社会人強豪の日本通運野球部トレーナーが考える、プロ入りする選手の“違い”

日本通運野球部の中谷大志トレーナー【写真:荒川祐史】

プロ選手も多く輩出している日通野球部、トレーナーの中谷さんが見るプロ入り選手の凄さ

 2016年の日本選手権準優勝、2017年の都市対抗でも準優勝に輝くなど、社会人野球の強豪として知られる日本通運野球部。2018年のドラフトで日本ハムから3位指名を受け入団した生田目翼投手など、プロ選手も輩出している。その名門チームでトレーナーを務める中谷大志さんは、怪我の治療だけでなく、トレーニングメニューの作成や選手の体のメンテナンスなど、様々なサポートを行っている。そこで、選手の体をよく理解している中谷さんに、プロの切符を掴むことができる選手のすごさを聞いた。

 最速155キロの直球を武器に、即戦力ルーキーとして期待される生田目は、1度に出す力の大きさに特徴があるという。

「『ドン』と出す力の大きさがすごいです。飛ぶ時も、力が入ったままだと高く飛べないですが、1回ふっと力を抜いて反動をつけて飛ぶと高く飛べます。それと同じで、投げる時に1回力を抜いている。力の抜き方を知っているんだと思います。そのタイミングが合っている選手は、パフォーマンスが高いと思います」

 中谷さんは、どうしたら他の選手もそういう動きができるかを研究しており、チームでもコツを掴めるトレーニングを行っているという。

「メディシンボールという重いボールを、反動を使って投げる練習を取り入れています。選手も感覚を持っているので『これは使えるな』というのを自分で判断して取り入れてくれています」

日本通運から日本ハムに入団した生田目翼【写真:石川加奈子】

「部分的にみればプロより上手い選手」も…なぜワンランク上に行けないのか

 中谷さんは昨年、社会人関東選抜チームに同行した。多くの選手と接しているが、プロの選手と社会人の選手では、技術的な面ではあまり変わらないと見ており、プロの舞台に立つことができる選手とそうでない選手の違いは「自分を客観的に見られるかどうか」だと考えている。

「『こういう感覚で投げている』『あのボールはここを意識してこうやって投げている』と、自分の動作を説明できることが大事だと思います。若くて技術のある選手でも、自分の動きを説明ができないことが多いです。それでは感覚でやっているだけで再現性がなく、もう1度同じことができません。社会人には、部分的にみればプロより上手い選手もいますが、そこができないからワンランク上に行けないのではないかと考えています。見ていてもったいないと思います」

 選手のリハビリ中のトレーニングのサポートをすることもあるが、そんな時に心掛けているのは、知識をただ伝えるのではなく、相手を受け入れ、尊敬する気持ちを持つことだ。

「指導をする時は、選手に寄り添ってアドバイスをするようにしています。まずは選手の言うことを聞いて、選手自身の考え方を尊重する。武田(久)さんは、そうやって後輩の指導にあたっています。技術はみんなすごいです。あとはそれを発揮できるか。そのために力になれたらと思っています」

 トレーナーとして「チームに対する姿勢は誰にも負けないと思っています」と胸を張る中谷さんは、選手たちがさらに上の舞台で活躍できることを願い、サポートを続ける。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

© 株式会社Creative2