心の叫びに耳傾け 少年補導一筋32年、今春定年 長崎県警職員・竹山和代さん(60) 「特効薬はない」対話を重ね信頼関係

 非行に走った子どもたちの立ち直りを支援する少年補導職員。2012年から長崎県警少年課少年サポートセンター長を務めてきた長崎県警職員の竹山和代さん(60)が今春、定年退職を迎える。補導職員一筋に32年。子どもたちと向き合い、厳しくも温かいまなざしで成長を見守ってきた。

 「ねぇ、ちゃんとご飯は食べとると?」。子どもたちと初めて話すとき、いつも最初にこう尋ねる。踏み込み過ぎず、かといって離れ過ぎず。まずは彼らの生活リズムをつかみ、徐々に距離を近づけていく。そうやって、竹山さんは多くの子どもたちを更生に導いてきた。

 長崎県警の少年サポートセンターは長崎市と佐世保市に計3カ所。非行などさまざまな問題を抱えた小学生から高校生を支援している。窓口相談や街頭補導、時には農作業やスポーツで一緒に汗を流す。

 長崎県新上五島町有川郷出身。28歳の時、新聞の求人欄を見て「県の事務職」と勘違いして応募した先が婦人補導職員の仕事だった。不安なまま、街頭補導で万引少年を追い掛けたり、家出少女をたまり場から引っ張り出したりする日々が始まった。

 平日も休日も、まちに出て子どもたちに声を掛け続けた。校内暴力の嵐が吹き荒れた時代。「やぜかっさ」「帰れ」。容赦ない言葉を浴びせられた。「もう辞めよう」と思ったのは一度や二度ではない。しかし、補導職員を始めて約1年後。この仕事が天職だと思わせてくれた少女との出会いがあった。

 校内暴力などの非行を重ね、不登校になった中学3年の女子生徒=当時(15)=。「何か嫌なことがあった?」。いくら優しく問い掛けても、女子生徒は何も言葉を発しない。無力感が込み上げた。だが、初対面の数日後、女子生徒は自らセンターを訪ねて来た。次第に会話も増え、竹山さんは生徒と心が通い合うのを感じた。

 「彼女がどうして心を開いたのか。理由はわからない。でも、子どもたちと信頼関係を築くのに『特効薬』はない。対話を重ね、最後は『またおいで』と見送る。その繰り返しです」。結婚し母親になった彼女との交流は現在も続いている。

 この30年で、子どもを取り巻く環境は大きく変化した。たばこ、万引などの非行少年は目立たなくなり、ネット空間や会員制交流サイト(SNS)上でのいじめ、中傷などが増えてきた。まちに出て目を凝らしても子どもの「心の叫び」は見えにくくなった。ただ、竹山さんは、子どもたちが抱える問題の本質は同じだと考える。「昔も今も、学校や友人との関係に悩んでいるし、他人を思いやる気持ちを失ってはいない。大人が、どれだけ真剣に彼らの言葉に耳を傾けるかが大切」

 4月から長崎市の公益社団法人長崎犯罪被害者支援センター内の性暴力被害者支援(サポートながさき)専門相談員として働く。子どもたちの声に耳を傾け続け、接した人数は数え切れない。センターを去る日が近づいてきた今、かけがえのない時間を共有した、たくさんの子どもたちの顔が次から次に、まぶたに浮かんでくる。

「私たちの仕事は、後から結果が出る。子どもたちの声を大事に聞くことが大切」と語る竹山さん=長崎県警本部

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