【膝痛&腰痛に悩むアラフォー登山者へ】必見!久々の登山前に最低限やっておきたい簡単筋トレ 久々に登山をしたら、終わってから「腰が痛い、膝が痛い」というのはよくある話。そうならないために、アラフォー以上の世代が登山をする上で、最低限鍛えておきたい部位や、簡単な筋トレ&ストレッチ方法など、保健学博士の石田良恵先生に教えてもらいました。

20歳をピークに筋肉量は減少していく!?

何歳になっても楽しめるのが登山のいいところ。しかし、運動不足のアラフォーが急に始めると、終わってから、あるいは登山中に、膝痛や腰痛に襲われたという話もよく聞きます。まだまだ体力には自信があるし、どちらかというと昔はスポーツが得意だった…という人ほど、そういうことになりがちかも……。

そこで今回は、保健学博士であり、ご自身も65歳から登山をスタートし国内外問わず山に登り、生涯登山を目指す「山筋ゴーゴー体操」を提唱している石田良恵先生に、アラフォーが体を痛めてしまう原因から、トレーニング方法など詳しく教えてもらいました。

歳をとる上で避けられない宿命

ライター
古川

運動神経にも自信があり、特に日常生活では体力の低下を感じていないのにもかかわらず、40歳を過ぎた頃から、長時間歩くと「膝が痛い」「腰が痛い」さらには「思いも寄らない場所で転ぶ」…
こういったことが起こるのは何故なのでしょうか?

石田先生

まず、人の体は成長期の終わりを迎える20歳をピークに筋肉を使っていても筋肉量は減少していきます。後ほど説明しますが、この筋肉量の減少こそが、膝や腰の痛みなど、さまざまな体のトラブルへと繋がるのです。
気持ちが若く、いくら気力があっても、歳をとる上で避けられない宿命として受け止めましょう。

ライター
古川

20代がピークとは、想像以上に早くてびっくりです……。きちんと筋肉量が減少していることを自覚しておく必要がありますね。

登山で重要な部位の筋肉がいちばん落ちやすい!

石田先生

加齢によって減少する筋肉量は、部位ごとによって異なってきます。もっとも落ちるのが、ふとももの表部分「大腿前部」、その次に「腹筋」です。

ライター
古川

筋肉量は均等に減少していくわけではないんですね。大腿前部や腹筋は、登山に関係する部位なんですか?

石田先生

実は、大腿前部の筋肉は登山でもっとも使用する部位。斜面を上がっていく時に、足を持ち上げるのはこの筋肉です。さらに、下りでは体重を受け止める重要な役割をもっています。

したがって、大腿前部の筋肉が弱ると、下りで着地した時の負担がダイレクトに膝に伝わる。つまり膝痛の原因は、大腿前部の筋肉が減少していることが多いんです。

ライター
古川

なるほど!膝そのものではなく、太ももの筋肉が関係していたのですね! それでは、腹筋が減少すると登山にどんな影響があるのでしょうか?

石田先生

腹筋は、全身のバランスを保ち、前屈みにならないよう正しい姿勢を維持する働きがあります。腹筋が弱ると姿勢が悪くなり、そのまま長時間歩き続けることで、腰に負担がかかり、腰痛がおこりやすいんです。

ライター
古川

2つとも、登山をする上でとっても重要な部位なんですね。

筋肉量は筋トレで維持・向上できる!

ライター
古川

太ももや腹筋は、日常の動作でも使っていると思うのですが、それだけでは筋力を維持するために不十分ということなのでしょうか?

石田先生

そうですね。よく「登山をするからといって、前もって体を鍛える必要はない」と聞くことがあると思いますが、それは違うんです。

筋力は“ややきつい”と感じる負荷をかけないとどんどん低下していってしまいます。きちんと負荷をかけて鍛えることで、筋肉量を維持・向上させることができるんです。

アラフォー以上が痛めがちな、膝痛と腰痛を予防したいなら、最低限「大腿前部」と「腹部」の筋肉は、積極的に鍛えていきたいですね。

【まとめ】・筋肉量は加齢とともに減少。登山中の体の痛みへと繋がる。・膝痛と腰痛予防に、最低限鍛えておきたい部位は「大腿前部」と「腹部」

自宅や会社でできる! イスを使った簡単筋トレ

とはいえ、ジムに通うとか、本格的なエクササイズを毎日続けるのは難しいですよね。そこで今回は、仕事中やテレビを見ながらでも簡単にできる筋トレを石田先生に教えてもらいました。

どの部位を鍛えているかを意識しながら、まずは正しいやり方を身につけ、少しずつ体を慣らしていきます。ラクにこなせるようになってきたら、無理のない範囲で、回数やセット数を増やし、ステップアップを目指しましょう。

膝痛予防トレーニング

●鍛えられる部位:大腿前部
太ももの上下運動で、大腿前部を鍛え、膝痛を予防するトレーニング。

<目安:左右各5〜20回×1セット>

① イスに腰かけ、背もたれに背中はつけず、背筋を伸ばす。腕は胸の前で軽く組む。片方の脚をまっすぐ前に伸ばし、つま先をあげる。

② かかとを直角にのばし、ゆっくり約5〜10cm上げて①の状態まで下げる動きを繰り返す。
ポイント!上下運動が難しい場合は、①の脚を上げた状態をキーブするところからはじめる。

腰痛予防トレーニング

●鍛えられる部位:背筋・腹筋・股関節・腸腰筋

背筋と腹筋、さらには股関節まわりの筋肉や、骨盤内にある腸腰筋を同時に鍛えることで、腰痛を予防するトレーニング。

<目安:5〜10回×1〜2セット>

① イスに腰かけ、両手でイスの両側をつかみ、目線は前を向く。背もたれに背中はつけず、背筋を伸ばす。

② 腹筋に力を入れ、両足の太ももをゆっくり約10cm持ち上げ、ゆっくり①の状態へ下ろす動きを繰り返す。後ろに反り返ったり、息をとめたりしないように注意。
ポイント!電車の中や仕事中に行う場合は、上げ下げをせずに②の状態をキープするだけでもOK。

休憩時と下山後に!3つのストレッチ

さらには、毎日の筋トレだけでなく、登山の休憩時と下山後にストレッチを行うことも、膝痛や腰痛の予防に重要。どこでも簡単にできる3つのストレッチをご紹介します。

大腿前部のストレッチ

大腿前部をゆっくり伸ばすことで、疲労回復や筋肉のけいれんの予防につながります。

<目安:左右それぞれ20〜30秒ずつ>

① 壁や木につかまり、片脚を後ろに曲げ、同じ方の手でつま先を持ちかかとをお尻に近づける。
② 曲げた脚を、ゆっくり真後ろへと引っ張る。このとき膝が横に開かないよう注意。

太ももの内側・股関節・肩まわり・背中のストレッチ

登山の時によく使う、大腿内側、股関節、肩まわり、背中を同時に伸ばせるストレッチ。血流を促進し、関節の可動域の回復と、疲労回復につながります。

<目安:左右それぞれ20〜30秒ずつ>

① しこを踏むように両脚を左右に大きく開き、膝に手を置く。
② 膝が内側に入らないよう注意しながら、肩を内側にひねるようにして地面に近づける。

大腿後部のストレッチ

脚を持ち上げる動作には、大腿後部の筋肉も大きく働きます。このストレッチで大腿後部をしっかりと伸ばしましょう。

<目安:左右それぞれ20〜30秒ずつ>

① 近くの岩や斜面に片脚をかけ、大きく息を吐きながら前傾して、太腿後部を伸ばす。

特に、腰や膝に負担がかかりやすい下りでは、30分に1回のペースで3つのストレッチを行うのがおすすめ。水分補給や行動食を摂取するのと同じような感覚で、ストレッチも習慣づけておくといいですね。下山後も、バスや電車に乗る前に忘れず行いましょう。

トレッキングポールや自分の体重も意識して!

最後に、筋トレとストレッチ以外で、膝痛や腰痛を予防できる方法はないのかもお聞きしました。

トレッキングポールは2本使いが鉄則

石田先生

40歳以上の人は、トレッキングポールを使うのがおすすめです。それも、必ず両手に1本ずつ、2本使うようにしましょう。足にかかる負担がポールに分散されるのとともに、筋肉量が下がるとバランス力も落ちてくるので、2本使うことでより安定感が増し、転倒予防にもなりますよ。

ライター
古川

「トレッキングポールを使うなんて邪道だ!」という声もいまだに聞きますが、アラフォー以上の世代は、安全のための必須道具と考えた方がよさそうですね。

体重の重みが体の痛みにも繋がる

石田先生

あとはザックの重さを軽くすることで、腰や膝への負担を軽減できるのはもちろんですが、意外と見過ごしがちなのが自分の体重。“体重+ザックの重さ”とトータルで考えましょう。

ライター
古川

ザックの重さばかり意識していたので、自分の体重も体の痛みに繋がるとはちょっとショック……。

石田先生

目を背けずに、まずは自分の肥満指数(BMI)をチェックしてみましょう。計算式は「体重(kg) ÷ {身長(m) X 身長(m)}」。BMI25以上の人は肥満に当てはまるので、その分体に負担がかかります。

まずはあまりアップダウンの無い低山を歩いて、体重を減らすことからはじめていくといいですね。

毎日コツコツ続けて、登山を長く楽しもう

ジムに行かなくても、自宅でTVを見ているときや、会社のデスクワーク中など“ながら筋トレ”でも十分と石田先生。短時間でも毎日続けることがとても大切だそうです。長く登山を続けるため、ぜひ今日から実践してみてくださいね。

*筋トレやストレッチを行う際は、必ず安全な場所で無理をせずに行ってください。

◆お話しをお聞きした方:石田良恵先生

1942年生まれ。保健学博士。女子美術大学名誉教授。日本ウエルネススポーツ大学教授。定年退職後、登山に目覚め、国内外問わず山に登る。生涯登山を目指した筋トレの必要性から「山筋ゴーゴー体操」を提案し、全国で普及活動や講座を行う。著書に『一生、山に登るための体づくり』(エイ出版社)などがある。

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