獺祭のブランド守り抜く、西日本豪雨での対応 旭酒造株式会社 代表取締役社長 桜井 一宏氏

「獺祭 島耕作」について説明する桜井社長(右奥)

1月24日・東京都中小企業振興公社フォーラムより

私どもが作る「獺祭」というお酒は、全て「山田錦」を使い、全て純米大吟醸、それを年間通して醸造することが特徴です。年間通して新鮮なものを作れますし、稼働率も非常によくなります。

2018年7月6日の西日本豪雨では、山口県岩国市にある私どもの酒蔵の上流地域の山の土砂が崩れ、目の前の川がダムのようになりました。普段は20〜30cm程度の水量ですが、それが3m以上の石垣を超えて酒蔵の方に溢れてきました。私は営業メンバーとの会議のため東京に出張していましたが、急遽、当日初便の飛行機で戻った次第です。山口県は災害もあまりない県ですので非常に驚きました。

まずは従業員の安否確認を行い、全員の無事が分かりました。ただ、地域全体では、近所のおじいさんが1人、土砂にのまれて亡くなってしまいました。施設の被害状況としては70〜130 cmの床上浸水を受け、地下の排水設備が動作不能になりました。倉庫内の米や、瓶などの資材についても完全に水没していました。

7日に電力復旧の見込みが1〜3カ月と分かりました。非常用発電機も水没しており、年間通して6〜7℃に設定している発酵室の温度制御ができない。当時、タンク150本分のお酒が発酵中でした。また、地下の排水設備がストップしたことで瓶詰めの設備も停止しました。一方、顧客データは2階のサーバーに残っており、在庫も約1カ月分あるということで、当面はなんとかなることが分かりました。

西日本豪雨からの復旧について振り返る桜井社長

8日から復旧作業に就くにあたり、状況を共有するため、酒蔵の従業員全員に出社してもらいました。状況が分かっていれば不安感も少なく、動き出しも早いものです。チームで泥をかき出し、清掃作業をしました。私どもの製造では、年間通して作っていく関係上、同じメンバーによる分業体制の組織ができています。チームごとの動きがとりやすかったことが復旧作業にスピードを与えてくれたと言えます。

9日には記者発表会見を行いました。状況をきちんとお伝えしようということと、巷では転売の動きも見られたためです。また、停電で製造再開できないことを率直に話したところ、その日の夕方には電力が復旧しました。その地域の重要度を電力会社さんに勘案していただけたのだろうと思います。

製造復帰していくなか、発酵中の酒については、救えるものも1〜2割ありましたが、あとは通常商品では出せずに悩みました。そこで「獺祭 島耕作」という復興支援の商品として1200円で販売し、200円を被災地に寄付させていただくことになりました。お盆前の発売に合わせたスピード作業と物流の確保には非常に苦労しましたが、おかげさまで計58万本販売し、1億1600万円を被災地の広島、岡山、愛媛、山口に4等分して8月中に寄付させていただきました。58万本分の被災地を応援したいという人の思いが、モチベーションになったと考えています。

被災後の対策では、浸水に対応できるように、非常用電源のかさ上げ、川岸の防水壁と本社内の防水扉の設置を行いました。それから、会社の2階部分を簡易避難所として利用していただけるように改善しました。そこを避難所にして開放できていれば、今回亡くなられた方もご無事だったかもしれないということが、いまだに悔しい部分です。

(了)

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