現代社会映し出す 横浜能楽堂「昼ぬ修羅」展

 伝統的な日本画と現代的なモチーフを融合させた独創的な作品で注目を集める画家、山口晃(49)。横浜能楽堂(横浜市西区)を舞台に、新作絵画やインスタレーションを展示する「昼(ひる)ぬ修羅」展が開催中だ。海の藻くずとなって消える平家をイメージし、大小の波を表現する作品が並ぶ中、現代社会の危うさも随所で示唆している。

 2、3月の同能楽堂での公演「風雅と無常-修羅能の世界」に合わせ、テーマは「修羅」。修羅能とは主に「平家物語」を主題に、源平の武将を主人公とする能の演目。山口が手掛けてきた武士やバイクと合体した馬を共通点とし、能楽堂全体で展示するユニークな試みだ。

 能舞台のある客席では、弦を張った400以上の小さな弓が、一つ一つの座席に置かれている。山なりの形が波のようにも見え、水音も響く。

 「青海波のようなイメージ。波をかぶって、ある一門が滅びていく。それがまた違う一門の栄えと滅びにつながっていく。それぞれ波の頂点になったり、消えていったり」と山口。

 弓には白紙の御幣が付けられており、けがれをはらう意味を込めた。

 「能には降霊術のような面もある。すごいものが降りてくることもあれば、出てきてはいけないものが現れることも。入るな、こっちに来るな、と。死んだ人にもう一度会いたい、という話も能にはある。そんな能の怖さがあってしかるべきだ」

 2階の廊下での展示は、新作を含めた自身の絵画作品と、能楽堂の収蔵庫にしまわれていた備品などを組み合わせた。

 「個展をやるからには、現代を鏡のように映し出すものでありたい」との思いから、一見するとよく分からない組み合わせにも、深い意味がある。

 舞台上で使う黒塗りの籠から飛びだすように広がるサカキの葉。実は福島第1原発事故の建屋と爆発する水蒸気を表現。工具を並べ、何かの制御盤のように見える仕掛けも、制御できない原発をイメージさせる。

 「イメージがイメージを呼ぶままに並べた。平家が落ちぶれていくことは、傾くということにつながる。昨今の日本の傾きっぷりも相当ですが…」

 こうした中に、能の演目「清経」から、組み合った武士たちが海に落ちていく場面を描いた新作「入水(じゅすい)清経」や、学生時代に描いた合戦図などが並ぶ。「今の自分の横に、ぽっと昔の自分が出てくる。違う時間軸をどう表現できるのか」。それも一つの波だという。

 ガラス越しに眺めるのは「芳一の景」と題されたインスタレーション。休憩室内に、結婚式のようなテーブルセッティングがされている。誰も立ち入ることができない、耳なし芳一を囲む平家の亡霊たちのうたげを再現した。

 山口自身が能面を付け、倉庫で見つけたビニール袋を身にまとい、掃除用の小さな熊手を持ったユニークな姿で、同能楽堂の駐車場などを歩き回る映像「放車能」も上映している。

 3月23日まで。2月26日、3月4~6日休館。入場無料だが、本舞台の有料公演時は公演チケットがないと入れない。客席使用中は弓のインスタレーションを取り除く。問い合わせは同能楽堂電話045(263)3055。

小さな弓を並べた客席を「青海波のイメージ」と話す山口晃=横浜能楽堂

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