耳不自由でも相談を 横浜・瀬谷に県警初の手話駐在所

県警初の「手話駐在所」の前に立つ田川警部補=横浜市瀬谷区北新

 瀬谷署北新駐在所(横浜市瀬谷区北新)に今月、県警初の手話駐在所が誕生した。駐在する田川孝詞(たかふみ)警部補(47)は、聴覚障害者の円滑なコミュニケーションを橋渡しする手話通訳士の資格を持つ。耳の不自由な人が安心して相談できる駐在所でありたい-。掲げられた「手話駐在所」の看板を前に、田川警部補は決意を新たにしている。

 田川警部補は北海道函館市出身。1991年に県警入りし、同署に配属された。「腰を落ち着けて、地域のために働くことができる」。そんな思いで駐在勤務を希望し、99年春に北新駐在所へ赴任した。

 赴任後、間もなく大和市の手話サークルのチラシを手にしたことが転機になった。親族に耳が不自由な人がいたことから、幼少期から手話に興味もあった。「警察官はさまざまな人と接する仕事。役に立つ機会があるはず」。サークルの門をたたいた。

 ある時、こんなことがあった。知り合いの聴覚障害者が何かの拍子にバランスを崩してつんのめった。とっさに手話で「冗談?」と田川警部補。「違うよ」の手話で返され、2人で笑った。手話で互いの思いを通わせる喜びを実感した。

 2009年には手話通訳士の資格を取得。厚生労働省によると、手話通訳士は現在3600人ほど。県警地域総務課によると、把握している限りで交番、駐在所勤務員でこの資格を持つのは田川警部補だけという。14年10月には、特定の技量に秀でた駐在勤務員に与えられる「スーパー駐在」に指定された。

 「耳が不自由な人は、緊急事態を言葉で伝えることが難しい」と田川警部補。得意の手話を生かして、聴覚障害者の集まりや特別支援学校で、文字で対話する形式の通報システムを紹介したり、聴覚障害者が関係する事件・事故で手話通訳を務めたりしている。聴覚障害者にとって、警察に相談しやすい環境づくりが常に念頭にある。

 田川警部補が学んだ手話サークル「双和会」の田邊季子会長は「とても明るく、手話もスムーズ。率先して教える優しさもあり、いつも楽しく手話を学べるのは田川さんあってこそ」。

 そんな田川警部補の存在を多くの地域住民に知ってもらおうと、地元のライオンズクラブが今月5日、鮮やかな青地に白の文字で「手話駐在所」と書かれた看板を寄贈した。駐在所勤務20年の節目にも当たる。

 手話によるコミュニケーションで大切なことについて田川警部補は「手だけでなく、表情や体の動きを含め、全身で感情を表現すること」。「手話ができる警察官が増えれば安心する人は少なくない」と、同じように手話を駆使して聴覚障害者に寄り添う警察官が現れることを期待する。

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