【気象コラム】「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」とは

 2月19日から23日ころは、七十二候の「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」です。土が湿り気を含んでくる、という意味。七十二候は、中国から伝来したものをそのまま使っているのではなく、江戸時代に入ってから日本の風土に合うように改訂されたそうです。

  さて、12月から3月にかけての降水量の変化を、積雪が長く続くことのない太平洋側の地域でみてみましょう。過去30年(1981年から2010年)の平均です。(単位:mm)

雨が降る2月の神代植物公園=東京、 筆者撮影

 12月 仙台36.6 東京51.0 大阪43.8 高知58.4

1月 仙台37.0 東京52.3 大阪45.4 高知58.6

2月 仙台38.4 東京56.1 大阪61.7 高知106.3

3月 仙台68.2 東京117.5 大阪104.2 高知190.0

  12月はいずれも1年で最も降水量の少ない月です。1月、2月、3月と雨の量は多くなります。特に2月から3月には顕著に増えていることがわかります。

  この傾向から、3月に入る前の「土脉潤起」のころ、大地を潤すような雨が降りはじめるといってよさそうです。雨の量が徐々に多くなる原因は、2月も半ばになると、日本付近は冬型の気圧配置が緩むことが多くなり、低気圧の影響を受けやすくなるためです。

 ただ、この時期に降る雨は、春の暖かな雨ばかりではありません。日本付近を東へ進む低気圧が寒気を引き込んで、冷たい雨や、15日の都内や横浜の一部のように関東の平野部などで雪が降ることがあり、彩りの少ない景色をいっそう寂しげに映すこともあります。天気の特徴は、短い周期で変わることで、低気圧が日本の東へ離れていくと、次は大陸から高気圧が移動してきて、春の日差しが届きます。

 「土匂う」は俳句の春の季語。春の日差しに、匂う土に、なつかしさを感じることを表しています。趣のないようにみえる景色でも、湿り気を含んだ土の中では、生物が本格的な春へ向けて、目覚めの準備をはじめています。

 (気象予報士・白石圭子)

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