「代表は野球が好き」高田前GMも太鼓判 DeNA三原球団代表が目指すチーム作り

DeNAの三原球団代表(左)と吉田孝司球団代表補佐兼スカウト部長【写真:荒川祐史】

熟練の吉田球団代表補佐兼スカウト部長と送る貴重な対談企画【前編】

 2018年オフ、横浜DeNAベイスターズは大きな転換期を迎えた。2011年12月からGMを務めてきた高田繁氏の退任に伴い、三原一晃球団代表が編成トップに就任。日本球界では、プロ野球経験のない人物が編成の最高責任者となるのは極めて異例だけに、新体制は各方面から大きな注目を集めている。

 高田繁氏と言えば、現役時代は巨人のV9時代を牽引し、引退後は日本ハムとヤクルトで監督、巨人ではコーチを歴任。日本ハムでは2005年から3年間、GMとして手腕を振るった人物だ。DeNAでも、就任以来7年にわたりチーム再建に尽力し、勝てるチームの礎を築いた。

 誰もが認める野球人からチーム編成を引き継いだ三原球団代表は、どんなチーム作りを進めていくのだろうか。今回は、経験豊富な吉田孝司球団代表補佐兼スカウト部長との貴重な対談を通じ、高田氏から得た学び、チームが目指す方向性、常に意識する存在など、三原球団代表が秘める思いを前後編でお届けする。

―高田GMから球団を引き継ぎ、注目を集める中でプレッシャーを感じることはありますか?

三原「私はすごいですよ(笑)。もう大変」

吉田「代表は感じているらしいんですよね(笑)。でも、私も感じるくらいですから、やっぱり代表は感じておられると思います」

―これまで「自分は高田GMになることはできない」と仰有っていますが、三原球団代表が目指すカラーを教えて下さい。

三原「基本的にチーム作りや編成は、高田GMがやってこられた『ドラフトでいい選手を獲って、ファームでしっかり育てる』という姿勢を一切崩すことなくやっていこうと思います。まずは、高田GMが作ってくれたものを引き続きやっていきたい、というのが一番ですね」

―吉田球団代表補佐兼スカウト部長や進藤達哉編成部長をはじめ、経験豊富な方々のサポートがあると聞きます。MLBでは、プロ野球経験のないGMを経験豊富な野球人がサポートし、合議制で意思決定する形が主流です。

三原「GM制を廃止し、組織で対応するというのは、まさにその形です。DeNAベイスターズという組織で、今後いろいろな案件に対応し、毎年反省や経験を積み上げながら、よりいい意思決定ができる組織になっていく。DeNAベイスターズらしい球団がずっと続いていくためには、これが一番なんじゃないかと。だから、球団代表が私である必要はなくて、誰がなってもいい意思決定をできる組織がベスト。これは高田GMとも話して決めたことなんですが、高田GMが築き上げたチームで終わらせるのではなく、その後もずっと続いていけることが重要だと思ったんです」

―高田GMが築き上げたチームを基礎に、DeNAベイスターズらしさを積み上げる作業ですね。

三原「DeNAベイスターズになって7年間で、高田GMを筆頭にチームの基本となる部分は作り上げて下さった。そこに、新たなものを加えて改良する作業が残っているんじゃないかなと思います。だから、今さら土台をいじって壊す必要はないですね」

「即断即決する高田GMの隣で勉強をして、だいぶ勇気がついた」

―そこに三原球団代表のプロ野球経験者ではないからこそ持てる視点も加わると。

三原「それがあるといいですね(笑)。私は野球は本当に素人なんで、選手を見る目とかプレーを見る目はまったく自信がないですけど、ただチーム全体を見る目や戦力分析という部分で、自分なりの価値の出し方があればいいと思います」

吉田「いや、大丈夫です。代表は結構、野球を見ておられるから。ものすごく野球を見るのが好きなタイプ。そういう人の方が見る目があるかも分からないですよ(笑)」

三原「吉田部長にはざっくばらんにいろいろ相談もできるし、積極的に意見も聞かせてもらうので心強いです。ただ、この世界は結果がすべてだから(苦笑)。今年は今までのシーズンの始まりとは違うし、キャンプに臨む時も悪いことしか考えなかったですね」

―悪いことですか?

三原「高田GMに教えていただいたんですけど、ベンチに入る人はポジティブなことばかりを考えていればいい。ただ、フロントは常にネガティブなことを想定しておかなければいけない。何かが起きたらすぐに対処するのが仕事なので、立っている場所が全然違うんだ、と」

―リスクマネージメントですね。

三原「怪我だけではなく、調子が落ちることもある。人間のやることですからね。そういったネガティブな想定が全部頭の中に出てくるわけです(笑)。と言っても、考えて答えが出るわけではないので、始まれば腹を据えてやるだけ。しっかり準備する、ということだと思います」

―プロ野球経験がないことに対する気後れはありましたか?

三原「球団代表になって2年間、即断即決する高田GMの隣で勉強をして、だいぶ勇気がついたというか、ある程度覚悟はできたような気がします。私が怖がったり手が縮んだりすると、逆にチームに迷惑がかかる。決める時はバシッと決めて進み、私がブレーキを掛けることにならないようにと思います」

―高田GMと常に一緒に行動なさっていたそうですね。

三原「同じ生活をしていた感じです。同じ試合を見ながらGMの呟きまで聞いているうちに、ようやく2年目で同じような思考回路になってきた。感覚が似てきたというか、高田GMの思考が自分の頭の中に入ってきたというか。それでも全然違うんですよ。全然違うけど、こういうプレーは怒らなければいけないとか、褒めなければいけないところはしっかり褒めないといけないとか、大切なことを教わりました」

「私はファンの目線や、ファンをちゃんと意識したことをやっていきたい」

―吉田球団代表兼スカウト部長からご覧になっても、2年間、三原球団代表は大変な努力なさったのでは。

吉田「2年間ずっと側にいて、高田GMの考えも本当によく分かられているから、これからも参考にできると思いますよ。一番いい勉強ができたんじゃないかな。代表は本当に野球を見るのが好き。高田さんも『普通あんなに見ないよ。俺も負けている時にはグラウンドから出ていきたいくらいだけど、代表はずっと見ているんだ』って言ってたから(笑)。代表は野球が好きなんだなって話を、GMとしてました」

―高田GMの手腕しかり、野球しかり、近くで見ることから始まっている。キャンプでもウォーミングアップからグラウンドでチームの様子を間近で見ていらっしゃいました。

三原「見るしかできないですからね(笑)。キャンプでは人の動き、主にコーチや監督を見ながら、どういうことが起きたり、どういう空気になっているかを嗅ぎ取るようにしていました。あとは、フロントの人はタクシーに乗る人が多いみたいですが、遠征中のバスでもいろいろ気付きがあるので、私はずっとバスに乗ろうと思っていますね」

―チームで監督やコーチ、選手と同じ環境に身を置くことは大事だと。

三原「はい、本当に重要だと思います。そこにいることで、選手や監督、コーチからの私の見え方も変わってくると思うんですよね」

吉田「選手は見てますからね。一緒にいてくれるな、タクシーに乗ってるなっていうのは、選手は見てないようで見ていますよ」

―チームを作り上げる上で参考や目標にする例はありますか。

三原「例えば、編成ではトレードやFAなどの打ち手がある中で、日本ハムさんはすごく独特なやり方をされている。でも、日本ハムさんのやり方を横浜という土地でやって、ファンに受け入れられるのか、という議論もある。だから、いろいろなことを参考にはしますが、目指すモデルケースはあまり作らない方がいいような気がしています。ベイスターズにはベイスターズなりのやり方であったり、ベイスターズらしさがあるはずだし、そこはやっぱり大切にしていかないといけないなと思います。そういった意味で言うと、私はファンの目線や、ファンをちゃんと意識したことをやっていきたい。それは私が編成を見ることになり、スタッフみんなに集まってもらった時に、一番最初に話したことです。やっぱりファンを意識することは、すごく大切にしていきたいと思いますね」

 三原球団代表が大切にしたい「ファンの目線」とは何か。後編に続く。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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