ベンチマークは、Cセグハッチの王道VW ゴルフ!?
うわ、ゴルフっぽい!
それがホンダ ヴェゼル ツーリングに乗ったあとの、正直な感想。はい、例に出したのはお察しの通り、フォルクスワーゲン ゴルフのことですよ。
こういうときにあるモデルの個体名を引き合いに出すのは、ギョーカイルール的にもあんまりよろしくないってことくらいなんとなく解ってはいるつもりだけど、それでも今回その禁忌を破り、敢えてそう言いたくなるくらいにフィールが似ていてビックリした。
さらに言うなら今の最新型ゴルフのフラットで上質すぎる感じではなくて、ふた世代くらい前の硬派な男っぽい荒削りな感じに類似。
ベンチマークがこれほど明確に見える化されるって、すごくない? いや、もしかして狙い所は全然別の着地だったのかもしれないけれど、結果なんだかとても感じのイイことになっていたからオールOKなのではないかしらん。
以下そのフィールについては追って言及していこうと思う。その前にこのクルマのアウトラインをご紹介しよう。
“走り”という顧客のニーズが生み出した「究極のヴェゼル」
2013年に発売されて以降、ヴェゼルへの反響はとても大きなものだった。
SUVにしてはコンパクトなパッケージが意外なほどに受けて、日本国内はもとより特に途上国である環太平洋アジア地区において、納車待ちの長〜い行列が出来たと聞いている。累計販売台数は2018年末時点で260万台。実は現在も右肩上がりだ。
昨年2018年2月にはビッグマイナーチェンジを受けたのち、さらなる拡充のために今回モデル追加がなされた。それがヴェゼル ツーリング。
発売当時はまだ珍しかったスモールSUVというセグメントは、近年急成長を果たし、今や押しも押されぬ激戦区になっている。そんな中、同社では顧客からのニーズが“走り”の方向へシフトしていることをもとに、既存のヴェゼルの走行性能をより高めて、ヴェゼル ツーリングの投入で『究極のヴェゼルを作る』ことを目指したという。
ヴェゼル ツーリングは「ハイブリッドRS」を超える最上級グレード
今回追加されたヴェゼル ツーリングは、既存モデルとはボディサイズこそ変わらないものの、幾つかの差が付けられている(そう、このヴェゼル ツーリング、ヴェゼルの中ではこれまでの最上位機種であった「ハイブリッドRS」を超える最上級グレードとして君臨するのだから、その違いは“差”と表現しても良いはずだ)。
スポーティ感あふれる外観に、選ぶ楽しみがある上質な内装
まずエクステリアだ。
専用ボディカラーを2色設定して全6色の展開で、ヘッドライトガーニッシュをブラック塗装に、フロントバンパーロアーとロアーガーニッシュをグレーメタリックにしたほか、18インチのアルミホイールを装着する。さらに、エキパイが左右2本出しになっているのもシリーズ中ではヴェゼル ツーリングだけだ。この2本出しにはグッと来る、なんていうクルマ好きは多いだろう。後ろ姿が一気にスポーティになったから、これだけですでに萌えっとしている人がいるかもしれない。
インテリアにもブラウン系の専用内装が用意されてかなり上質だ。オプションでブラックレザー内装も用意されているから、選ぶ楽しみがあるのも嬉しい。
1.5L直噴VTECターボのもっともパワフルなヴェゼル
そして今回の目玉である“走り”だ。
まず1.5リッター直噴VTECターボにCVTを組み合わせた、新パワートレーンが搭載されたこと。最高出力は127kW(172ps)、最大トルクは220Nmを1700〜5000rpmで発生させる。
既存ヴェゼルには、1.5リッター直噴のi-VTECに7速DCT高出力モーターを組み合わせたハイブリッドと、1.5リッターにCVTのNAエンジンが搭載されていたものと2種類だったから、このヴェゼル ツーリングがもっともパワフルなヴェゼルとなる。
さらにその高められた出力を受け止めるため、ボディ剛性も高められている。
既存モデルのレベルを大きく超えた剛性感と質感
実際に試乗してみると、エンジンのパワーアップよりもむしろ剛性感と、さらに“質感を向上させよう”と腐心したであろう、エンジニアの努力の跡がくっきりと感じられるものとなっていた。
まず、試乗シーンではじめ、一般道に出るまでに石畳が敷かれた会場のエントランスを通ることになるのだが、その部分での揺れ、振動の収束のさせかたは拍手モノ。制振面ではNAはもとよりハイブリッドさえも凌駕。既存ヴェゼルのレベルを大きく超えた。
ガタガタグラグラせず、ひとつの揺れをきっちりとひとつひとつ処理して反響させないから、石畳を走行するといった揺れが続くようなシーンでも「うん、しっとりと落ち着いているね」と嬉しくなるくらい。
実はこれまで日本仕様と欧州仕様では剛性面で差が付けられていた!?
実はヴェゼル ツーリングには専用ボディが用意された。骨格自体は他モデルと同じモノながら、剛性アップ部品が追加されているほか、専用パーツも装備されている。これにより、既存ヴェゼルよりもカッチリとした走りがもたらされたというわけだ。効果テキメンだ。むしろ最初からコレだったら良かったのに、と思うくらいの良さである。
そう思うには理由がある。実は欧州向けのヴェゼルと、日本仕様のヴェゼルにはやや差が付けられていて、欧州向けのほうには今回ヴェゼル ツーリングに追加されたような剛性のためのアレコレがすでに導入されていたのだ。
これはもう、日本の顧客が乗り味よりもコストを重視することや、日本の走行距離・走行シーンによって同社が導き出した答えだからしょうがないとはいえ、いえですよ、いや、そこ出来るんやん!とツッコミを入れざるを得ない。それくらいの歴然たる差異があるから、機会があったら是非乗り比べて欲しい。
具体的にはヴェゼル ツーリングでは特にリアまわりの挙動がカッチリ・ガッチリ・しっとり。悪路はもとより、交差点の角を曲がる、とか、ゆるいカーブを継続して曲がっていく、なんていうシーンでもきっちりと恩恵を感じられると思う。
このコーナリングの気持ちよさに関しては、“アジャイルハンドリングアシスト”という、コーナリングをサポートする電子制御がヴェゼルではじめて採用されたことも大きい。ラフに操作すればするほど、この効果は大きく感じられるはずだ。
若者には問題ないが老齢にはかなりツライ…ハンドルの重さ
ただ、“質感を上げる”ことに腐心しすぎたのか、操作系は非常に“重カタ”い。
『揺れや振動をなるべくドライバーに伝えないように、どっしりとしたドライブフィールを演出するように』、というエンジニア側の狙いは重々解るし、先述のとおりその恩恵はある程度ちゃんともたらされているのだけど、その副産物には賛否が分かれそうだ。
まず、ハンドルが重い。
近年では欧州勢でもどんどんステアフィールを軽く味付けする方向になっているから、それらにコチラ側もスポイルされているということもあり余計に重く感じる。特に左右ともに90度あたりに回すと、反力も手伝ってかなりの手応えを感じてしまう。
若者ならいいんです。これくらいの重さは腕力でなんとかなると思うから。しかし、ヴェゼルは当初の狙いの嬉しい誤算で、意外にも50〜60代にも売れている。この重さ、老齢にはかなりツライのではないか。そのくらいに重たいのだ。
だからこうも言えるのだけど、高速道路などの直進安定性は抜群だ。ハンドルの据わりもいいし、ちょっと手を添えておくだけでまっすぐ進んでくれる。しかし、駐車時など日常領域での操作はやや持ち余りしそうだ。
同時に、ペダル類も重たい。これはさして特筆すべきではないからサラッと書いておくけれど、他車、とくに既存ヴェゼルとは別モノくらいの差はある。
しつこくもっと書くと、シフトノブも重たい。DからRに入れる、なんて駐車場によっては3回位繰り返すこともあるんだから、ここに重厚感は不要じゃないかと思ってしまった、歯に衣着せぬ私である。
個人的にはこのヴェゼル ツーリング一択
しかしヴェゼル ツーリングの名誉のために言っておくが、全体的に印象はとても良くなっているのは間違いない。
ターボ搭載のパワフルさも、マイルドでとても好感の持てるもの。ガツンと効きすぎないのに継続してトルクを出してくれるから、加減速のときだけではなく、高速クルーズ中でもしっかりとトルクを実感しながら航続出来るし。
体力のある層が買うのなら、絶対的に楽しく、また高級感の溢れるクルマに仕上がっている。ヴェゼルの中でどれ買う? と言われたら、個人的にはこのヴェゼル ツーリング一択となることは断言出来る。
しかし、価格的には生活に余裕の出てきた子離れ層にすご〜く響きそうなのだから、悩ましいのだ。
[筆者:今井 優杏/撮影:小林 岳夫]