通算407セーブも「マウンドに上がるのが、ずっと怖かった」
昨季で現役を引退した元中日の岩瀬仁紀氏が2日、ナゴヤドームで行われたロッテとのオープン戦で引退試合に臨んだ。前人未到の現役通算1002試合に登板した鉄腕の最後は、シーズンでは2000年の1度しかない先発。打者1人を空振り三振に仕留め、マウンドを降りた。
歴代最高となる通算407セーブや15年連続50試合超登板など、数々の伝説を打ち立ててきたレジェンド。4番の井上を1番に起用するロッテ井口監督の計らいで、相手の主砲と対戦。ストレート3球で1ボール2ストライクと追い込み、4球目、伝家の宝刀スライダーで空振り三振に斬って取った。
オープン戦としては異例の3万人を超えるファンが詰めかけた本拠地ナゴヤドーム。20年間を支えてくれたファンから温かい拍手と声援を送られ、マウンドを降りた岩瀬氏は「この歓声ももう聞くことはないのかなとちょっと寂しい気持ちになりました。いままでにない、プロに入って初めて楽しい気持ちでマウンドに上がりました」と“ラスト登板”を振り返った。
現役生活に幕を下ろし、約5か月が経った。この間は「何もしてこなかった」という左腕だが、この日の登板に備えて、現役時代に足繁く通った鳥取のトレーニング研究施設「ワールドウィング」で4日間、練習を積んだ。「恥ずかしい投球だけはしないようにとトレーニングしてきた。何とか形になってよかった」と安堵の表情を浮かべた。
「今日だけは楽しくマウンドに上がることができました」
第一線から退き、トレーニングの必要もなくなった。その5か月間を岩瀬氏は「ポッカリと穴が空いたまんまで。気持ちがラクになるのかと思っていたけど、穴が空いたまんま過ごしていますね」と語る。解説者として今後は活動していくことになるものの、「(今後の目標?)まだ前に進んでいないですよね。これからゆっくり時間かけて前を向いていかないといけないけど。20年間やってきたことへの重みを取らないとと思うけど、取れない、そんな感じですね」と語り、苦笑いした。
試合後に行われた引退セレモニー。2007年の日本シリーズで“完全試合リレー”を完成させた山井大介投手、そして「ワールドウィング」代表の小山裕史氏、中日OBの山本昌氏から花束を贈られた岩瀬氏。涙を浮かべながら、挨拶し、20年間の思いを吐露した。
「プロに入って20年が経ちましたが、ずっとマウンドに上がる時は同じ気持ちでした。一番最初に打たれて、プロの怖さを知り、それからずっと、マウンドに上がるのは怖い日々でしたが、マウンドに上がってその怖さを振り払って投げることができるようになってからは、自分の投球ができるようになりました。ずっとそのマウンドに上がるのが、怖かったんですけど、今日だけは楽しくマウンドに上がることができました」
「怖い」と思いながらも、ひたすら上がり続けた20年間、1002回ものマウンド。59勝51敗407セーブ82ホールド、通算防御率2.31の成績を積み上げてきた。今後、これを超えるだけのリリーバーはおそらく出てこないのではないか。不世出の鉄腕・岩瀬仁紀はきょう、ユニホームを脱いだ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)