チームで作る。アメリカの「ファッション」業界 テクニカルデザイナー 西谷智美さんとパターンメーカー 佐藤正明

まず、それぞれのお仕事の説明をお願いします。
西谷 私はセーター、ニットに特化したテクニカルデザイナーという職に就いています。デザイナーが描いたスケッチ(平面図)、そしてイメージ、雰囲気についての説明を基に具体的な形と構造を考え、主にコンピューターで立体に起こします。日本にはない職業です。

佐藤 僕はパターンメーカーという仕事に就いています。例えばドレスだったら、デザイナーが描いた平面図を基に、縫ったり、ピンを刺したりして、実際に服を組んでデザイナーに見せ、承諾を得られたらパターン(型紙)に起こします。

デザイナーが一貫してやるものではないんですね。
佐藤 日本人は、そう思っている人が多いですが、アメリカの場合、もっと細かな分担制というかチームで作りますね。

自分が考えた服を作るという発想からブランドを始めるデザイナーもいますが、ブランドの多くはデザイナーではないオーナーが自分の着たい服を作りたいという考えから始まっていて、それを形にできるスタッフを集めるのです。ですから、一口にデザイナーといっても服にすごく詳しくて、いろいろなことをできる人もいますが、知識はないけれどイメージが素晴らしい人、あいまいなイメージだけを伝える人、ディーテールに細かい人などいろいろです。テクニカルデザイナーもパターンメーカーも、デザイナーが発想した雰囲気を形にするので、コミュニケーション力が問われますね。

西谷 平面図とサンプルを持ってきて、「こういう雰囲気」と伝えられれば、それが形になることもありますもんね。

佐藤 うん。発想が机上の空論、ということもあるよね。既にあるパターンに違う生地を当ててサンプルを、と言われても、全然違うものになる。そこでコミュニケーションを取って、こういう雰囲気は出ないから、こうした方がいいとか、パターンメーカーの場合は、実際に組み立て「いかがですか」と。

西谷 本来、テクニカルデザイナーの仕事はコンピューターで完結するけど、私はセーターに特化しているから編んでみせてイメージを伝えることもしますね。さらにアメリカのブランドの服は海外に発注して作るので、工場に発注をするための細かいスペックを伝えるも私の仕事です。

お二人はファッションをどう定義されていますか?
佐藤 服は感情を揺り動かさないと意味がないと思うんです。それをいかにビジネスと結び付けるかがファッション。その感情の方向性を決めるのがデザイナー。あとこの業界に携わる人は皆、新しいものを作りたいという気構えは持っています。ただ、単に斬新なだけでは売れない時代。その中で、温故知新というか、例えば90年のスタイルに今どきの素材を当てるとか、見たことがないコンビネーションの中に新しい発見があると思います。

西谷 私はファッションは人をハッピーにするものだと思っています。着心地が良いというものから、この服を着ていたらいいことがあったとか。あとはファンクショナリティー。服にお金をかけないのがトレンドで、皆、こっちを買うとこれが買えないとなりますよね。なので着回せるかとか、一つの服にいっぱいファンクションがあることを考えます。

佐藤 あとは愛着がキーワードかな。いいデザイナーは感情を揺さぶり、愛着を作り出す。デザイナーの波長や思いを汲み取れなければ僕らの仕事は成り立たないし、僕らのアイデアや意見も一つの服の中には入っている。そういうチームワークだよね。

西谷 アメリカの場合は、総じてチームでそれを作り出している感じはする。私は自分は人の助けをすることに向いていると思っているから、デザイナーの思いを形にするのが得意なんです。

西谷智美

富山県出身。日本でリーテルを経てパーソンズに留学。2008年卒業。テクニカルデザイナーとして「Double Helix」「Charlotte Ronson」「Takeout」などで経験を積み、現在はコンテンポラリーブランド「Tibi」(tibi.com)に所属。

佐藤正明

長野県出身。高校卒業後、テキサスの大学に留学。ニューヨークに移りパーソンズを2007年に卒業。「PHI」「alice + olivia」「3.1 Phillip Lim」「Edun」などを経て現在は「Rebecca Taylor」でパターンメーカーを務める。

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