F1技術分析ピックアップ:かつて一世を風靡した“バニーイヤー”が復活

 技術ウォッチャーの世良耕太氏が、F1プレシーズンテストで走行した2019年ニューマシンの技術トレンドを解説。今回はアルファロメオとメルセデスに取り付けられたデバイス“バニーイヤー”を紹介する。
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 バルセロナテスト2回目はいくつかのサプライズがあった。最も大きなサプライズは、メルセデスAMGが大幅にバージョンアップしたボディワークを持ち込んだことだ。ノーズはより複雑な造形になり、エンジンカバーは一段とスリムになって、内蔵する熱交換器の形状が浮き出た格好。バージボードまわりも手の込んだ作りになっている。

テスト2回目に取り付けられたメルセデスW10の『バニーイヤー』

 メルセデスの変化ぶりに比べて規模は小さいが、バニーイヤーの復活もサプライズだ。アルファロメオC38のモノコックとノーズの境目あたり、ちょうどフロントサスペンションのアームに挟まれた位置に、小さなバーチカルフィンが片側4枚ずつ並んでおり、羽ばたいている鳥の羽のような形状になっている。メルセデスもΓ型の空力デバイスをアルファロメオと同じ場所に付けてきた。

 ここにこんなデバイスを設けるスペースが残っていたのか、という印象だ(規則に合致しているとは限らないので、開幕戦で残っている保証はないし、残っていても揉める可能性はありそう)。2007年から2008年にかけて、ノーズの先端に一対の羽を設けるのが流行した。その形状からバニーイヤーと呼ばれた。

 バニーイヤーはフロントウイングが跳ね上げた空気の流れ、すなわちアップウォッシュを下向きの流れ、すなわちダウンウォッシュに切り替える役目を果たした。空気の流れを下向きにし、リヤでもう一度使う狙いである。働きはそれだけではない。ストレートを走っているときはバニーイヤーが生成する渦がリヤウイングにあたって機能を失わせ、ダウンフォースと同時にドラッグも減らし、最高速を伸ばす効果をもたらした。

 一方で、コーナリング時はダウンフォースが増える方向に作用した。バニーイヤーはDRSと同じ効果を、可変デバイスを用いずに成立させていたことになる。アイデア賞ものだ。

2008年ホンダRA108 フロントノーズに取り付けられた『バニーイヤー』

 2009年のレギュレーション変更でバニーイヤーは実質的に禁止され、2014年、2017年の大規模なレギュレーション変更でもその意志は受け継がれたはずだった。しかし、2019年になってかつてのバニーイヤーと類似のデバイスが出てきた。

 2019年版バニーイヤーは、2008年版よりも後方についている。Sダクトのアウトレットに近く、Sダクトの機能を高めるためのデバイスという想像も成り立つ。あるいは、Sダクトの機能を高めつつ、かつてのバニーイヤーと同様の役割も果たしているのかもしれない。フロントサスペンションのアーム類やリヤビューミラーのステーも同様で、車両ミッドエリアにあるモノは、とにかくなんでもアップウォッシュをダウンウォッシュに切り替える役割を担わせたい。

 アルファロメオやメルセデスが採用したこのアイデアが合法ということになれば、他チームの追随は必至だろう(そして、早晩禁止される運命か)。

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