「同じ失敗は絶対に繰り返さない」DeNA三原球団代表が心に秘める今季の決意

DeNAの三原球団代表(左)と吉田孝司球団代表補佐兼スカウト部長【写真:荒川祐史】

熟練の吉田球団代表補佐兼スカウト部長と送る貴重な対談企画【後編】

 巨人のV9時代を支えた現役時代はもちろん、引退後も監督・コーチ、フロントとして手腕を発揮した高田繁氏が、2018年オフに横浜DeNAベイスターズのGM職を退いた。その高田氏の後任として編成トップに立ったのが、プロ野球経験を持たない三原一晃球団代表だった。

 日本球界では異例の球団体制は各方面から大きな注目を集めるが、三原球団代表はプレッシャーを感じる中にも、よりよい組織作りに向けて大きな意欲を燃やしている。そんな三原球団代表を支えるのが、経験豊富な吉田孝司球団代表補佐兼スカウト部長だ。高田氏から引き継いだベイスターズをより魅力的な球団とするため、2人はどんな協力体制を敷いていくのか。また、2人が意識する「ファンの目線」とは何か。貴重な生の声をお届けする対談企画後編だ。

――高田GMが7年間で築き上げた基礎に、新たなものを加えながら改良していきたいと仰有っていました。引き継いだチームの基礎を具体的に教えていただけますか。

三原「まず、ドラフトでいい選手を獲る。ドラフトを成功裏に収めるということが全ての源泉なので、これを継続的にやっていく。そして、ドラフトした人材をファームを中心に育てていく、という部分が2本柱になります」

――ベイスターズは、特に高田GM体制がスタートした2012年から、ドラフトに成功しています。2012年には3位で井納翔一投手、6位で宮崎敏郎内野手、2014年からは山崎康晃投手、今永昇太投手、浜口遥大投手、東克樹投手とドラフト1位入団の大卒投手が当たりました。

三原「ベイスターズがここ最近、力を付けたのは一も二もなくドラフトの成功にあります。客観的に見ても、ドラフトした選手がこれだけ活躍するチームはなかなかないでしょう。吉田部長を筆頭にスカウト部隊には1年間すごく苦労していただいている。ドラフトの成功を今後も継続していくことは、うちにとっては生命線だし、これをしくじると本当に危ないと感じています」

――ドラフトや育成を成功させるためには、現場とフロントの連携が重要になります。

三原「スカウトの方々と話をするスカウト会議、ファームで育成する方々と話をする育成会議は、定期的にやっています。横須賀市のファーム施設で行う育成は、物理的に距離が離れているので、今年から萩原龍大チーム統括本部長に常駐してもらって、リアルタイムでコミュニケーションを取れるように変えました。あとは、こまめな情報交換を心掛けています」

――高田GMが退任され、ドラフト戦略を決めるプロセスにも変化は生まれるのでしょうか。

吉田「今までとパターンとしては変わらないと思います。まず、各担当地区のスカウトが『こういう選手がいますよ』と連絡をくれて、私が見て、本当にいいなと思った時に、高田GMに『実際に見に行きましょうよ』としていました。今度は進藤(達哉)編成部長が私と一緒に見に行って、三原代表にも時間がある時は一緒に行ってもらう形にしようかと」

三原「GM制度を廃止して、今年が初めてのドラフトになるので、現段階で確定的なことは言えませんが、やるべきことは変わりません。去年までは高田GMと吉田部長のお2人で、ドラフト戦略を揉むようにして考えて、最終的に私にお話をいただいて『それで行きましょう』と決めた。今年はここに進藤編成部長に入ってもらって、3人で揉むように決めていければと思います」

吉田「スカウトにはセオリーがあるようでない。これができれば必ず成功します、ということはないんですよ。だから、大変なことは大変なんだけど、私はできる範囲のことを精一杯やらせていただきます」

「5年後のチームがどうなっているのか、どの選手が核となるのか、そこまでは想定しています」

――頼もしいですね。

三原「もちろんです。これだけ実績のある方に信頼を置かない理由がないですよ、さすがに(笑)」

吉田「スカウトとしては、そう言っていただけるのが一番うれしいこと。ドラフトが成功すると、若いスカウトも頑張り甲斐がありますよ。あとは選手も頑張ってくれているからね。いい選手を獲ってきても、結果を残してくれないとどうにもならない。選手の頑張りと若いスカウトの頑張りは、三原代表にもすごく評価していただいています」

――日々全国で人材発掘に努めるスカウトの方々のモチベーションを保つことも大切です。

三原「我々ができることは本当に限られていますが、甲子園にスカウトの方が大勢集まると聞いたら、そこには顔を出したり……」

吉田「そうそう、三原代表はそれをやってくれるんですよ。甲子園まで来て、会食を開いてくれます(笑)」

三原「またよく食べるんですよ(笑)、スカウトのメンバーは」

吉田「この時とばかりにご馳走になってね(笑)。そういう心遣いがうれしいです」

三原「細かいところがスムーズにいく潤滑油になるので、できるだけ気を配りたいと思います」

――昨年までドラフトした選手は社会人や大学生がメインでした。

吉田「高田さんがGMに就任した当初は、チームに戦力がなかった。だから、大学生や社会人の即戦力を獲ったんです。なんだったら『30歳過ぎていてもいいから、すぐ使える選手を』ってね(笑)。ちょっと選手が育ってきたから、高校生もドラフトで獲ろうとなったのは、ここ2、3年ですかね。少し先を見据えて獲れるようになりました」

三原「育成したい選手と即戦力の割合は、その年のチームの状況に大きく影響を受けますね。もちろん、戦力分析で何年か先を見るので、それとの照らし合わせにはなりますが」

吉田「去年も1位指名は最初、小園(海斗)だったじゃないですか。チームに少し余裕が出てきたんですよね。小園が獲れなかったら即戦力に行こう、と代表と話していたんですよ」

――チーム作りをする上で、どのくらい先の未来まで思い描いていますか?

三原「5年後のチームがどうなっているのか、どの選手が核となるのか、そこまでは想定しています」

吉田「その通りにいけばいいんだけど、なかなかね(笑)」

三原「そうなんですよ(笑)。だから、最高のパターン。その次のパターンって、何パターンか考えています」

吉田「生身の人間だから怪我もするしね。ドラフトした後の育成も大事ですよ」

「ファン目線を考える姿勢は崩さずに持っていきたいと思いますね」

――高田GM体制の7年間で、だいぶ選手層が厚くなったのでは。

三原「選手層の厚さはまだまだ。編成を預かる身として、満足することは決してありません。それでも、楽しみな若い選手はどんどん出てきた。桑原(将志)だったり、去年活躍してくれた京山(将弥)だったり、阪口(皓亮)も今年デビューしてくれるでしょうし。少しずつでも高校生から育成して1軍で活躍する選手が出るのはうれしいことです。ただ、他球団やメジャーと比べたら、体制としてはまだまだです」

――目指す方向には進んでいるようです。

三原「近づいてきていると思いますし、結果も出てきているとは思います」

――ファンが気になるのは、まず今年のチーム状況だと思います。

三原「去年は本当に悔しい思いをした1年でした。今年はメンバーに大きな変化があった年ではないので、去年悔しい思いをした選手が、いかに反省や悔しさをぶつけてくれるか、というシーズンになると思います。首脳陣を含めて反省の多い1年だったので、そこをどう改善し、新しいチームにできるのかが試される。私を含めて、去年と同じ失敗は絶対に繰り返さないこと。それを合い言葉のように話しています」

――チーム作りをする上で、ファンの目線を意識すると仰有っていました。

三原「ファンに見てもらいたいものは何なのか。それをちゃんと意識したり、ファンに見せてはいけないものは何なのかを意識したり。やっぱり、ファンあってのプロ野球ですから」
 
――ファンが離れたら本末転倒になってしまいますね。

三原「そうですね。我々が参入した2012年当時、横浜スタジアムはものすごく寂しい球場だったんですね。それが今、200万人を超えるお客さんが来てくれる。ファンは絶対に無視してはいけないし、大切にしなくてはいけないと思います」

――スカウトの皆さんもファン目線は意識しますか?

吉田「もちろんです。幸い、今はファンが意識してくれてるんですよ。これだけチームを見てくれているんだから、今強くならないと、また離れていってしまう。だから、今が一番大事。それはスカウトも育成も考えていかないといけない。我々はまたドラフトでいい選手を獲って、しっかり育てて、そうして本当に強いDeNAにしていきたい。ファンがこっちを向いてくれているから、それに応えないとね」

ー継続的に勝っていける、継続的にファンを喜ばせられるチームですね。

三原「当然、強いという要素もそうですけど、見に行く価値がある球団にしていかないといけない。感情移入ができる選手がいたり、チームであることは重要なことだと思います」

吉田「DeNAは素晴らしいファンが多いから、それに応えられるように、またスカウトにハッパ掛けておきますよ!」

 新体制のベイスターズがファンを意識しながら、5年後、10年後にどんなチームになっているのか。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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