3つの原則を覚えるだけで対応が劇的に変わる! 1回目 クライシス・コミュニケーションとは?

会見だけが危機管理広報ではありません!(出典:写真AC)

リスクマネジメントというと、専門的な用語に聞こえるかもしれませんが、要は、危機を予測し、できるだけその影響を受けない、あるいは影響を小さくする活動です。これに対して、危機が発生したときにダメージを最小限に抑えるための活動をクライシスマネジメントと言いますが、実は、危機の発生直後は、当事者でさえ何が起こっているのか情報を正確に把握できないことが多いものです。たとえば、某食品メーカーで食中毒事件が発生したとき、総務部の社員でさえ、何が起きているのかまったくわからなかったそうです。そこで役に立つのが「危機管理広報」です。

「広報」というと、記者会見を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それだけではありません。当事者の中で何が起きているかを共有するのも、対外的に発信するのも、すべて「危機管理広報」です。私は長年、危機管理広報のあり方を企業の皆さんにお伝えしてきました。危機管理広報がなぜ役に立つのかと言えば、何を守るのか、誰に対して何を伝えるのか、その方針を明確にすることで事態を収束させていくことができるからです。実は、この危機管理広報には、特に初動、つまり危機が発生した際の行動における3つの大原則があります。これを知っておくだけで、皆さんの危機管理の対応は劇的に変わるはずです。

説明に失敗するとダメージは広がる

繰り返しになりますが、「危機管理広報」は、危機が発生した際に、組織内外の関係者(ステークホルダー)に対し適切な説明を行う活動のことを言います。誤解や信頼失墜を防ぐことを目的としていて「クライシス・コミュニケーション」とも呼ばれています。これに失敗すると、人々の不安や不快感、不信感を増大させ、顧客離れや、売上ダウンを引き起こし、時には倒産にまで至らせることがあります。

アイビー リー(出典:Wikipedia)

実は、広報業界において危機管理広報(クライシスコミュニケーション)は100年以上の歴史があり、専門性の高い領域として認識されてきました。近代PRの父といわれているアイビー・リーが米国でPRコンサルタント会社を設立(1904年)して最初に評判を高めたのが、このクライシス・コミュニケーションでした。

当時、彼のクライアントだった鉄道会社で事故があり、その際、鉄道会社は従来の慣例に従ってこの事故を隠ぺいしようとしたのですが、リーはそれをやめさせて新聞記者を現場に連れて行き、状況を説明し、取材をさせることで、鉄道会社の評判を上げました。以来、クライシス・コミュニケーションの基本は、隠さずに説明責任を果たす活動として確立してきました。

 

広報が目指すのは理解、信頼、好感の獲得

そもそも、現在組織で使われている「広報」という言葉は、「Public Relations(パブリック・リレーションズ、略称:PR)」を翻訳したもので、理解、信頼、好感の3つを獲得することで社会と良好な関係作り、組織の存続を目指す活動を指します。広報・PRの理念には、「事実の説明」「双方向コミュニケーション」「人間的表現」「公共性の重視」が掲げられており、危機時における説明責任もこの理念を軸とする必要があるのです。

 

初動三原則は「SPP」と覚えましょう

では、具体的には何をすべきでしょうか? 私は、危機発生時から24時間以内の初動三原則をお勧めしています。当初は5つありましたが、私のクライシス対応経験から、3つなら思い出せるし、確実にできると実感したからです。
覚えやすいようにSPPと名付けています。S=Stakeholder(ステークホルダー)、P=Policy(ポリシー)、P=Position Paper(ポジションペーパー)。

 

初動1:ステークホルダーを把握する
対策本部を中心に、被害者、一般顧客、取引先、社員、マスコミ、関係省庁、警察を含めたすべての関係者(ステークホルダー)を洗い出し、図式化し、対応や連絡の優先順位を決めます。被害者が誰で、被害者を増やさないことを目的とした情報発信をするためです。
社員が人質やテロに巻き込まれた場合には、企業側は被害者になり、最大のステークホルダーは敵となります。情報発信においては敵に有利な情報を与えないことを目標とします。いずれにせよ、ステークホルダーの洗い出しによって被害者や自社のポジションを明確にでき、誰に意識をむけるべきか共通認識を形成することができます。

初動2:ポリシーを明確にする
何を守り、誰に何を伝えるべきかの方針を決めることです。具体的には、いつどのような形で公表するのか、記者会見を開くのか、開かないのか、個別対応とするのか。ウェブサイトでのコメントのみとするのか。記者会見を開く場合にはいつ開くのか、何回開くのか、誰が説明するのか、単独か、別組織と共同がいいか、どのような報道を成功イメージとして持つのか。
例えば、ネットでの炎上や噂の広がりに対しては、自社サイトで事実関係のコメントを発表することで収束します。しかし、今月、大手飲食チェーン店で従業員による不衛生な動画が続けて投稿されたことを受け、同社は記者会見を開催し、一斉休業すると発表。今後はネット炎上であっても記者会見する時代になってしまったかもしれません。

初動3:ポジションペーパーを作成する
起こった事実を客観的視点で説明し、どう取り組んでいるのか姿勢や見解を示す文書を「ポジションペーパー」といいます。「公式見解書」「統一見解」「プレスリリース」と表現する人もいますが、現状を説明する資料として「ポジションペーパー」という表現が私は気に入ってます。説明責任を明確にする最重要文書で、自社サイトへの掲載、報道関係者やその他の関係者に配布します。
内容は5つの項目でまとめると収束しやすいでしょう。(1)事実関係(2)経緯と現状説明(3)原因(4)再発防止策(5)見解。事実関係は5W1Hで簡潔にまとめる。経緯は組織として把握した時点から現在までどのような行動を起こしてきたのか。原因はわからない状況の場合には、どのように原因を調査しようとしているのか、経緯と共に記載し、原因を調査中であっても組織として反省すべき点を記載すると事態の収束はしやすいでしょう。昔と異なるのは「○○がミスをした」と個人の責任にすると印象が悪くなることは肝に銘じておきたいものです。再発防止策は、「再発防止に努めます」といったありきたりな表現ではなく、具体的な記載がある方が反省や意欲をより強く伝えることができます。見解は、関係者の処分や責任表明、反省の言葉や再発防止の決意を記載します。自分たちが被害者の場合には、断固とした憤りの姿勢にしてもいいのです。ここでは言葉の選択力が必要であり、記者会見ともなれば、どう伝えるかといった表現力も重要になってきます。

次回からは、具体的な失敗や成功事例を解説していきます。

(了)

© 株式会社新建新聞社