【平成の長崎】自民安定 改憲へ弾み  金子さん安堵の笑顔 平成28(2016)年

 憲法改正が現実味を帯びてきた。改憲勢力が国会発議に必要な全議席の3分の2超となった10日投開票の参院選。与党の勝利に安倍晋三首相は満面の笑みを浮かべた。選挙戦でアベノミクスの成果を前面に出す一方、改憲論は封印し「争点隠し」との批判も。平和国家の針路が見えない中、首相は「国会の憲法審査会で議論する」と繰り返した。そうした中、長崎選挙区を制したのは抜群の知名度と実績を誇る自民現職の金子原二郎さん(72)だった。野党共同候補の民進新人、西岡秀子さん(52)は追い上げるも届かず、幸福実現新人の江夏正敏さん(48)も及ばなかった。
 午後8時41分、テレビが「当選確実」を報じると、支援者であふれた長崎市元船町の事務所は歓声に包まれた。間もなく現れた金子さんは日焼けした顔に安堵(あんど)の様子を浮かべ、一人一人と握手。「本当に厳しい戦いだった。皆さんの支援で乗り切れた」。共に汗を流した仲間に感謝した。
 「僕にとって最後の選挙かもしれない」。公示前、そう口にしたこともあった。30歳で政界に入り、県議3期、衆院5期、知事3期、参院1期と無敗で通し、40年余り。世代交代を求める声もあったが、「全身全霊でやって実績を出す自信があるから政治家を続けられる」と信念は強かった。
 知事時代に進めた市町村合併に「責任がある」と、心血を注ぎ実らせた財政支援措置。リレー方式で開業に道筋を付けた九州新幹線長崎ルート。こうした実行力を生かし、アベノミクスの効果を地方にも波及させると決意をみなぎらせた。
 それを分厚い組織が支えた。県市町議員が各地で動き回り、推薦団体は約2500に上った。ただ民進候補は20歳年下で、かつて知事選でしのぎを削った故西岡武夫氏の長女。初めて直面する野党共闘にも警戒を緩めなかった。
 新聞各社が世論調査で「先行」と報じると、支持者に楽観ムードが漂った。金子さんは「少したてば『拮抗(きっこう)』になる」と打ち消すのに必死。擦れ違うドライバーが手を振り返す割合をみて「まだ浸透していない」と気をもみ、終盤には1日で100カ所近くの企業を回った。百戦錬磨の政治家ながら「どぶ板」を思わせる運動量だった。
 自らきめ細かく陣頭指揮し、陣営の空気は常に張り詰めていた。そんな選挙戦真っただ中、事務所に差し入れたのは8箱のたこ焼き。厳しさだけでない、ふとした心遣いにスタッフは奮い立った。
 終盤追い上げられながらも振り切った金子さん。農相まで上り詰めた父に続き、入閣を期待する声が周囲で高まる中、「地元長崎県の課題を一つ一つ解決したい」と決意を新たにした。
(平成28年7月11日付長崎新聞より)
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【平成の長崎】は長崎県内の平成30年間を写真で振り返る特別企画です。

再選を確実にし、支持者から祝福を受ける金子原二郎さん=10日午後8時57分、長崎市の選挙事務所

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