松本弥生選手(水泳)

松本弥生選手(水泳)

もう一度、あの場所へ。

五輪の中でも特別な自国開催の五輪を目指し、厳しい練習が待つ現役復帰を決めた競泳の松本弥生。世界最高峰の舞台を知るアスリートならではの迷い、覚悟、そして大切な人への思いをストレートに語る。

2012年ロンドン五輪の競泳女子400mリレーで日本の44年ぶり決勝進出に貢献するなど、女子自由形をけん引してきた松本弥生。リオ五輪後に休養していたが、東京五輪を見据え昨年末に復帰を発表した。その葛藤と決意に至るまでの思いに迫る。

「’13年に東京五輪開催が決まってから、リオ五輪を集大成にするのか、それとも東京五輪を目指すのか、ずっと悩んではいたんです。東京五輪を目指して、また厳しい練習を頑張れるかを自分に問いかけた時に、その覚悟が持てませんでした。でも、東京五輪というのがどうしても心残りで…。『引退します』とは言えなくて、休養させていただきました。東京じゃなかったら引退していたと思いますね」

休養中はテレビ出演などタレント活動も行い、明るいキャラで注目された。その選択も東京五輪への思いが根底にあった。

「会社員として働くと練習の時間を作れるのか不安に思っていたところに、プロダクションから声をかけていただいたんです。水泳教室などの活動ができ、練習する時間も作れるので、所属させてもらいました。バラエティー番組にも結構出演させていただいて、収録は本当に楽しかったです。ただ、オンエアを見ると、私の発言はまだまだですね(笑)。今ではいつでも面白い話をする芸人さん、タレントさんを尊敬の目で見ています」

さまざまな経験を積む中、決断のタイムリミットが近づく…。

「最終的には、昨年4月の日本選手権の結果を見て決めました。自由形はリレー種目で4人まで五輪に行けるんですけど、4人が私のベストタイム(100m、54秒34)を超えたら区切りをつける。超えなかったら、もう1回やろうと思っていて、超えたのが1人だけだったので、東京五輪を目指すことを決意しました。やっぱり五輪は特別なんです。選手も五輪のためにずっと辛い練習をしてきているので、他の大会よりもピリッとしていますね。私のイメージですが、国を背負っての戦いという感じです。それを自国開催、東京でやるんですから、必ず出るという覚悟を持ってやります!」

自国開催の東京五輪に出場するためには、過去の自分を超えなくてはいけない。そのために数多くの日本記録を保持する池江璃花子選手を育てた村上二美也コーチに師事することにした。

「以前は泳ぎこむ練習だったので、持久力などの自信がつきました。そこに技術面の自信をつけたい、具体的に言うと璃花子の泳ぎを教えてほしくて、村上先生に指導をお願いしました。泳ぎを変えるというより、今までの泳ぎに新たなものを付け加えているイメージです。コンディションは、本格復帰して3カ月でだいぶ戻っています。自己ベストに近いタイムも出せていて、自分でも驚くほどです(笑)」

バージョンアップさせた泳ぎで狙うのは、初の五輪メダル獲得。その一番のターゲットは、400mメドレーリレーとなる。

「個人種目を頑張るのはもちろんですが、特に400mメドレーリレーは頑張りたいです。日本チームは優勝を争う位置でアンカーにつなぐ力があるので、カギは私の種目、クロールですね。東京五輪の出場権をしっかりとって、世界の強豪と戦えるようにしたいと思います。私はスプリンターなので、前半で先行して後半逃げ切るレース展開がメーンです。今の課題は、前半のタイムを上げることですね」

特にリレーでのメダル獲得を目指すのは、復帰理由の一つとなった大切な人の存在がある。

「復帰することは、現役選手では(池江)璃花子にしか伝えていませんでした。私は璃花子と一緒にリレーを泳ぎたい、一緒にメダルを獲りたいと思っていたので、その思いを全部話したんです。璃花子も喜んでくれて、『絶対に一緒にリレーを組みたいです』って言ってくれました。それがうれしくて、あらためて頑張ろうと思いましたね。璃花子は本当にいい子で、かわいくて、10歳離れているので妹というより、娘という感じで大好きなんです」

この取材の数日後、池江が白血病であることを公表。池江は闘病への決意を前向きにつづった。そして、松本も池江への思いを自身のSNSに記している。

「帰ってきたときに、弥生さん遅いです!って笑われないように明日からの練習もより一層頑張る。わたしの夢は、璃花子とリレーを組んで、オリンピックでメダルを獲ること。それは復帰を決めた時から変わらない。だからわたしが頑張る。安心して治療に専念して欲しい」

今度は松本が池江の復帰を待つ立場になり、五輪よりも大切な人のために泳ぐことになる。その泳ぎで熱いエールを届ける。

【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!

復帰を悩んでいる頃、東京五輪では30歳になる年齢の影響も考えていたのですが、平昌五輪で(当時)31歳の小平奈緒選手が500mで金メダルを取ったシーンに感動しました。年齢は関係ないと思わせてくれて好きなシーンです。

Q2 好きな音楽を教えて!

w-inds.が大好き! 曲では、最近の曲もカッコイイんですけど、3枚目のシングル「Paradox」の2曲目「Somewhere in Time」が一番好きです。w-inds.の皆さんと会えた時は、"水泳をやってきて良かった!"と思いましたね(笑)。

Q3 “2020”にちなんで、“20”時間自由に使えるなら何がしたいか教えて!

もし時間があったら、すごく旅に出たいですね。遠出したいけど、20時間となると行けるのは箱根くらいまでかな。携帯とか、電波を発信するような機械は何も持たないで、何もかもを忘れて、温泉にゆっくりつかりたいです。

水泳競技概要


一定の距離を決められた泳法で泳ぎ、タイムを競う競泳。泳法は自由形、背泳ぎ、バタフライ、平泳ぎがあり、自由形はどの泳法で泳いでもいいが、全員が最も速いクロールで泳ぐ。リオ五輪では男女で32種目が行われたが、東京五輪では800m自由形(男子)、1500m自由形(女子)、4×100mメドレーリレー(混合)の3種目が新たに実施され、計35種目となる。また、10kmマラソンスイミングだけはプールではなく、お台場海浜公園の海で行われる。

【プロフィール】


松本弥生(まつもと やよい)
1990年3月8日静岡生まれ。魚座。O型。

▶︎XFLAG所属。5歳で水泳を始め、「気づいたら選手コースにいました(笑)」と言うように実力をつけていく。
▶︎中学時代はバスケとの二刀流でバスケ部の活動に力を入れていたが、中学3年に競泳の国体選手に選ばれ再び水泳に打ち込む。高校2年で「今までで一番うれしかったレースの一つ」と語る、インターハイ優勝を成し遂げる。
▶︎’08年、北京五輪出場がかかっていた日本選手権で惨敗。「それまでは『五輪に出られたらいいな』だったんですけど、先生に『そんな気持ちで勝てるわけない』と言われてハッと気づかされ『五輪に絶対に出る』と覚悟ができました」と、転機の大会に。
▶︎その後、’12年ロンドン五輪、’16年リオ五輪に出場し、400mリレーで2大会連続入賞に貢献。リオ五輪後の休養から、’18年末に現役復帰を果たす。

【プレゼント】


サイン入り生写真を1名様にプレゼント!

ハガキでの応募方法は「TVガイド」3/29号(P118)をご覧ください。
「TVガイド」の購入はコチラ→https://zasshi.tv/category/TVG

取材・文/山木敦 撮影/為広麻里 撮影協力/スポーツクラブ ルネサンス 青砥24

© 株式会社東京ニュース通信社