たと通報があったため、MSFはベッド数20床の一時滞在センターを開院した。このセンターは現在も稼働中で、MSFの運営下にある。また、1月22日にはカイナにベッド数10床の隔離センターを開院。同センターは間もなくエボラ治療センターに変わる予定。

2018年10月にイトゥリ州チョミアに開院したエボラ治療センターは、11月5日に保健省に移譲された。現在、センターで働く保健省職員を訓練して専門技術を教えているほか、ロジスティック面のサポートも行っている。マンギナのエボラ治療センターは当初68床だったが24床に減床。その後、12月7日に国際医療団体のInternational Medical Corps(IMC)に移譲し、現在MSFはマンギナでの活動を終了している。 

開発中の薬による治療

2018年11月21日、コンゴ保健省はエボラ治療の候補薬であるジーマップ、mAb114とレムデシビルの無作為臨床試験の開始を正式に発表した。前回の治療プロトコルは関係各所からの合意を得られなかったため、複数の重要事項について改善を必要としていた。解決が必要であったおもな課題は、例えば別の候補薬REGN-EB3をこの試験に加えることや、分析モデルの調整などである。12月24日、修正された治療プロトコルの新版が承認された。これまでのところ、この無作為臨床試験はアリマがベニで運営しているエボラ治療センターで行われている。MSFはこのプロトコルをブテンボとカトゥワのエボラ治療センターで実施していく。

MSFのエボラ治療センターでこの臨床試験を行えるようにするため、MSFは現在、スタッフを訓練している最中である。2019年1月30日にはブテンボで、2月初旬にはカトゥワでもこの臨床試験を開始できる見込みだ。 

緊急対応チームの活動

エボラ対応は、いかに素早く反応して調査し、活動の体制を組めるかが鍵となる。そのためMSFは、医師、看護師、給排水・衛生活動の専門家で構成される緊急チームを編成し、症例調査を行っている。2018年12月、2つ目の専門家チームを編成。チームリーダー、地域と連携する社会科学的調査専門家、疫学者と給排水・衛生活動の専門家がへき地の農村地帯で活動を開始した。チームは、トリアージ準備、消毒・除染・感染制御と地元の人びとへの情報発信を担い、できるだけ多くの症例を治療センターに紹介して感染拡大を食い止めようとしている。12月下旬に北キブ州で緊張が高まった際も、このチームが待機した。緊急対応チームは普段、エボラ感染が拡大しているブテンボ周囲の保健区域に近いカトゥワに拠点を置いている。 

予防接種

MSFは主に、医療従事者を対象に予防接種を実施。ウイルスと接する時間や機会が多く、感染リスクが高いためである。これまでに、イトゥリ州と北キブ州の州境地域と、ブテンボで感染リスクの高い人合計4800人余りがMSFによる予防接種を受けた。間もなく、ブニアでも実施される予定だ。 

今後のエボラ対応の課題

カトゥワのエボラ治療センター © Lisa Veran/MSF

カトゥワのエボラ治療センター © Lisa Veran/MSF

現状は、まだまだ警戒が必要だ。流行地の広がりは予測しづらく、小さな集団発生は域内のどこでも起こり得る。今回の流行で難しい点は、人の移動に伴って複数の流行が同時に別の場所で起きていることである。新たな「ホットスポット」が発生するたびに、現地住民と連絡を取り、人びとの信頼を得るために健康教育講習会を開いて、感染と治療ニーズに関する情報発信が必要となる。こうしたこと全てを、何もないところから始めなくてはならない。

ブテンボとカトゥワ、合計100万人以上が住む大都市圏で流行を抑え込む課題はまだできていない。治安の危険や路面状態が悪いことで立ち入りが難しい農村地域もある。流行と感染経路の全体像を把握するのはとても困難だ。

疫学チームはウイルスに接触した人の追跡調査と経過観察を続けている。これも一筋縄ではいかない。感染地の人びとは頻繁に移動し、仕事や家庭の事情で村から村へと渡り歩いている。具合の悪くなった人は、エボラの疑い例と分かるまでに2ヵ所以上の診療所を受診しているのが通常だ。病気のとき、あるいは死ぬかも知れないと思えば、生まれた村に戻りたくなる人もいる。

懸念されているのは、流行が人口100万人を超える州都ゴマに近づきつつあることだ。MSFは保健省と連携して状況のモニタリングを開始し、ゴマ市内でエボラ感染者が報告されたらすぐに治療センターを新設できるよう、準備を進めている。
 

MSFのエボラ対応の流れ

7月30日

北キブ州ベニ/マンギナのエボラ疑い例について連絡を受ける 

7月31日

ルベロで活動していたチームから、調査チームがコンゴ保健省に同行する形で現地に入り、調査を開始。  

8月1日

保健省がエボラ流行を宣言  

8月1~3日

保健省の基本計画に基づき、流行対応の準備をする。 

8月6日

隔離病棟をマンギナの拠点病院に設置。防護服装着方法や感染予防・制御、トリアージ※などの訓練を開始。(※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること)  

8月7日

国立医生物学研究所の遺伝子解析結果から、流行しているウイルスが、最も致死率が高いザイール株であること、2018年前半に赤道州で報告された菌株とは異なることが確認された。  

8月8日

WHOの監督の下、流行に対応する医療従事者への予防接種が始まる。 

8月13日

イトゥリ州マンバサで症例が発見され、MSFチームが現地に入る。 

8月14日

エボラ治療センターをマンギナで開院。37の疑い例と確定例が同日に入院。設計当初ベッド数は30床だったが、すぐに68床にまで増床。必要であれば最高で74床まで増床できるようになった。地域の診療所と、そのほか確定例を受け入れた診療所の除染・消毒も行った。 

8月24日

マンギナの治療センターで基準に該当する患者に治療薬の提供を開始。 

8月28日

マケケに一時滞在センターを開院。

9月2日

マンギナの南、ブテンボの町で疑い例が発見され、MSFが調査に入る。 

9月4日

ブテンボの症例が確定。 

9月5日

小規模な隔離センターの設置を始め、感染疑いの患者の搬送と、死亡例のあった地域の医療施設の除染を支援。 

9月8日

ブテンボで隔離センターを開院後、エボラ治療センター建設も開始。 

9月9日

緊急チームを北キブ州に派遣、ルベロ近郊のルオトゥ村で症例を調査。  

9月19日

マケケ一時滞在センターの活動を終了。  

9月20日

保健省と連携して、ブテンボにベッド数28床のエボラ治療センターを開院。  

9月22日

ベニで、ウガンダの民主同盟軍(ADF)とみられる勢力に攻撃を受け、少なくとも19人が死亡(うち14人は民間人)。エボラ対応が実質的に停止。  

9月24日

確定例2件の報告を受け、イトゥリ州アルバート湖付近にあるチョミアにチームを派遣。隔離室を設置し、保健省と共同でベッド数12床のエボラ治療センター設置を準備。  

9月27日

新規症例が出なかったことを受け、ルオトゥ村での活動を終了。 

10月12日

チョミアでエボラ治療センターを開院。 

10月17日

WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」にあたるか協議を開始。この時点ではPHEIC宣言は出さない決定。ベニで感染リスクの高い人医療従事者を対象にエボラの予防接種を開始。 

10月20日

ベニでADFによるとされる攻撃が再発。 少なくとも12人が死亡。また、報道によると10人がこのとき拉致された。22日には全ての活動を通常通り再開した。 

11月5日

チョミアのエボラ治療センターを保健省に移譲。流行症例数が300件に達する。 

11月7日

イトゥリ州ブニアにある総合病院の敷地内に隔離センターを開院。 

11月9日

流行による症例数が319件目に達し、国内で史上最大規模となる。 

11月15日

ベニに疑い例用の一時滞在センターを開院。 

12月7日

国際医療団体のIMC(International Medical Coorp)がマンギナエボラ治療センターの運営をMSFから引き継ぐ。 

12月27日

ベニとブテンボで選挙が延期になり、抗議行動が起こる。ベニ一時滞在センターを含め、市内でのエボラ対応が一時中断。 

12月31日

ベニ一時滞在センターの活動を再開。 

2019年1月4日

ブテンボ近隣のカトゥワでエボラ治療センターを開院。また、一時滞在センターをイトゥリ州北部にあるブワラ・スラで開院。 

1月15日

ルベロから車の4時間ほどのカイナ地方で新規3症例が見つかり、MSFは緊急チームを派遣して治療ユニット設置の準備を開始。 

エボラ流行に緊急対応中

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