新型3シリーズは、食べ物に例えるなら食中も後味もいい・・・、といった感じ
あいにくの雨での試乗だったことを差し引いても、新型3シリーズの“いきなり”の完成度の高さと日本市場を配慮した装備やラインナップには脱帽だった。
BMWからリリースされた“スポーツセダンの新たな指標となるべく、走行性能を大幅に向上”という発表は、好みや求めるレベルにもよるかもしれないが、私は納得ができる。もちろん新型3シリーズの進化はそれだけではない。
骨太で重厚な走りに安心感や安定感を抱くのは既存モデルにも通ずるBMWらしいところ。また足腰に少々硬さは感じるものの、乗り心地とのバランスは損なわれておらず、むしろスポーティさは明確だ。
ワインディングを走ったときのハンドリングの印象を食べ物に例えるなら食中も後味もいい・・・、といった感じ。しいて言うなら、試乗車の330i Mスポーツのステアリングホイールの太さが私の手にも男性編集M氏にとっても太く、もう少し細くても良いのではと思ったけれど、その点は個々でぜひ確認してみていただきたい。
サイズの拡大を危惧するより、更なるダイナミックなハンドリング向上が望めるディメンションをチョイス
「新型3シリーズはどうなのよ?」と質問する知人や友人の興味はドライバビリティにあることがほとんどなので、そのあたりの印象からいきなりお伝えしたけれど、ここからはそれらの裏付けとなるポイントや新装備などを含む特徴を紹介していこう。
まず7代目となる新型3シリーズのボディサイズは全長4715mm×全幅1825mm×全高1440mmと先代に対し全長が70mm、全幅が25mm拡がり、ホイールベースも40mm長い2850mm。
「どのようなプラットフォームを採用しているかを言及する意味はあまりないと考えています」とプロダクト・マネージャー(製品企画)の方はおっしゃっていたけれど(確かにそうかもしれないけど)、“駆け抜ける喜び”=“走り”に注目したユーザーなら取りあえず土台は気になるところでは?
念のため申し上げておくと、新型3シリーズは現行5シリーズと同様の最新世代のFR系プラットフォームを採用している。近年、多くのメーカーと同様にフレキシブルなモジュラー式のプラットフォームを開発し、モデルごとに造り分けているのはBMWも同じなのだ。
ホイールベースの延長は、室内スペースの拡大よりもステアリングの取り付け位置付近からフロントタイヤまでの距離の延長に寄与しており、今後搭載予定の他のパワートレインを見据えた設計を採用している点が大きいという。ただ、その分というべきか、キャビンとエンジンルームの隔壁を一層強化したことで剛性がアップ。それを知らずに乗ってもハンドリング性能の向上は明白だった。
他にも、ホイールベースが延びると一般的に直進安定性が増す一方、ハンドリングは損なわれる傾向にある。が、今回のモデルは同時に車幅も拡大。車両サイズの拡大を危惧するよりも、よりダイナミックなハンドリング向上が望めるディメンションを選んだという明確な理由がある。
とは言え車幅では、先代は日本の立体駐車場への入庫を配慮し日本専用のドアハンドルや車幅1800mmにこだわった専用設計を採り入れていれていたではないか。
それについてうかがってみたところ、プロダクト・マネージャーの方の調査によれば近年の日本の機械式の多くが1850mm以下なら入庫可能という裏は取っていらっしゃった。が、古いタイプを利用することもあるかもしれないので念のためチェックは必要だろう。
切れ長のフロントフェイスに、伸びやかなサイドビュー
デザインは一層大型化されたキドニーグリルが1つのフレームで縁取られた一体型となり、より立体感も増している。
その裏側にはアクティブグリルシャッター(ラジエーターを冷やす必要がないときは閉じて空力を向上させる)を採用し、内蔵物を隠す。よりBMWの“顔”が、切れ長でキリッとしたアイラインを持つライトと共に引き立つ点でも貢献している。
また、BMWが“ホフマイスター・キンク”と呼ぶサイドウインドウ後端のピラー形状はCピラーと一体化したデザインとなり、サイドウインドウの流線形が一層強調され、サイドビューの伸びやかな印象が強まっている。
エクステリア以上に細部までに新しさが感じられるインテリア
室内の広さも全体のサイズに対し満足度は高い。後席の足下や膝周りの余裕も同クラスのモデルと同等かそれ以上。肩周りにも十分な余裕が取られている。
そんな室内でも特に注目すべきは、新型8シリーズから導入された“BMW Operating System 7.0”を採用したBMWライブ・コクピット。
タッチパネルを採用した大型コントロールディスプレイをセンターに、またコクピット前にはフルデジタル・メーターパネルを配置。インテリアの見栄え的にも質感向上を引き立てているだけでなく、インテリア全体の洗練ぶりと最新モデルらしさを表している。
運転席前のデジタルメーターは様々なカスタマイズができるのはもちろんだけど、試乗時では地図の上に情報メニューが載り、メインの地図部分は中央にフォーカスを当てて表示する。他のクルマのような項目毎に窓が仕切られているタイプと異なる感覚も新鮮、ワイド画面ぶりも共感しやすく視認性を兼ね備えたソレは誰にとっても使いやすいのではないだろうか。
メーターパネル右画面のタコメーターのメモリが反時計回り=下からビヨビヨビヨ~と回転が上がっていく感覚は他メーカーのモデルにも希にあるけれど、こちらも新鮮だった。
ただそれだけではなく、メモリが上方向に上がっていくという感覚は視覚的にも回転向上の様子が認識しやすく、ひいては画面全体の情報がより把握しやすいというメリットもある。
他にもシフトレバーまわりのパネル上に配置されたスイッチ類のデザインの統一感や質感も向上。基本的なデザインのみならず、細部にまで新しさが感じられる印象はエクステリア以上にインテリアのほうがより強いと思えた。
新型3シリーズに搭載される3つの特筆すべき新機能
長距離/中距離/周辺監視(広視野角)を役割分担する「3眼カメラ」
機能装備面でも特筆しておきたい機能を3つ取り上げておきたい。
まず日本で初導入となる3眼カメラを採用する運転支援システムを320iスタンダード以上の量産グレードに標準採用している。
これによって長距離/中距離/周辺監視(広視野角)を個々のカメラに役割分担でき、レーンキープの正確性やこれまでよりも遠方や広い視野での周辺の危険予測の精度が向上。それに伴い運転支援技術の性能面もこれに対応するように進化。全面的な性能向上に繋がっている。
バックが苦手・不安の方の味方「リバース・アシスト機能」
二つ目は新型8シリーズから採用している“リバース・アシスト機能”。
これは車両が直前に前進した最大50mまで、時速35キロ以下で走行した走行軌跡を記憶し同じルートをバックで走行できるという機能。例えば駐車場内でスペースを探していたけれど見つからず、バックで戻らなければいけない・・・というときや、狭い路地ですれ違いが不可能な場合にどちらかがバックして道を空けなければいけないという場面での助っ人機能。
リバースギアに入れるとタッチスクリーンにメニューが現れ、後退アシストという項目にチェックを入れたら、はい、スタート! 前述のとおり最大50m、速度9キロ以下で直前の前進走行軌跡を辿ってくれる。バックが苦手な方、不安なのは私も同様。ボディサイズが若干大きくなった分も含め、このアシスト機能の存在は意外と大きいかもしれない。作動中、様々なセンサーが安全確認を行ってくれるが、過信をせずドライバーも安全確認を行いながら活用することをおすすめします。
所有する楽しさに繋がるAI音声会話システム「BMWパーソナル・アシスタント」
最後はBMW初搭載となる、「OK BMW(オーケー ビー・エム・ダブリュー)」などと呼びかければ「ご用件をどうぞ」と、クルマと会話することで車両操作が行えるAI音声会話システム“BMWパーソナル・アシスタント”。
これはメルセデスがAクラスから採用を開始したMBUXと同類のもの。実際に人間同士で会話をするようにスムーズにとは正直まだいかないものの、クルマとの会話は案外楽しいものですよ。
「iPhoneのSiriが初期から現在へと進化しているようにBMWパーソナル・アシスタントも進化していく」とBMW担当者の方も言うがその通りだろう。使うほどにAIが学習し進化するという点では他の音声アシスタントと考え方は同様だ。この先のクルマの自動化に向かう進化を考えれば、メーカーのみならずユーザーにとっても採用をスタートさせることに意義がある、と考えたい。
ちなみに、システムを呼び出すワードは他の言葉を登録することもできるらしい。「YUKO(ユウコ)」と登録すれば、ユウコがエアコンの温度調整などを行ってくれるのだとか。AI技術が進んで、様々な忖度や大阪弁なども学んでいるという。クルマのパーソナライズ化も進めばますます所有する楽しさに繋がる機能ではないだろうか。
気になる日本初期導入モデルは・・・
新型3シリーズの初期導入モデルは、330i Mスポーツと3タイプの320i(SE、スタンダード、Mスポーツ)となる。
330iと320iともに2リッター直4ツインスクロールターボエンジンを搭載。320iは330iの出力調整を行ったエンジンであり、これは余談だけど本国で現在搭載を進めている320iのエンジンは新開発中。つまりこの日本仕様はそれを待たずに、まず性能調整バージョンの日本専用の320iを用意しているという。
日本では330iよりも320iのニーズが高いことを把握している日本サイドがユーザーが、選びやすいモデルにこだわった結果というのは嬉しい。ちなみにこれらのエンジンの構造面ではエキゾーストマニホールド一体型のタービンハウジングを新採用し、排気効率のダイレクトさも向上。これらに最新世代の8ATが組み合わされるというのが特徴だ。
計り知れない潜在能力を持った330i Mスポーツ
と、320iをご紹介しておきながら今回用意されていた試乗車は330i Mスポーツのみだったのでした、残念。
しかし330i Mスポーツの258ps/400Nmを発揮するエンジンはアクセルをどこから、どのくらい踏み込んでも厚みのあるトルクが得られる扱いやすさとレスポンスの良さにまず実用セダンとして好感を抱く。そしてアクセルを一気に沢山踏み込めばシャープだけれど太いトルクが伸びて一気に加速。スポーティな表情を見せてくれる。
その点ではハンドリングもしかり。試乗車にはM3にも採用されているアダプティブのアクティブディファレンシャル付きスポーツサスペンションが標準装備されていた。
ところによりちょっと足下が跳ねることもあったが、それでも路面にへばりつくような印象は終始続く。ウエットコンディションのなかワインディングに向かい、走行モードの“スポーツ”を選んで走ってみる。コーナリング中のハンドリングはクイックな印象を抱きつつ、とても素直。しかもそのハンドリングはコーナリングを続けるほどに走行ラインが細く=精緻に浮かび上がるような感覚すら抱けたと言っても決してオーバーではない。
もしハイスピードコーナリングや複合コーナーをドライ路面コンディションで走ったならタイヤのスイートスポット全面で路面を受け止め、その先は・・・と、まるでM3の想像インプレッションを書いているような気分になってくるからその潜在能力は計り知れず、すごそう。
走行モードをコンフォートにすれば、乗り心地も挙動も少しマイルドになる。「街乗りモードはやはりコレかな」、と思えるフィーリングだ。静粛性も申し分ない。
編集Mくんに運転を代わってもらい乗り心地もフラットなリアシートに収まりながら価格の話になった。
「これでどのくらい高くなったんだろうね」と言いつつ覗いた試乗車の価格は724万円(オプション装備込)。330iMスポーツの車両本体価格は632万円。
BMWジャパンの方によると先代との価格差はほとんど加えなかったという。決して安くはないとはいえ、BMWジャパンさんは大丈夫なのかしら。
[筆者:飯田 裕子/撮影:和田 清志・小林 岳夫]