実験室で作られたプロトタイプのタイヤの性能は?!|横浜ゴム タイヤ冬期講習会【後編】

横浜ゴム タイヤ試乗会 吸水バルーンを通常よりも増加させたプロトタイプのアイスガード6

日本未発表のオールシーズンタイヤや現行スタッドレスタイヤの性能比較など、前編ではウインタータイヤの走りを中心にとしたレポートをお届けしたが、後編では世の中に出て行く前のプロトタイプタイヤや、普段ほぼ意識しないトラックやバス用のタイヤの試乗、そして横浜ゴムの行っているタイヤ以外の意外なコトについてもお届けしようと思う。

前編の模様はこちらから

吸水バルーンマシマシの実験用タイヤがスゴい

横浜ゴムのメディア勉強会では、さらに面白い試みがいくつか催された。

まずひとつめは同社スタッドレスタイヤである「アイスガード6」(iG60)の発展性。

自らが「冬の怪物」とまで謳うiG60が、今後どのように進化して行くのか? そのヒントとなる試作スタッドレスタイヤで、氷上テストをすることができた。

iG60が高い氷上性能を持つ理由は、そのコンパウンド性能の高さゆえであることは前述した通り。特にプレミアム吸水ゴムに含まれる「新マイクロ吸水バルーン」がトレッド面に現れることで、親水性のあるバルーンの殻と、殻が割れたことによってできる空洞が氷とタイヤの間にある水膜を吸水する。さらにバルーンの殻が氷面をひっかくことで、制動力や駆動力に貢献するのである。

横浜ゴム タイヤ試乗会 アイスガード6(iG60)

そして試作スタッドレスタイヤではこの吸水バルーンを、なんと通常の約3倍に増量した。

果たしてその効果は明らかに“3倍増し”の方が手応え感が強く、20km/hのパイロンスラロームでは明らかに安心感が高かった。

しかし同じく20km/hの直線制動では、氷上での蹴り出し効果が高い分だけスピードが出てしまい、最初はうまくその制動距離を縮められなかった。

横浜ゴム タイヤ試乗会 吸水材を多く配合したプロトタイプのアイスガード6では通常モデルよりも手前で停止することができた
横浜ゴム タイヤ試乗会 通常の市販モデルであるアイスガード6

それでも驚いたのは、時速にして2キロの差がありながらも停止地点が、iG60とほぼ同じ場所だったこと。これに注意して走行した2回目移行はiG60に対して1m近い差を付けて止まることができた。

ここから要約するに、いくら氷上性能が上がってもその分スピードが出てしてしまえば、アドバンテージは簡単に失われるということ。当たり前だがやっぱり凍った路面では、乗り手がいい気にならないことが大切である。

実験室で作ったタイヤはやっぱりスゴい!|写真ギャラリー

ちなみに横浜ゴムのテストドライバーはこうしたテストにおいて、常に制動地点までの進入速度を常に一定に保つ。そしてテストでは約8%、その制動距離を縮めたという。つまりいくら3倍増しのシャア専用ザクを与えられても、乗りこなせなければタイヤ開発はできないわけだ。

ちなみにこの吸水バルーンはどのくらいまで増やすことが可能なのかと訪ねると、「約5倍くらいまでは増やせて、単純な氷上実験ではその成果も出ている」という。

しかし実用化が難しいのは、まず材料コストが増えてしまうことがひとつ。そして吸水バルーンによってミクロの穴がトレッド面に増えることで、耐摩耗性がやや落ちる問題が見受けられた。ハッピーターンのように増量すればよい、というものではないらしい。

だが少なくともコストに関して何らかの技術で克服できれば、3倍増しなら可能性もなくはなさそう。またそれ以外の隠し球も含めて、iG60には後継モデル(iG60+か?)への拡張性がまだまだありそうな雰囲気であった。

横浜ゴム タイヤ試乗会 タイヤ開発も行っているプロドライバー奴田原選手による同乗走行も行われた
横浜ゴム タイヤ試乗会 トラック・バス用タイヤZEN 902ZE(フロント)と、ウルトラワイドベースタイヤであるZEN 902L(リア)を装着したボルボのトラクターヘッド

タイヤ2本分を合わせたウルトラワイドなトラック用タイヤ

これ以外にも今回は、トラック・バス用のスタッドレスタイヤ性能を確認することができた。

テスト車輌はVOLVO社製トラックで、フロントタイヤにはスタッドレスながらも耐摩耗性と低燃費性能を重視する「ZEN 902ZE」(295/80R22.5)を装着。トレーラー側には455/55R22.5というウルトラワイドベースタイヤ「902L」を4本履かせた仕様で、約10%の勾配を登り切る様子が見学できた。

ちなみにこの455という驚きのトレッド幅を持つタイヤは、これまで11R22.5サイズのタイヤを二本組み合わせて使っていた従来に比べ、約20%の軽量化を可能とした。またトレッド幅も従来比で20%ナロー化し、トラック・バスの燃費だけでなく輸送コストの低減やスペース効率の向上にも貢献しているという。

またテストドライバー氏による運転ではあったが、トレーラーヘッドでの雪上スラローム体験も助手席で味わった。

その動きは予想に反して鈍重ではなく、操舵に対してタイヤがきちんとグリップを立ち上げ、旋回時には適度なロール感をもって横Gを維持した。

横浜ゴム タイヤ試乗会 トラック・バス用タイヤZEN 902ZE(フロント)と、ウルトラワイドベースタイヤであるZEN 902L(リア)を装着したボルボのトラクターヘッド

切り返しでは自然な挙動で反対側にヨーモーメントを起こし、アクセルを踏めば横滑りなく立ち上がる。そしてブレーキでは独特な間隔のABSを効かせながら、きっちりとその巨体を止めた。

「こうした場面でトラックやバスが使う生産財タイヤ(産業に関わるタイヤ)に求められるのは何より安全性。みなさんが普段使う消費財タイヤのように、ピンポイントな限界性能の高さやドライビングプレジャーは求められませんから、その挙動はつまらないものに感じるかもしれません」

そうテストドライバー氏はコメントしたが、どうしてどうして。この巨体を普通車のように走らせるタイヤとその運転技術には、至極感心させられた。

傷を自己修復するコート材も開発中

横浜ゴム タイヤ試乗会 横浜ゴムが開発している自己修復するコート材のテスト風景

そして横浜ゴムのマルチビジネス部門であるハマタイト・電材事業部からは「自己修復コート材」と呼ばれる塗料も紹介された。

これは自動車の場合は塗装の最終段階で塗布されるクリア塗料。従来のコート材よりも弾性が高い材料を使うことによって、傷を受けても時間が経つと元に戻ることが最大のセールスポイントだった。

当日は金ブラシでテスト社をゴシゴシ傷つけるという大胆なデモンストレーションが行われたが、お湯をかけると塗装面は見事に復活(気温が寒いため特別な処置。普段はそのままで修復可能だ)。クリア部分を破断するほどの傷には当然対応できないが、柔軟性のあるパーツや弱い部分のコートとしては有効で、たとえばカギ穴周辺やドア回りの細かい傷などは、このクリア塗装を使えばつきにくくなくなるだろう、とのことだった。

[筆者:山田 弘樹/撮影:横浜ゴム]

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