クラブとクラブカルチャーを守る会(CCCC)/PLAYCOOL - これからの日本のクラブカルチャーの在り方を考える。クラブとクラブカルチャーを守る会の戦い

異様な風体の集団が、議員会館に現れた

──まず、設立に至った経緯をお話しいただけますか。

Q'HEY:CCCCは2013年の4月に設立されました。設立の目的は風営法の改正。当時、風営法を見直そうという状況の中で、既に当問題に取り組んでいた弁護士の方々が、クラブDJにもこの状況を説明したいと言ってこられたんです。なぜ、DJ達なのかというと、クラブ事業者たちはこの問題に対して自ら矢面に立って活動することができなかったんです。なぜなら、どのクラブもグレーな状態で営業をしていたので。

ダースレイダー:グレーっていうと都合が良いですけど、ようは違法だったんです。

Q'HEY:違法営業を行っているので、風営法改正のために声を上げることで警察に目を付けられる可能性がある。その為、クラブ側の人達に声を掛けても集まってもらえないという状況がありました。だけど、これはあなた達の問題なんだということを教えたいということで、DJやアーティスト達に声を掛けて、クラブ側も一体になれるシチュエーションを作るための勉強会を行なったんです。そこに集まったメンバーで結成したのが「クラブとクラブカルチャーを守る会」です。

ダースレイダー:弁護士の齋藤貴弘さんから「ダンス文化推進議員連盟(略称:ダンス議連)」という議員連盟を作るという話を聞かされ、そこには社交ダンス、サルサ、ブラジリアンダンス、摘発にあった大阪のNOON(ヌーン)の金光正年さんなどが参加していたんだけど、クラブ業界の人達がそこに入っていなかった。これだと、クラブ業界を対象にした法改正にならないから現状、問題意識を持っていて、クラブ業界の声を代弁できるのは、勉強会に参加していた僕達しかいない。議員連盟に参加するためには団体を設立してまとまらなければいけないので、「クラブとクラブカルチャーを守る会」を急いで作る必要がありました。そういった経緯で会が設立され、議員会館でのヒアリングにも参加して、クラブ業界が抱える問題点を伝えました。そのことが当時ニュースになって、見出しが「異様な風体の集団が、議員会館に現れた」

──(笑)

ダースレイダー:その後、この法律を我々にも有効な内容に変えられるかは、クラブ業界全体で取り組んでいくことが大事なので、なるべく多くのクラブオーナーたちに声を掛け、約50店舗の経営者を一ヵ所に集めて説明会を行いました。

Q'HEY:風営法というのは対象となるのが事業者なので。僕達は出演者であり、事業者のための法律改正なので本来、事業者が参加しなければいけないんですよ。

ダースレイダー:僕達アーティストがいくらクラブの良いところを伝えても、事業者本人の声でなければ信用性がないし、特定のクラブの声だけを代弁していて、本当にクラブ業界全体を代弁しているのかと疑われてしまう。代弁しているのであればリストを出せと言われて、しかし摘発を恐れて名前を出してほしくないクラブが多いんですよ。

Q'HEY:そこで、事業者団体を作れということが命題になったわけですが、事業者はクセのある方も多い。音箱、チャラ箱、様々なスタイルのクラブがあって、それぞれがこだわりを持っているから、なかなかひとつにまとまることができない。

ダースレイダー:あの店が旗振り役になるのなら俺はやりたくないとか。

Q'HEY:それぞれがライバルでもあるからね。だけど、僕達アーティストが橋渡しとなることはできる。いちDJが法律を変えるなんてことは、とても手に負える話じゃないし、どこまでコミットして良いのか分からない部分もありましたが、みんなをまとめるための役割は担えるんじゃないかと。

ダースレイダー:そこで、知名度や発言力もあるZEEBRAが会長になることで、付いてきてくれるクラブも出てきた。そうして、ZEEBRAを前において、クラブ業界を代弁する役割を僕達が引き受けていくようになりました。そんな中、渋谷のクラブ「Vision」や「Contact」を経営するグローバル・ハーツの村田さんが、ラジオでZEEBRAと共に風営法改正のために発言してくれたり、徐々に事業者も協力してくれるようになりました。ここまで2年ぐらい掛かりましたけど。

DJ EMMA:僕達の活動は理解を得るまでに凄く時間がかかったし、今も理解されていない部分もある。だけど、なるべく黒子に徹していたというのが良かったと思っていて、もっと目立つように活動をアピールしていたら更に風当たりも強かっただろうなと思います。こういうのは反体制になりがちなんですよ。そうじゃない方向に導きたいという思いがあって、ヒステリックになるんじゃなくて、冷静にこれからのことを考えてほしかったんです。

風営法が改正され、新体制となった「CCCC」

DJ EMMA:新体制になってからのことですが、クラブのイメージを正していく活動も積極的にやっていきたいです。僕らが清掃活動などを行っているのもその為です。何かあるとクラブのせいにされたりということが多かったので。

ダースレイダー:今までは風営法改正という目的があったが、問題はまだ残っているにしろ実現できた。事業者も自分たちの問題として向き合ってくれるようになったので、僕達アーティストが公式な場で発言する機会も減ってきています。今後、CCCCでは日本のクラブやクラブカルチャーについて、何が面白かったのか、今何がつまらないのかということを考えて、どうすればクラブを良い場所にできるかを提案できるような会になっていけば良いなと思っています。例えば、クラブが近くにあると嫌だという人は、何を嫌がっているんだろう、ということをちゃんと知らないといけない。

DJ EMMA:ほとんどのクラブに関する問題は騒音なんですけど。問題定義しないと、今まで事業者自体があまり考えずに営業していたことも事実なので。彼等とも戦って初めて対話できるんです。これからはもっとオープンに事業者とも話せるような関係になっていくと思っています。

ダースレイダー:今までは好き勝手やって、アンダーグラウンドだから誰にもバレないし、迷惑もかけてないだろと思っていたかもしれないけど、実はそうじゃなかった。中で好きなことやるには、外でちゃんとしないとダメということですね。ちゃんと信用されていれば、中でハードコアなイベントやっても良いんだし。

DJ EMMA:今後は更にCCCCの活動を知ってもらって、どんどん新しい人が入ってきて意見を言い合える関係になりたいです。

ダースレイダー:オープンな会になるためには、まず僕達が何者なのかを知ってもらわなきゃいけない。そのためには、イベントをやったほうが良いとも思っていて今回、LOFT9でイベントを開催することにもなりました。クラブ業界だけじゃなくて、色んな人達の意見を聞けたら良いなと思っています。

どんな人種でも居て良い場所がクラブ

―今後は改正風営法の見直しはもちろん、クラブの在り方についても発信していきたいということですね。

ダースレイダー:日本の社会って、色んな人が同時に居られる場所がないんですよ。昼間の街って窮屈で、みんな他人と関わりたくない、もめたくないという事なかれ主義のようなところがある。そういったところから飛び出てみんなと一緒になれる場所が、クラブの本来あるべき姿だと思っているんです。

Q'HEY:仕事も、性別も、人種も、すべて取っ払って「音楽」というキーワードで繋がっていけるのがクラブ。

ダースレイダー:たまたま隣にいる人と話しても大丈夫な場所で、それがビジネスにつながったり、食事に行くような仲になったり、流れている音楽がヒントになって何かに繋がる人がいる。そういう居場所であり続けるのはクラブの使命だと思うんです。

Q'HEY:ライブハウスにしても、皆同じ方向を向いてライブを見ているだけで、お客さん同士の交流はあまりないじゃないですか。同じ音楽を大音量で体験する場所でもライブコンサートとクラブは全く異質なもの。勿論、そういった楽しみ方を否定している訳ではないですが、知らない曲を、知らない人と聞いて、気が付くと一緒に踊って仲良くなっているという経験を提供できるのはクラブだと思う。究極的に言えば、気持ちのいい空間で皆自由に楽しむ場所を提供できればそれで良いんですよね。

ダースレイダー:例えば、3/6(水)のLOFT9でのイベントに出演してくれる茂木健一郎さんや、せやろがいおじさんも普段、接点のない人達だけど、クラブという括りになると居てもいいんですよ。誰でも居ていい場所ってクラブ以外でないと思う。

―多様性受け入れる居場所としてクラブは機能しているんですね。

ダースレイダー:日本って設定された場所でしか出会いが起きない。閉じられた空間に少ない人数でいるっていうのが日本の文化だから。みんなが交ざれる場所はクラブしかない。

Q'HEY:そういった意味でもクラブが担える役割はかなり大きいと思います。

―では現状、日本のクラブシーンは盛り上がっていると思いますか? 特に若い人たちはクラブに行っているのでしょうか?

Q'HEY:昔と比べて、若いお客さんは減っていると思います。クラブじゃなくて、フェスに行く人は沢山いるんですよ、「ULTRA JAPAN」や「EDC」のようなEDM系のフェスですね。それ以前にもストイックな野外フェスはあったんですけど、「ULTRA JAPAN」を契機にパブリック向けのものが増えた。平たい言葉で言えば、“チャラめ”のフェスが増えた。ただ、EDMのシーン自体は否定するつもりはないし、よりディープな音楽を見つけるための入り口にもなっていると思うので。でも、若い子たちの中で、そういったフェスに遊びに行っている人、いわゆる「パリピ」と呼ばれる人達をダサいと思っている人達が相当数いる。フェスとクラブは違うものだけど、外から見れば一緒ですよね。どちらもクラブミュージックで踊っているわけだし。

ダースレイダー:90年代の渋谷っていうのが、クラブカルチャーが一気に盛り上がった時代で、みんなクラブに行ってたし、当時はクラブのイメージがカッコイイものだった。誰でも受け入れてくれる雰囲気があって、目的はなくても行けば楽しい夜を過ごせる場所だった。そういう文化って今はない。あの当時の雰囲気をまた体験したいし、若い人にも体験してもらいたいですね。その為に僕達が知識と経験を引き継いでいくことは大事だと思います。

「チャラい」「怖い」根強いクラブへのイメージ

―EDMブームもあって、ダンスミュージック自体は広まっているとは思うんですが、いざクラブに行くとなると「チャラい」「怖い」の、どちらかのイメージが出てきますよね。

DJ EMMA:そうなんですよね。実際、そういうとろもあるから否定はできないんだけど、勇気を出して行ってみると、そこまでチャラくないし、怖くないということも分かるんですよ。例えば、初めてコムデギャルソンのお店に入るときって緊張しますよね、でもそこを超えれば何てことないし、自分に合うクラブも見つけられるようになる。

ダースレイダー:通過儀礼というか、この門をくぐったら違う自分になっちゃう感覚。今はその冒険をしなくなったというのは感じますね。みんな保守的で、ちょっとでも怖いとかチャラいとか、不安要素があると行かなくなっちゃう。

―インターネットとかで知った気になってしまうんですかね。

ダースレイダー:インターネットで動画を観たり、SNSを見てクラブに行った気になって終わるっていうね。インターネットとは違うレベルの体験がクラブにはあるってことを伝えて、そこまで連れて行ってあげられるかというのが、今のクラブのハードルでもある。

DJ EMMA:極端な話ですが、良いDJが一人いればそれで良いと思っていて、DJはパーティーのボスとして居て、そこにみんなが集まる。でも、今はボスになれていないDJが大量にいて、本当に良いパーティーを見つけられなくなっている。海外から来るDJも、名前は売れているけどDJとしてはイマイチっていうことも多くて、もっとふるいに掛けて良いと思うし、僕も掛けられたい。みんなが初めて行ったパーティーが良いものであってほしいと思うんです。敷居は低くても良いんだけど、特に東京のシーンはそれがあまりにも多くて本当に良いものが分からなくなっていると思います。

―そこを突破して“本物”に触れてもらうにはどうすれば良いでしょう?

DJ EMMA:どうやってやっていけば良いんでしょうね・・・。難しいけど考え抜きたいです。

ダースレイダー:例えば会場の設備で、音楽の感じ方も全然違ったするので、良いスピーカーで聴いてもらうっていうのはあるかもしれないですね。

DJ EMMA:例えば照明だったら「AIBA」とか、本当に素晴らしい演出を体感するだけで感動しますよ。

Q'HEY:家でDVDを観るのと映画館で観るのは全然違うじゃないですか。そして、どこの映画館がIMAXが導入されていて良いか、というのも分かってくるのと同じで。

―クラブカルチャーへ触れてもらうキッカケとして、昨年12月に開催されたPLAYCOOLの忘年会イベントや、3月6日にLOFT9で行うトークイベントなども今後、積極的にやっていこうと考えていますか?

Naz Cris:会としては、新体制の試みとして、定期的にイベントをやっていくつもりで、クラブイベントだけではなく、DAYイベントやトーク・イベントもやっていくつもりです。会が行うイベントで若い世代や一般の方々と繋がるようなキッカケも作っていきたいと考えています。新体制になってから今年、クラブ以外でやるイベントは、今回のLOFT9でのイトークLIVEが初になるんですが、どんどん積極的に今まではやらなかったようなようなこともやっていきたいという気持ちがあるので、会としてもとても光栄です。これまでDJは、あまり人前に出て喋ることをしてこなかったので。もっと発言する場があってもいいのではないかとも思ったり。

―素性が分からないところがありますよね。どういう人なんだろう? って。

DJ EMMA:だいたいポーズでやってるんですけどね。だけど、僕は3.11以降は自分をプロデュースすることはやめて、表に出て何でもやっていこうと思うようになりました。

Naz Chris:EMMAさんなんて、今までは絶対表に出て喋るなんてことなかったですよ!特に私たち若い世代は見たことがないです(笑)。今まで素のEMMAさんを見たことない人は、この人は、寡黙でクールで...もしかしたら怖い人なんじゃないかと思われていたかもしれませんが、普段はとても熱くて、後輩想いで優しい。いい先輩です。

Q'HEY:彼はDJをやっている時は真剣で、黙々とやるタイプだから。知り合いに、楽屋で楽しそうに笑っているEMMAさんを紹介したら「EMMAさんに似てますよね」って言われたくらい、世間に持たれているイメージとのギャップがある(笑)

Naz Chris:皆さんはもちろん、普段はDJをしている姿しか知らないと思いますので、 DJたちの人となりや裏側の地道な努力、世界観なども知ってもらえたらいいなと思っています。

―DJやトラックメイカーなど、クラブ業界の方達も、もっとトークイベントに出てほしいです。その人のひととなりを知り、愛着を持ってもらうことで、またこういったことも、クラブカルチャーやDJに興味を持ってもらうキッカケになると思うんですよね。いい意味で。

Q'HEY:会で活動を始めるまで、僕達は人前で喋るってことをしてこなかったですからね。

DJ EMMA:会の活動に関しても、話すと嫌がられることも多かったんですよ。でもこれからはどんどん言っていこうと思っています。なぜなら、Q'HEYやダースレイダー達がいなくなったらどうするの?次も何か問題が出てきたとき、誰が立ち上がるの?、また逃げるの?って。彼等のように逃げなかった人達って信用できるし、絆と言えば大げさだけど、彼等と一緒に居たいと思うんですよ。僕も人前で喋るのは苦手だけど、逃げたくないんです。

ダースレイダー:特に僕とZEEBRAはラッパーなので、表に出て話すことが多かったけど、自分の主張だけじゃなくて、ハウスやテクノなど、色んな人達の意見も聞いて喋るってことは、この活動がなければなかった。だけど本来、ラッパーっていうのはみんなの代弁者でないといけないと思うんです。「ラッパーなのに、なに綺麗事言ってるの」とか言ってる場合じゃない。皆もクラブで遊んでるんだから。

DJ EMMA:もっと自分達の大事な居場所を気にしようよって思うんです。

ダースレイダー:もっと横の繋がりを作って、仲間意識を持たないと。普段、威勢の良いとこ言ってるラッパーが、あえてやらなきゃいけないという状況を理解してほしい。ラッパーやDJ、クラブ関係者も、みんながどんどん発信していくようになっていけばと良いなと思いますね。

―応援していますので是非、こちらもご協力できることがあれば、よろしくお願いいたします。

Naz Chris:ロフトさんと言えば、東京のライブハウス、トークライブ文化の中心だと思っているので、そう言っていただけると嬉しいです。是非、今後とも「クラブとクラブカルチャーを守る会/PLAYCOOL」をよろしくお願い致します。

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