さわぐちけいすけ(漫画家)- 「僕たちはもう帰りたい」自分にとっての営業は作品を増やすこと

とにかくSNSに作品を投稿していた

──自由な働き方を実践されているさわぐちさんですが、いつからフリーランスとしてお仕事をされているのですか。

さわぐち:岩手で大学を卒業後、病院の事務員として就職。3年ほど勤めた後、結婚を機に退職&上京。何をやるかも特に決めずに2年くらいふらふら絵を描いたりバイトしたりの生活でした。その後、オーストラリアで1年暮らし、帰国のタイミングで漫画を描き始めました。初めは「自分に漫画が描けるのかな」と試す気持ちでやっていて、マンガボックスやSNSに投稿していたら出版社から声がかかりました。それが仕事としてやってみようと思ったきっかけで、1年半くらい前からです。

──仕事の営業はしたことありますか。

さわぐち:一般的に言う「仕事の営業」はしない、と決めて活動していました。要は自分から出向いて売り込むのをやめるということです。作品だけとにかく大量に作れば自分も他人も「さわぐちがどういう作品を作れるか」が分かります。依頼する側も具体的な依頼内容を決め易くなります。そういう意味で自分にとっての営業は作品を増やすことと言えます。

──会社員の時と今のフリーランス生活を比べると、どうですか。

さわぐち:今のところ自分なりの理想の生活ができています。ただ、私と同じ働き方をしても苦痛に感じる人もいるでしょうから、安易にオススメはしません。会社員とフリーランス、どっちが良いかは状況によって異なります。会社は人が集まってそれぞれ得意な分野を長期的に協力していて働きやすいですし、フリーランスは自分で調節できる範囲が広いという印象です。そのメリットデメリットを考えると今はフリーランスの方が都合いいというだけですね。必要があれば会社員になることもあるだろうし。企業を作ったりする可能性だってあります。

──さわぐちさんの戦略として、作品をある程度無料公開していると思うのですが具体的に反響はどうですか?

さわぐち:無料で読めるからフォローする人が増えて宣伝効果があります。広告などは貼ってないので単純に売上には直結しませんが、見ている人の統計が取れて来るのでデータとして活用も可能です。どういう層が見てくれているのか。いいねとかリツイートの数でウケるかウケないか。ただネットでウケたからといって本が売れるわけでもないし、その辺は常に変化しつづけているので慎重に見ています。実際、インスタで話題になった投稿が、紙の本になったら売れないという話題も耳にします。自分の仕事に関してだけ言えば「本を出しといて重版がかからないのは作家の失敗」と考えているのでプレッシャーも大きいです。

──さわぐちさんはすごく達観していますが、世代でいうと、さとり世代に当てはまりますよね。世代ごとの仕事観に違いがあるなと感じますか。

さわぐち:ゆとり世代とか、さとり世代とか、あまり言われたこともないので、意識したことは特に無いですね。違いがあるかどうかも分かりません。世代によって仕事感に偏りはあるのかもしれませんが、世代を代表した意見を言える立場でもありません。〇〇世代というのはテレビとかニュースでやっていると思うのですが、私はテレビを持ってないので、地元でも〇〇世代のような価値観に触れる機会がほとんど無く、都心部での狭い話のように思えてしまいます。「年齢の離れた相手との違いを受け入れ易くするためのマニュアル」のような使われ方をすることが多い気がします。そんな分析をしているとまた、さとり世代とか言われてしまうのかもしれませんが(笑)。

──世代間の共通認識は特に意識したことないのですね。

さわぐち:そうですね。例えば「ゆとり世代だから自分達はこうやって生きて行こう」という方針が考えつきません。恐らく同世代間で共通認識が生まれると言うよりも、別世代が別世代に対して揶揄するために使われる場合が多いのではないかと感じます。ゆとり世代、さとり世代の上下関係に対する感覚が緩くなっているという苦言を聞いたことがありますが、それは年齢を重ねた分だけ立派な人間になれるというわけではないということに気づいている証でもあります。未熟なままでも年を取れるのがバレているので、全ての年配者を問答無用で敬う、という感覚が薄れるのは自然の流れだと思います。年上というだけで基本的には敬う気ではいますが、敬えない年上が存在するのも事実です。

──ここをデジタル化したら効率がいいのにアナログにこだわる上司とか、履歴書も手書きにこだわる昔からの流れとかありますよね。

さわぐち:なんでもかんでもデジタルでというのの何が悪いのか、きちんと納得できるように説明できるのであれば、そのこだわりはいずれ通るかもしれませんね。

──大体が感情論や根性論だったりしますよね。

仕事の考え方はどんどん変わっていく

──今回上梓される本は「働き方」がテーマですが、書く上で参考にした人物はいますか?

さわぐち:特にいません。私は1人でマンガを描いて仕事しているので、あんまり他者の仕事を生の現場で見る機会はなくなっちゃいました。だからこそ集めていただいたデータから客観的にストーリーを作れたとも言えます。

──結構住む場所を転々とされていますが、環境を変えるのがお好きなのですか。

さわぐち:その場所に慣れて落ち着くと出たくなります。仕事もそうなんですけど、仕事を覚えた瞬間にやめたくなります。一人前っぽく出来るようになったら一度その技術を捨ててリセットをするのが好き。マンガを描いていても「さわぐちさんのこういうのが見所」と言われるとたまに「じゃあそれは一旦やめてみようかな」と思ったりしちゃいます。

──結構なあまのじゃくですね! (笑)

さわぐち:「キャラクター同士の会話が面白い」と言ってもらったら「じゃあ次はキャラクター同士の会話が一切なしのマンガにしてみようかな」という気分になったり。仕事上この性格が災いすることの方が多いですが、挑戦する機会にもなるので治すつもりも無いです。

──仕事する上で気をつけていることはありますか。

さわぐち:仕事で関わる相手を限定しないようにしています。依頼が来ればとりあえず一度会って話してから決めることも多いです。今のところ私の活動状況が一番まとめられているツイッターだって、いつまであるかは分かりません。なくなっても大丈夫なように色々な編集者の方と関わりつつ、環境を整えています。自分のツイッターアカウントが使えなくなったら宣伝の面でわりと困るんですけど、たとえそうなっても仕事が来るようにしておかないとまずいですよね。それに向けて自分の公式ホームページを作ったりして少しずつ準備はしていますが、それでもやっぱり手軽に使えるツイッター頼りの状況はまだ続きそうです。あとはマンガ以外の仕事も、依頼が来れば試しにやってみることが多いです。最近だとモデルの仕事とか、ピアノで曲を作って楽曲提供とか、コラムなどの文章のお仕事など、全く関わったことのない分野からの依頼も来ています。やってみて、できたら公開するかもしれません。相手が「さわぐちなら出来そうだ」と判断して依頼してくれているので、時間と体力に余裕がある限りは首を突っ込んでみようと思います。

──手応えのある仕事はありましたか。

さわぐち:手応えのあった仕事はありません。家で勉強をしたり、絵の練習をしたりしている時など、準備段階でのみ手応えを感じます。実際に依頼に応えて仕事をしている時は「これで良いのかな」というくらい軽い感覚で終えます。本番で余裕が無いと、反省や工夫も難しくなるので意識的にそうしています。

──その中で、自分に向いてそうだなと思う仕事はなんですか?

さわぐち:これまでの様々な依頼内容を見た限りでは自己啓発系です。エッセイもそうですけど、気づきのある文章とかマンガを求められることが多いです。マンガ自体のおもしろさに加えて生活の役に立つという機能性があると喜ばれます。体に良いファーストフードみたいな感じで、時間がかからずに学べるというのが時代にも合っているのかもしれません。そういうのが求められているとなんとなく感じ取っていたので、その傾向に寄せる時もあります。

──さわぐちさんの作品は自己啓発のジャンルに近いということですか。

さわぐち:客観的に見てそうらしいです。日常生活の中で気づいたこととかトラブルを解決する方法を伝えることも時々あるので、啓発と言っても良いのかもしれませんが、大半の人の役に立たない私個人の日常の話という軽めのイメージで作っていたので意外でした。

──お忙しい中、インタビューをお受けいただきありがとうございました。

さわぐち:ありがとうございました。ツイッター上だとなかなか伝えられない話も、こういったインタビューやトークイベントだと直接お話できるのでありがたいです。文字や漫画にするとけっこうキツイ印象を与えてしまったり誤解を生むことも多いので、今後も気をつけつつ、楽しんでいただけるように描いていきます。

──次回の3/12のイベントは3/16発売の書籍『僕たちはもう帰りたい』を先行発売していただけるそうで。発売日の4日前ですからね。

さわぐち:僕もその時に初めて、できあがった書籍を見ることになりそうです。

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