話題のオールシーズンタイヤってどうなの?
横浜ゴムは、毎年われわれメディアに向けて「冬期講習」を開いてくれる。
新製品が登場したときはもちろんだが、そうでないときも冬タイヤの知識を深めるために様々な趣向を凝らして、冬タイヤ造りにどれほどの技術を注ぎ込んでいるのかを教えてくれている。
たとえば過去には、スタッドレスタイヤのゴムで作った溝のないスリックタイヤを用意して、氷上や雪上で純粋なコンパウンド性能を体験させてくれた。また、スポーツタイヤであるADVAN NEOVA AD08Rのパターンを持ったスタッドレスタイヤを用意し、アイスガード6 IG60と比較。路面におけるパターン性能の特性の違いを教えてくれた。といった具合である。
そして今年は「冬用タイヤ」の性能比較を、横浜ゴムのテストコースであるTTCH(タイヤ・テスト・センター・オブ・北海道)で試すことができた。
ところでわれわれ日本の市場では、冬タイヤといえばスタッドレスタイヤを指すのが通例だ。しかし昨今の温暖化や節約意識の高まりなども作用して、にわかに「オールシーズンタイヤ」という選択が非降雪地域では話題になってきている。
年に一度か二度降る雪にしか使わないスタッドレスタイヤのコストや履き替えのムダを省き、通年をひとつのタイヤで過ごすという選択である。
具体的には、グッドイヤーが2016年に発売した「ベクター フォーシーズンズ・ハイブリッド」がそれである。またミシュランタイヤは「雪も走れる夏タイヤ」と謳っている全天候型夏タイヤ、「クロスクライメートシリーズ」を発売した。
対する国内メーカーは、欧米各地ではオールシーズンタイヤやウインタータイヤを発売しているものの、今もって日本市場はスタッドレスタイヤに留めている。
それはなぜか?
日本の雪質が、欧米とはまったく違うからだ。
スタッドレスとオールシーズンの違いを体感
これを体験・体感するべく、横浜ゴムは今回テストコースに、同社の最新スタッドレスタイヤである「アイスガード6」(IG60)と、欧州型オールシーズンタイヤ「BluEarth 4S」(AW21)を用意してくれた。
ちなみにBluEarth 4Sは2018年にジュネーブモーターショーで発表されたばかりの新作で、オールシーズンタイヤと銘打ちながらも、欧州型の形容が示す通りウインタータイヤ寄りの雪上走破性能を持つという。
タイヤのサイドウォールには「スリーピーク・マウンテン・スノーフレークマーク」を備え、その性能はATSM(世界最大の非営利な民間機関で、国際標準化・規格設定を行う)の公的試験でも認証されている。
雪上走行性能の高さと並ぶ美点としては、同社のベーシックなサマータイヤと同等のドライ/ウェット性能を有していること。ここが非降雪時におけるスタッドレスタイヤとの最も大きな違いだ。
そんなオールシーズンタイヤを初体験できるとあって、タイヤマニアである筆者はかなり心躍っていたのだが……。
結論から先に申し上げれば、ここで筆者は改めて、スタッドレスタイヤの偉大さを痛感した。
その違いは、雪上路面ですら明らかだった。
折しも路面状況は、前日夜間の気温がマイナス18度近辺まで下がったものの、日中は日差しによってマイナス3度まで上昇するという不安定な天候だった。これによって所々に凍結路面ができあがり、これが溶けるとかなり滑りやすい状況となった。
確かにオールシーズンタイヤのBluEarthー4Sは、なかなかの雪上性能を持っていた。雪深い路面ではタイヤが雪を踏み固め、その雪柱剪断能力によってクルマを前へと推し進める。
しかし全体的にはスタッドレスタイヤのアイスガード6よりも接地感は低く、凍結路面ではこのトラクション性能があっさりと失われた。よってその雪上走破能力に気をよくしてスピードを高めると、滑った先ではどうにもならない。結果ブラインドコーナーに備えながら非常にソロソロと、自信なくこれを走らせなければならなかったのである。
絶対的な安心感があるスタッドレスタイヤ、アイスガード6
対してアイスガード6は、転がりだしから路面をつかむ感触が高く、安心できた。カーブでもハンドルが効くことで早めにクルマの向きが変えられ、アクセルでそのコーナリングフォースを縦方向に変換することができる。操縦性の自由度が違うのだ。
だがこうした能力を持ってしても氷路面でタイヤは滑る。それを考えれば、多少の滑りにも慣れていない非降雪地域のドライバーにとっては、スタッドレスタイヤを選ぶ方が得策であると強く感じた。
屋内に作られた氷盤ではスラローム比較を行ったが、100%氷の路面だとその差はより一層顕著になった。操舵一発目の慎重な操作でならBluEarth 4Sもノーズをコーナーの内側へ入れることができる。しかしここで発生した慣性をリアタイヤが止めきれず、慌ててブレーキを踏めばクルマはABSを効かせながら斜めに進む。速度感をつかんでない一回目の試乗では、コース折り返し地点のUターンすら曲がりきれない有様。時速はたったの20km/hだったが、路面だけでなく肝まで冷えてしまった。
この性能差こそが、大きく言ってスタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤの、コンパウンド(ゴム)とパターンの差である。
BluEarth 4Sもそのゴムにはシリカを多く配合し、低温時の路面追従性は高めている。しかしそのゴムにはアイスガード6のようなマイクロ吸水バルーンやホワイトゲルを搭載しておらず、氷の路面にできる水を排除できないのだ。またトレッド面のセンター領域には細い溝を沢山配置しているものの、それはスタッドレスタイヤのサイプほど細かく路面の凹凸に追従できるものではなく、ましてや吸水効果もない。
この性能差を考えると、日本では年に数回しか雪が降らない地域でも、オールシーズンタイヤは向いてないと筆者は考える。日本の雪質では日陰の坂道や欄干の継ぎ目に残った雪が、翌朝には凍る。むしろ雪だけが残る状況は少ないだろう。
もちろんこうした機能がない分だけ、ウインタータイヤはゴムがよれず、スタッドレスタイヤよりもしっかりとクルマを支えてドライ路面を走ることができる。そして溝面積が多い分だけ、ウェット性能にも優れる。
だから雪質がさらっとしており、これが溶けにくい(気温が低い)ヨーロッパ主要部であればオールシーズンタイヤ(やウインタータイヤ)は有効。その結果需要もここ数年で市場全体の10%以上にまで高まっているのだ。
スタッドレスもオールシーズンも用途に応じて履きこなそう
結論としては日本でも、幹線道路の除雪が行き届く地域なら、駐車場からそこに出るまでのエマージェンシー用タイヤとしてオールシーズンタイヤは有効だと思われる。いわゆる北米的な使い方だ。そうすれば夏は通常タイヤと同じグリップ性能が、そして冬場の低温時にはスタッドレスタイヤよりも高い排水性と高速安定性が活すことができ、結論としては経済的である。
こうした慎重な物言いをするのは、やはりそこに安全という二文字があるから。だからこそ横浜ゴムを始め、多くの国内タイヤメーカーはウインタータイヤやオールシーズンタイヤを日本で販売していないのだと思う。
大径タイヤを履くSUVユーザーや、車輌の大きなミニバンユーザーにとってタイヤの交換は非常に面倒なもの。その気持ちはわかるけれど、万全を期すならば、シーズン毎のスタッドレスタイヤへの履き替えは行った方がよい。もしくはオールシーズンタイヤの弱点を理解して使おう。
高速安定性や排水性に関しても年々性能が上がってきているだけに、冬期低温時のグリップ確保という意味でも現状はオールシーズンタイヤよりスタッドレスタイヤの方が、積雪時のリスクは少ないのではないかと思う。
繁忙期を避けた11月ごろにスタッドレスタイヤを履き、やはり繁忙期をずらした3月頃に夏タイヤへと履き替える。シーズンを通して2セットのタイヤを使い分けることで、長い目で4シーズンくらいずつ両方を使えば、節約を狙ってクルマをぶつけてしまった修理費よりは遙かに安くつき、安心をも買えるのではないか。
もしくは非降雪地域であれば、たとえ雪が降ったとしても2~3日もあれば消える。ならば雪が降ったらクルマには乗らない。これがもっとも明快なリスク回避の方法だ。
ちなみに筆者はこの試乗会で横浜ゴムのエンジニアに「もしこのウインタータイヤに、アイスガード6の吸水ゴムだけでも搭載したら、氷路面でのリスクはさらに減らせるのではないか?」と尋ねた。
すると即座に「耐摩耗性の低さ」が答えとして帰ってきた。トレッド面にミクロの吸水バルーンを仕込んだソフトコンパウンドは、温度領域が高くなる夏場では減りが早く、オールシーズンタイヤとしての経済性には背反するのだという。
やはり道具は使い方次第。現状、魔法のタイヤは存在しないのである。
≫【後編】に続く
[筆者:山田 弘樹/撮影:横浜ゴム]