渡邊哲哉(アニメーション監督)- 『真夜中のオカルト公務員』他人との距離の取り方や会話することの意味を意識

基本的には区役所職員の話

──渡邊(哲哉)監督は今回、初の女性向け作品の監督になりますがいかがですか。

渡邊:原作は確かに女性向けの雑誌に連載されていますけど、特に女性を強く意識して作っていたわけではなさそうなんです。

──そうなんですか。

渡邊:最初にたもつ(葉子)先生にお会いしに行ったとき、イメージを共有したくて、好きな作品を伺ったんです。そこで出てきた作品が『CSI:科学捜査班』『X-ファイル』でした。今回の作品も、基本的には区役所職員の話ですとおっしゃってました。さらに刑事ものでもないということでした。

──確かに作中に警察は別でいますね。

渡邊:お話の展開も理屈にのっかっていますね。ただ、最初にお会いしたのは4巻くらいの頃だったので面喰いましたけど(笑)。

──作品序盤ですとキャラクターや作品の世界観を読者に伝えないといけないですから、まだ匂わせだした位の頃ですね。

渡邊:恋愛要素もほとんどないですからね。どちらかというとヒロイン的な位置は琥珀ですと言われました。それも守る対象という意味で。

──琥珀はアナザー(悪魔や天使、妖怪といった、人ならざる者の作中での総称)ですから友情に近い関係ですね。

渡邊:私もそこに至るまでの過程の話かなと思っています。(宮古)新が人間以外の生き物とコミュニケーションをとるのがそういうことなのかなと。

──確かに。すごい読み込まれていますね。それだとたもつ先生も映像化安心してお任せできますね。ちなみに映像化にあたってリクエストなどはありましたか。

渡邊:キャラクターとしてブレがあった際はもちろん修正していただけますけど、「もっとオリジナルを入れていただいていいですよ」と言われたくらいです。むしろそういった部分も面白がってくださってます。縛りがあるとすれば、区役所職員の管轄内で納めるようにしていくという仕事の線引きの部分ですね。

──原作でもそういったやり取りがありますね。

渡邊:たもつ先生が就職経験のある方で、その経験から仕事に対する考え方がしっかりしているんです。

──その経験から区役所職員を主人公に。

渡邊:そうだと思います。お話もシリアスな展開で。

──アナザーに対しての考え方もそうですね。新以外のキャラの考え方も自然災害に近い感じで。

渡邊:そうそう。人間にはなにもできないんだという感じですよね。

──そうなると普通のオカルト作品とも違いますから脚本づくりも大変そうですね。樋口(達人)さんを選ばれたのも、オカルト色のある作品が多いからなんだと思っていましたがお話を伺っているとそうではないんですね。

渡邊:そこは意識してないですね。樋口君は『シュヴァルツェスマーケン』の時に一緒に仕事をして、その時に無茶を聞いてもらって助けてもらっていたので今回もその力で支えてもらえればと思ってですね。

今の新宿の雰囲気が映像に残ってくれたら嬉しい

──今更ですが渡邊さんが監督を受けるのはどういった経緯だったんですか。

渡邊:ちょうど仕事が落ち着いているタイミングだったんです。舞台も新宿でロケハンも近くで直ぐだからと気楽に受けたんですけど、こんなに大変な作品だとは思わなかったですね(笑)。

──大変な部分についてお伺いしてもいいですか。

渡邊:新宿はなんでもあるんですよ。看板も多いので許可取りも大変で。

──舞台の新宿区役所は歌舞伎町にありますから、周りは看板ばかりですね。

渡邊:区役所の中もロケハンさせていただいて、3Dを作って合わせてます。実際に見て回ることでわかることもでてきますね。ほかにも新宿御苑など普段行かない場所も回って作品に詰め込んでいるので、今の新宿の雰囲気が映像に残ってくれたら嬉しいです。

──拘りを強く感じて頼もしいです。この作品は夜のシーンがメインなので、色彩や演出面も大変なのかなと感じています。

渡邊:そこが一番苦労しているところです。リアルな感覚で作ると画面になにが写っているか分からなくなってしまうんです。かといって明るくすると夜中に見えないので、そのバランスが難しいですね。主人公たちも区役所職員ですから、服装も地味なんですよ。KADOKAWAさんからは原作より少し派手にしてほしいとオーダーがあったくらいで。

──(笑)。見た目がシンプルですと、ストーリーの力がさらに重要になりますね。

渡邊:物語としては新が自分の仕事はなんだろうと自覚し、成長していくようにしています。樋口君もその点を強く意識しています。

人間は話す生き物

──そうなると声の演技も重要になりますね。キャストの皆さんはどのように選ばれていったのですか。

渡邊:まず物語の中心になる新役に福山(潤)さんが最初に決まって、そこを基準にして各キャラが決まっていきました。

──詳しく伺ってもいいですか。

渡邊:新人を新役にして、物語と一緒に成長していくのも作品とリンクしていいんじゃないかという案もあったんです。ただ、アナザーの声は新にしかわからないので、1人でリアクションをとらなければいけないこともあり、福山さんくらい演技力がないとできない役でした。そうなると、福山さんと一緒に演技をしても劣らない演技力がある人でないと先輩らしさが出ないんです。

──福山さん基準だと大変ですね。

渡邊:そうしないと芝居として通用しなくなるので、なので私もびっくりする方に出ていただいてます。それでも、ときに実際のキャラクターに比べてグッと演技の年齢層が上がってしまうので、そこに気を付けてもらってます。

──みなさんも苦労されているんですね。

渡邊:そこは鶴岡(陽太)さんに助けてもらってます。キャラクターの声という意味で大変なのはアナザーの表現ですね。

──作中でも新以外のキャラには只の音に聞こえる設定ですけど、アニメでも変えているのですか。

渡邊:種族ごとにも変えていて、今も試行錯誤しています。

──新以外のキャラクターとアナザーとの会話はどのように表現されているのですか。

渡邊:見えているのでそこに居るのはわかるんですけど、会話の内容がわからないので反応が遅れることになります。新に通訳をしてもらってやっと分かると。これほどしんどいことはないです、やはりコミュニケーションは大事なんだなと感じました。そこは今までの自分の人生を照らし合わせても課題・テーマになっています。私が引っ込み思案でもあるので気になるんです。

──人との距離感の取り方は大切ですし、誰にとっても永遠に課題ですよね。

渡邊:そうなんです。今までの作品でも他人との距離の取り方や会話することの意味を意識してしまうんです。

──下手に突っ込んでもいいわけではないですから。

渡邊:でも、新君は結構突っ込んできますね。若いからなのかもしれないですけど。

──まだ新人で相手をアナザーとして考える認識が薄いですね。

渡邊:ないですね。話せるから余計に人間と同じだと考えてしまうんだと思います。でも、実際に話せればわかるんですよ。そこがスタートですし、人間は話す生き物とも思っています。

──意思疎通できるかどうかは大きいですね。見えるだけではわからないことだらけですから。最初のエピソードでの天狗との対峙シーンでも一触即発で新がいなければ全面衝突もありえたでしょうし。

渡邊:大変なことになっていたでしょうね。本当にそのあたりのバランスがよくできている作品だと思います。その辺を突っ込んでいけばもっとシリアスで重たくなってしまうんでしょうけど、そうなるとこのようなキャラクター配置ができないと思います。

──そこはたもつ先生のバランス感覚なんでしょうね。そうなるとズレてきてしまいますし。区役所職員の仕事なんですよという線引きをしていることで、より読者にも伝わりやすくなっていると思います。

渡邊:仮にそのラインを越えてしまうと、仕事ではなく人間としてになってしまいます。そこがどうなるかも、これからの原作の展開が楽しみです。新だからこその解決方法をどうするんだろうと。これから面白くなっていくのだろうと感じているので、是非2期もやりたいです。

──そこはたもつ先生にも頑張っていただく形ですね。

渡邊:そうですね。とはいえスケジュール管理がしっかりされている方なので、これからが楽しみです。編集さんとの関係もいいみたいで、アイデア出しもされているそうなのでいいコンビなんだと思っています。そこも見ているので、アニメも頑張らないと、と思っています。

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