SOSITE「凍てつく北の空を想起させる、凛として幽幽たる詩歌の風雅」

見た目のポップさとは真逆の方向に行きたかった

──気がつけば前作『Syronicus』の発表から5年も経過していたんですね。

小松:zArAmeとのスプリット7インチ、射守矢雄と平松学とのスプリット7インチをあいだに出してはいたんですけど、ちゃんとしたアルバムのレコーディングは気づいたら4年もやってなかったんですよね。

加倉:そろそろアルバムを作りたいなとは思っていたんです。予定を先に決めないと一生作らないんじゃないかという焦りがあったので(笑)、まずはスケジュールを決めてしまったんです。

小松:僕は曲ができてから各方面に話を振ったほうがいいんじゃないかと思ったんだけど、ミサトちゃんは自分を崖っぷちに追い込むタイプなんですよ。曲がまだ揃っていないのにスケジュールを決めてしまって、マジかよ!? と思って(笑)。でもミサトちゃんのいいところは、締め切りまでにちゃんと曲を作れることなんです。コンスタントに曲ができるのはバンドにとって大事なことですからね。それはSOSITEの強みだと思います。

加倉:ギリギリまで曲はできないんですけど、本当に直前になって重い腰を上げる感じですね。

──最後のベタ踏みが半端ないと(笑)。ミサトさんのインスタグラムによると、去年の10月からレコーディングをしていたみたいですが。

加倉:ミックスの音をもっとこうしたいとか、やり取りにけっこう時間がかかっちゃったんですよね。

小松:ミックスもそうだし、ジャケットやアー写にまつわることとか、僕とミサトちゃんでやり取りすることがすごくあったんです。それに加えてレーベルとのやり取りもいっぱいあったし、まぁいろいろと大変でしたね。ミックスもアートワークも僕がいいと思ってもミサトちゃんが納得いかなかったり、ミサトちゃんの意見に対して「いや、それはないよ」とか僕も平気で言っちゃうので(笑)。こだわる部分が各々違うんですよ。たとえばミックスに関してはトータルで雰囲気が出ていれば僕はOKで、自分のドラムの音とか個々の細いことはあまり気にしないんです。だけどミサトちゃんはかなり細かいことまで気にしちゃう。

加倉:たしかに意見が食い違うことは多いですね(笑)。今回は歌がどっかり乗った曲が多いので、自分の歌やギターのエフェクトのかけ方にはかなりこだわらせていただきました。

小松:こう見えて僕も相当長くバンドをやっているし、こう録ればこう仕上がるみたいなことはだいたい想像がつくんです。ミサトちゃんはいい意味でまだ若いし、けがれがないから、そういう仕組みをよく理解していないんですよ。ドラムやボーカルは生音だから後で録り直したり差し替えたりするのが難しいんだけど、ミサトちゃんは録り方のことをあまりよくわかっていないから、後でいじれるものだと思っていたり。まぁ、健全なディスカッションだと思ってますけど(笑)。

──今回の『LUNCH OF THE DEAD』を一聴してまず感じるのは、前作と比べて音の感触がまるで違うことですね。北国の凍てついた冬空を想起させるような、あいだに一枚、透明な膜があるようなくぐもった音をしていて。ミサトさんが撮影したというアルバム・ジャケットの冬の樹々の写真を音像化したような印象を受けたのですが。

加倉:音とジャケットの関連性はあまり深く考えてなかったんですけど、ジャケットとブックレットの写真は私が札幌に帰省した時に撮ったものなんです。今回は故郷を思って作った曲もあるので、その部分ではもしかしたらリンクするところがあるのかもしれません。

小松:音に関して言うと、前作はBorisのAtsuo君と中村宗一郎さんに録音とミックスを担当してもらったんですが、今回はツバメスタジオの君島結さんにトータルサウンドコーディネートをお願いしたんです。その違いが大きいんじゃないですかね。前作はAtsuo君と中村さんが、ミサトちゃんが放っているイメージに近い音作りにしてくれたと思うんですけど、今回は暗かったり怖かったりする感じの音にしたかったんですよ。今回の収録曲で一番最初にできたのが射守矢さんたちとのスプリットに入れた「郷」(ごう)という曲で、それも基本は歌モノなんだけど、あまりポップにはしたくなかったんです。曲自体がポップでもギターの音がすごく歪んでいるとか、たとえるならダイナソーJr.みたいに音を汚してみたいっていう気持ちがあったので。見た目のポップさとか可愛らしさとは真逆の方向に行きたいと、僕は最初からずっと言っていましたね。

加倉:私はそこまで考えていませんでした(笑)。

小松:でもミサトちゃんも基本的に暗い曲が好きですからね。

どこか懐かしさを呼び起こす「野花」のメロディ

──たしかに、SOSITEの曲に明るさを感じたことは一度もありませんね(笑)。SOSITEが新たなフェーズに突入したことは、1曲目の「ランチ・オブ・ザ・デッド」を聴けば一発でわかりますよね。何しろSOSITEでは前例のない、殺伐とした雰囲気のポエトリー・リーディングなので。

小松:最後の最後にできた曲なんですよ。ギターを入れずにドラムと声だけで録るという引き算の発想でやってみようと思ったんです。

加倉:この「ランチ・オブ・ザ・デッド」だけレコーディングするまで何のアイディアもなくて、ドラムのパターンだけ決めてあったんです。ドラムを録ったあとにギターでノイズを入れて、声も入れてみたんですよね。

小松:パブリック・イメージ・リミテッドの『フラワーズ・オブ・ロマンス』みたいにノイジーな効果音を入れてみたらどうかなと思って。それで君島さんといろいろ相談しながら、その場でエフェクターを駆使してノイズを録ることにしたんです。

── 一番最後にできた曲がアルバムのタイトルになるとは面白いですね。

加倉:「ランチ・オブ・ザ・デッド」は昼の公園をテーマにした曲なんですが、タイトル自体は小松さんが考えたんです。

小松:ミサトちゃんが考える曲やアルバムのタイトルは一風変わっていて面白いんですよ。『Syronicus』もミサトちゃんの造語で、響きが良かったし。ムーンライダーズの白井良明さんも「『Syronicus』という意味を調べたけど全然出てこなかった」と興味を示してくれたんですよ。ただ「ランチ・オブ・ザ・デッド」に関しては仮歌のタイトルがいまいちピンとこなかったから、たまたま観ていた『ランド・オブ・ザ・デッド』というホラー映画から連想して「『ランチ・オブ・ザ・デッド』はどう?」と提案してみたんです。

──「冷めた昼食」という意味ですか?

小松:…どういう意味なんですかね?

──命名者もわからないとは(笑)。たしかにミサトさんの言語センスはユニークで、この「ランチ・オブ・ザ・デッド」でも「カツアゲする鳩」という引きの強いフレーズがありますね。

加倉:私は平日は普通に働いているんですけど、たまに公園でお昼ご飯を食べていると鳩がエサをくれと寄ってくるんですよ。そこから着想が生まれまして。

──面白いですね。前作にも「ハキダメに鉛」や「私の中華」といった常人には考えつかないタイトルの曲がありましたし(笑)。

小松:僕らの世代はびっくりするような感覚ですよね。

加倉:自分自身のことはよくわかりませんけど…。

──「不透明びより」はzArAmeとのスプリットに収録されていましたが、オリジナルとは異なるテイクなんですか。

加倉:演奏は同じなんですけど、歌は録り直しました。

──オリジナルはボーカルにもっとエコーが掛かっていましたよね。

加倉:たしかにあっちのほうが深く掛かっているかもしれません。今回は君島さんが全体のバランスを考えて、これくらいのエコーにしてくれたんだと思います。

──この「不透明びより」は正調SOSITE節と言うか、SOSITEのパブリックイメージを具象化したような楽曲ですよね。

小松:そうですね。インストから始まったSOSITEと歌が入るようになったSOSITEの中間的なところがありますし。

──そんな楽曲だからこそ、自分たちのアルバムにも新たなバージョンとして入れておきたかったと。

加倉:曲の数を増やしたいっていうのもありましたね(笑)。

小松:それもあるけど、せっかくのアルバムだから入れておきたいですよね。自分たちでも気に入っている曲だし。

──詩的情緒に溢れた「野花」もまた名曲なんですよね。「啓蟄」という言葉を連想させるような、今の季節にぴったりの曲で。

小松:さっきSOSITEの強みは期限までにちゃんと曲を作れることだと言いましたけど、まさにこの「野花」がいい例なんですよ。ミサトちゃんの書く歌詞がすごくいい。

──いいですよね。花の蕾が開いたり、冬籠りの虫が地上に這い出たりするように、自分自身も荒野に根を張って生きていこうという前向きな意志も感じられて。

加倉:曲自体はちょっと前にできていて、春めいた季節や芽生えみたいなものをぼんやりとイメージしながら書きました。

小松:ちょっと昭和感があるんですよね。薬師丸ひろ子みたいな(笑)。

──ああ、僕は荒井由実っぽい曲調だなと思ったんですけど。

加倉:ユーミンは好きなので、ちょっと影響が出ているのかもしれませんね。意識したつもりはないですけど。

──ミサトとトンカツの『ふたりの行方』に収録されていた「ユアシャドウ」は今井美樹や古内東子といった90年代前半の女性ボーカリストの曲をイメージしたところがあるとおっしゃっていましたけど、ミサトさんの書く曲はどこか懐かしい感じがしますよね。まだお若いのになぜこんな時代の曲を知っているんだろう? と思うような。

加倉:親が聴いていた音楽とかもやっぱりちょっと影響があるのかもしれませんね。「野花」は自分のなかでわりと明るい感じを出したつもりなんですよ。

小松:これで明るいんだ?(笑)

引き算の発想と足し算の録音方法

──「マターリング」は本作のリード・チューンとも言える楽曲ですが、これもミサトさんによる歌詞が面白いんですよね。「あの子のメイクとってみたい/だけど素顔知るのはちょっとこわい」とか。

小松:「あの子」は自分のこと?

加倉:うるさいですよ(笑)。

──他にも「未知の世界をかいま見たい/だけど指触れるにはちょっと遅い」、「喧嘩した子と仲直りしたい/だけど許すにはちょっと早い」といった具合に、してみたいことの一歩をなかなか踏み出せないでいる心情が滔々と唄われていますね。かと思えば、後半はイソップ寓話の『金の斧』を引き合いにして、金でもなく銀でもなく真鍮の斧を選ぶ人が得をするらしいという、世間を風刺したような歌詞で。

加倉:日々生きていると自分の心のなかでいろんな言葉が見境なく溢れてくるので、そういう脳のつぶやきをつらつらと書き連ねてみたという体ですね。後半の歌詞は前半とのつながりがあまりないかもしれないけど、手段を選ばずに欲をむき出しにする人のことがふと頭に浮かんだんですよね。そういうことを普段から思っているんでしょうね。

──「マターリング」はシンプルなギターのリフと歌から始まって大きなうねりのあるアンサンブルへと発展していくアレンジもよく練られていますね。

小松:SOSITEに関してはアレンジがすごく大事で、ミサトちゃんが持ってくるリフやフレーズをどうアレンジするかで曲の雰囲気がガラッと変わるんです。その曲調とは全然合わないようなリフをくっ付けることもあるし、それを違和感なく自然につながるようにしながらどうやって大きな展開に持っていくかとか、アレンジをよく考えないと何でもない曲になっちゃったりするんですよ。だからアレンジはいつもああでもないこうでもないと試行錯誤しながら詰めてますね。

──小松さんが曲のパーツなりアイディアなりを持ち寄ることはないんですか。

小松:今回で言えば1曲目がそうで、ちょっと変拍子みたいな感じで7拍子でやってみようと提案しました。あと「不透明びより」のテンポ・チェンジとか。そもそもミサトちゃんは自分で作ってきた曲が何拍子なのかわかってないんですよ。スタジオで「この曲の頭はどこ?」と訊いても「頭がわからない」なんて言われるし(笑)。その曲がどこからスタートしているのか全然わからない。

加倉:自分のなかでは頭があるんですけど、小松さんとは頭が合わないんですよ(笑)。

──それはコンビとしてだいぶ致命的ですね(笑)。

小松:ブッチャーズでもわりとそういうのがあるんですよ。射守矢さんは4拍子や8拍子のきっちりした感じが好きで、変拍子をやるにもちゃんと理解して弾くんですけど、吉村(秀樹)さんはそういうのを気にしないで弾くから、「あれ? 頭はどこだろう?」とか考えちゃうんです。僕からすると射守矢さんとミサトちゃんはコードの押さえ方が似ているところがあるんですけど、ミサトちゃんはコード自体、よくわかってないんですよ。

──ということは、ミサトさんには吉村さんと射守矢さん両方の要素があると?

小松:だったらちょっと困りますね(笑)。

加倉:畏れ多いです…。

小松:要するにミサトちゃんは理論立ててではなく感性で曲作りをするんです。そこを僕がどう理論立てて組み立てていくかの面白さはありますよね。それでケンカも絶えませんけど(笑)。

──「マターリング」はミュージックビデオも作られたくらいだから、お二人にとっても自信作なのでは?

加倉:今までにない曲ができた手応えがあったし、SOSITEの新しい一面を出せると思ってカメラマンの松島幹さんにミュージックビデオを作っていただきました。もちろんアー写も松島さんによるものです。

小松:「マターリング」のミュージックビデオはモノクロなアー写の世界観を反映させた感じですね。今回のアルバムは全体的に暗い雰囲気をまとっているので、アー写もああいうモノトーンな感じがいいなと思ったんです。なんなら僕が出てこなくてもいいかなとか思ったりして。音が引き算ならヴィジュアルも引き算でいこうと思ったんですよ。

──今回のアルバムを語る上で「引き算」はわりと重要なテーマなんですかね?

加倉:まぁ、SOSITEは二人だけなので最初から引き算と言えば引き算なんですけどね。

──僕がSOSITEが好きなのは楽曲ももちろんですが、ミニマムな編成でマキシマムな昂揚感や爆発力を生み出す面白さなんです。そんなSOSITEの在り方が前作、前々作では曲調や音作りでわかりやすく表現されていたと思うのですが、今回は目に見えるわかりやすさをあえて抑えて、過剰な部分を極力廃して引き算に徹した印象を受けたんですよね。

小松:たまたまこうなったとは思うんですけどね。前作を作っている時、BorisのAtsuo君が「盛り上がらない曲があっても別にいいよね」と話していたのが記憶の片隅にあったんです。アルバムの最後はどうしても盛り上げたくなるところだけど、それを平熱のまま淡々と終わらせるのもいいなと思ったんですよね。ただ、楽曲はそんなふうに引き算だったけど、録音に関しては今まで以上に足し算だったんですよ。「野花」と「郷」にミサトちゃんの鍵盤が入っていたり、「糸電話」では僕がギターを弾いていたり、ミサトちゃんがギターを重ねたり、ノイズを入れてみたり…といった具合に。以前、ミサトちゃんが「ライブで再現できないことをレコーディングではしたくない」と話していたことがあったんですけど、今回はレコーディングならではのこと、今までやってこなかったことをやってみようと思ったんです。

「郷」と「センボウノゴウ」の不思議な共通項

──機材面で今までにないものを使ってみたりとかは?

小松:ビッグマフを今回初めて使いました。ホントは全部の曲に入れたいくらいだったんだけど、「糸電話」の最後とか「クラッシュド」でピンポイントで使うことにして。その辺は君島さんといろいろと話し合いました。

加倉:鍵盤を入れるアイディアも君島さんが提案してくれたんです。今回はだいぶ君島さんに助けられましたね。

小松:ツバメスタジオにあるエフェクターやアンプもふんだんに使わせてもらったしね。君島さんのおかげで足し算が功を奏した気がします。

──インストゥルメンタルの「日暮れに舞って」は夕暮れ時の寂寥感と昂揚感がない交ぜになって訪れる、アルバムの前半と後半の橋渡しの役割もある骨太な楽曲ですね。

小松:君島さんが手がけてくれたドラムのエフェクトがすごくいいんですよ。

加倉:私が考えた部分ごとのフレーズを持っていって、それをどうつなげるかをスタジオで小松さんと考えました。

──だとしたら、非常に上手くつながっていますよね。めまぐるしく構成が様変わりするのにシームレスで、端正にまとまっていると思います。

加倉:ありがとうございます。タータタッタッター、タタターというフレーズと「日暮れに舞って」というタイトルがまず頭に浮かんで、そこから膨らませて作ったんです。そうやって最初にタイトルが浮かぶことはすごく珍しいですね。

──仮歌のタイトルが激変することはよくあるんですか?

加倉:「マターリング」は「モニョ」という仮タイトルでした(笑)。それも小松さんが付けたんですよ。

小松:ミサトちゃんは仮タイトルとかを付けられない人なので。そこもブッチャーズっぽいんですよ。ブッチャーズも「新曲#1」とか「#2」みたいな感じなので。逆にFOEのアイゴン(會田茂一)は仮タイトルを付けるのが好きな人で、僕はその影響もあって仮タイトルを付けるのが面白くて好きなんですよね。

──「マターリング」はなぜ「モニョ」だったんでしょう?

小松:ミサトちゃんがよく聴こえないようにモニョモニョ唄っていたから「『モニョ』でいいんじゃない?」って(笑)。

加倉:「不透明びより」の仮タイトルは「新曲」でしたね。

──どれも一応「新曲」だと思いますけど(笑)。

小松:「クラッシュド」は「6」だったよね?

加倉:「6ビート」って呼んでましたね。6拍子の曲なので。

──まるで朝靄のなかにいるような音像の「めざまし」はなんと小松さんがドラムを叩いていないというレア曲で。

小松:ライブでもまだやっていない曲なので、どうなることやらですね。

加倉:朝、ベッドのなかでふわふわと夢見心地な時の、目が覚める手前みたいな歌ですね。改めて聴くと、SOSITEには珍しくちょっと可愛い曲ができたなと思います。

小松:ドラムを叩かないでやろうと僕が言い出したんですよ。じゃあ代わりに何をやるかと考えて、パーカッションならドラムでもいいじゃんってことで、FOEでも使ったことのあるグロッケンを入れてみたらどうだろうと思ったんです。SOSITEでドラムレスは初ですね。

──「郷」はSOSITE屈指の名曲ですが、射守矢雄と平松学とのスプリット7インチで初めて聴いた時にSOSITEがここまで堂々と歌モノをやれるんだと驚いた記憶があります。

小松:いわゆる歌モノは「郷」が最初だっけ?

加倉:『Syronicus』にも歌モノはあったけど、こういった曲調で作る歌モノは初めてですね。

──胸を焦がすセンチメンタルなメロディが望郷をテーマにした歌詞と調和していますね。

加倉:射守矢さんたちとのスプリットを作る時のテーマが故郷だったんですよね。そのテーマありきで作った曲になります。

小松:「郷」というタイトルを聞いた時はびっくりしましたけどね(笑)。

──射守矢雄と平松学の代表曲に「センボウノゴウ」という曲がありますよね。あの曲も射守矢さんが故郷である留萌の景色をイメージして作られた曲でしたが、「ゴウ」と「郷」で図らずもタイトルとテーマが共通していますね。

加倉:「センボウノゴウ」のことは全然意識していませんでした。故郷のことを思うと自ずとああいう哀愁を帯びた曲になるのかもしれませんね。

──「不透明びより」は歌を差し替えたそうですが、「郷」はどう手を加えたんですか。

加倉:歌はスプリットに入れたのと同じで、アコースティック・ギターを重ねたり、キーボードを入れたりしました。

小松:「郷」には僕のコーラスが入っているんですけど、最近はライブでコーラスを入れてないのでカットしてくださいと君島さんにお願いしたら、「このコーラスはあったほうがいいので残します」と言われたんです。君島さんがそこまで言ってくれるならいいのかなと思って残しました。

──郷愁の念を切々と綴った歌詞も素晴らしいですが、「しばれた」という北海道弁はなかなか歌詞でお目にかかれませんよね(笑)。

小松:千昌夫か僕らくらいでしょうね(笑)。

吉村秀樹のギターとツバメスタジオのビッグマフを使った「糸電話」

──「丘の上そびえる団地達」や「砂利の駐車場」といったフレーズには具体的なイメージがあったんですか。

加倉:団地が唯一、具体的に自分が思い浮かべていたものなんです。

小松:ブックレットにあるミサトちゃんが撮ってきた写真のなかにも団地があるもんね。

加倉:まさに「郷」の歌詞があるページですね。札幌の団地の写真なんですけど。

小松:団地妻に憧れていたとか、そういうこと?(笑)

加倉:違います。話の流れを変えないでください(笑)。

──ミサトさんは実際に団地に住んでいたことがあるんですか。

加倉:幼少期に留萌の団地に住んでいたことがあるんです。小松さんも留萌出身で、時期が被っていたのかわからないんですけど、実際に坂道を登った丘の上の団地に住んでいました。そのことを思い浮かべて歌詞を書いたんです。

──「センボウノゴウ」のモデルになった留萌の千望台の周辺にもロシアっぽい建物の団地があるし、不思議な接点が感じられて面白いですね。いずれにせよ、この「郷」はライブでも切り札となる楽曲として成長したのでは?

小松:自分たちにとっても大切な曲だし、ライブの1曲目でも最後にやっても締まる曲なんですよね。だからスプリットとはまた違った形で自分たちのアルバムに収録できて良かったです。

──不穏な感情が暴発するような「クラッシュド」は、アルバム後半のフックとも言えるインストゥルメンタルですね。

小松:ライブでも実際、いいフックになっていますからね。ミサトちゃんは最初にフレーズを持ってきた時からインストにしようと思ってたの?

加倉:その辺はあまり意識してなかったんですけど、もし声を入れるなら叫びかな? とは思っていました。歌を入れるか、インストになるかはいつも深くは考えていないんですけど、自然と歌が増えてきた気がします。かくら美慧としてソロをやらせてもらったり、二宮(友和)さんとミサトとトンカツをやらせてもらったことも関係していると思うんですけど。

──アルバムの最後を飾る「糸電話」は、SOSITEには珍しいラブソングですよね。

加倉:そうですね。SOSITEでこういう曲を書いたのは初めてだと思います。

──「かたく繋がった糸」=赤い糸を信じる少女の淡い恋心が静逸なトーンで唄われていて。

加倉:純粋なと言うか、青いと言うか…。

小松:最初はテンポが全然違ったと思うんだけど、僕としてはとにかくゆっくり静かな感じにしたくて、そういう雰囲気作りを心がけましたね。あとさっきも言ったように、この曲では僕がチャラーンとギターを弾いているんですよ。あと、吉村さんから譲り受けたフェンダーの青いギターを重ねたんです。ライブで「7月/july」とかで使っていたやつですね。ミサトちゃんはアームを使ったことがないし、ダビングで入れてみようと思って。初めて弾いたわりにはモワーンとしたいい音が出ましたね。

──話を伺っていると、今回のアルバムは随所で今までにないトライをしていることがわかりますね。

加倉:たしかに自分たち自身でも今までのアルバムとは違う手応えを感じています。9曲揃って1冊の本みたいと言うか、アルバム全体でひとつの物語になっているように思えますし。

小松:1曲ごとのアレンジを納得のいくところまで詰めるのは今までと変わらないんだけど、アルバム全体のイメージや雰囲気を統一することには今回だいぶこだわりましたね。そのためのディスカッションをミサトちゃんといろいろしたけど、自分としてはそのこだわりを突き通せた気がします。

── 一作ごとに着実に進化しているのが窺えますよね。小松さんが加入した時はここまで面白いバンドになると感じていましたか。

小松:どうだろう。10年前はさすがにそこまでは読めなかったんじゃないですかね。

加倉:小松さんに入ってもらった時は、この先どうなるかまでは考えてなかったですね。1曲、1曲、曲を作っていって、それがまとまったらアルバムにしたいと考えていたくらいで。ただ今回は今までよりも余裕を持てたと言うか、作品全体や自分たちがやろうとしていることを俯瞰しながらアルバムを作れたと思います。歌も演奏も両方いいものを作れた自負もありますし。私がこのアルバムのなかでグッとくるポイントは、「糸電話」の最後のビッグマフの音なんです。個人的にはあそこですごくテンションが上がるので、ぜひ聴いていただきたいです。

小松:今回のアルバムはぜひ一人でヘッドフォンで聴いてほしいですね。誰にも邪魔されずにじっくり聴くのをお勧めします。何か暗い映画を見ながら聴くのも面白いかもしれません。

──結局、暗さから逃れられないんですね(笑)。

小松:僕もミサトちゃんも根が暗いし、どうしても暗いバンドが好きなので(笑)。

──ミサトさんは今、SOSITEとソロの両輪あるのが理想的なバランスになっていますか。

加倉:ソロとバンドの双方に良い影響を及ぼしていますね。さっきも話したように、ミサトとトンカツとしてアルバムを作ったことでSOSITEでも歌に重きを置いた曲が増えたようにも思えますし。

──小松さんは数あるバンドに参加しているなかで、このSOSITEをどう位置づけているんですか。

小松:僕が入った頃はインスト主体で変わったことをやれる面白さがあったんですけど、僕自身はやっぱり歌モノにグッとくるところが多いんですよ。歌が鳴っているバンドをやるのが自分の根っこにあると思うし、ミサトちゃんの書く歌にもグッとくるし、今のSOSITEは自然とそういう流れになってきたんじゃないですかね。まぁ、先のことはわかりませんけど。僕がドラムを一切叩かずにいきなりシンセを弾き出すかもしれないし(笑)。

*本稿は2019年3月11日(月)にROCK CAFE LOFT is your roomで開催された「Rooftop presents『LOFTalk』〜SOSITE 3rdアルバム『LUNCH OF THE DEAD』先行試聴&公開インタビュー〜」を採録したものです。

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