【MLB】24歳右腕と対戦したイチロー、米記者に明かしていた「若かりし頃の目標の一つ」

マリナーズ・イチロー【写真:田口有史】

オープン戦で対峙した24歳右腕のクアントリル、かつて父とも対戦

 マリナーズのイチロー外野手は5日(日本時間6日)、「8番・DH」で先発出場したパドレス戦で3打数無安打に終わり、1日のブルワーズ戦の第1打席に快音を発してから7打席無安打となっている。

 2月16日のキャンプ初日に見せた、両膝を落とし気味に重心を下げて構える新打撃フォームも、膝の屈曲度は浅くなり、構えたバットのヘッドの傾きは投手寄りから従来の背中方向寄りに。微調整は続いている。

 試行錯誤が見える打撃で、この日は結果とは別に、イチローにとっては喜ばしい打席があった。2回表、2死二塁の好機に回った第1打席、マウンド上には今季メジャー初昇格が期待される右腕、カル・クアントリルがいた。1ストライクからの外寄りの変化球を打ち、左飛に打ち取られた身長190センチの右腕は、過去に5打席で対戦したことがあるポール・クアントリル投手(05年に引退)の息子である。

 偉大な45歳の打者と将来を嘱望される24歳の対決はイチローの“ある想い”につながっていた――。

 マリナーズの野手組がキャンプインして数日が経った日だった。マリナーズ番として12年目のシーズンを迎えている地元紙「シアトル・タイムズ」のライアン・デビッシュ記者がこう切り出した。

「若かりし頃のイチローの目標にこういうのがあるの知ってたかい?」

 雑談の途中から身を乗り出し傾聴した話にしばし感じ入った。

「その目標が叶ったことは満足感があるって」

「自分がプレーする姿を見ていた子供たちがやがてプロとなり、いつの日か、同じフィールドで一緒にプレーする日を迎えることが、プロ野球選手になった若かりし頃のイチローの目標の一つだったと言ってたよ。ユウセイ(菊池)が加入したことでその目標が叶ったことは満足感があるって。日々の鍛錬を積んでその目標に近づいてこられたことは彼の中ではとても大きいようだ」

 3打数音無しに終わったイチローはこの日、言葉を残さずにクラブハウスを後にした。1打席目の得点好機に対決した投手が、かつて対峙したポール・クアントリル(50)の子供であったことは知る由もなかった。

「最低でも50歳まではプレーしたい」と言ったイチローが、主催する「イチロー杯争奪学童軟式野球大会」の咋年末の表彰式で、一人の選手から向けられた質問に返した答えが話題になった。12歳の少年は高校卒業後のプロ入りを目指し、イチローと「対戦したい」と言う。その実直な気持ちにイチローは応えた。

「アメリカで待ってます。最短で18歳だから、あと6年でしょ。僕が51歳でしょ、良い番号だね。51までできたら良いけどね」

 45歳で挑む19年目の夢舞台――。エゴではなく、次世代への夢を繋ぐ熱を帯びた想いは、日米28年目の春も何ら変わらない。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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