西武新本社ビル、池袋の安全に貢献へ 防災は新たな沿線価値向上も

「ダイヤゲート池袋」は西武池袋線の線路上に位置。建物下部のグレーの部分との境に中間免震層がある(提供:西武ホールディングス)

線路上に「ダイヤゲート池袋」

西武ホールディングス(HD)は、東京都豊島区に20階建て、高さ99.98メートルの池袋エリア最大級のオフィスビル「ダイヤゲート池袋」を竣工。4月1日にオープンする。同社と一部グループ会社の本社となるほか、免震構造や非常用発電、水など事業継続のための機能を充実。豊島区と西武鉄道で協定を結び、池袋駅周辺で災害時に発生が予測される帰宅困難者の受け入れも行う。

同ビルは西武池袋線池袋駅の西武南口から徒歩1分、JR東日本・東京メトロ・東武鉄道の池袋駅東口から同5分の立地。西武池袋線の線路東側にあった西武鉄道池袋旧本社ビル跡地だけでなく、線路上とさらに線路西側の空地を活用。人工地盤も造り線路をまたいでビルが建つ構造となった。西武HDによると100メートル級のビルが線路をまたいで建つのは日本初だという。延床面積は4万9661平方メートル、ワンフロアの平均貸室面積は約2100平方メートルで池袋最大級。西武グループのうち西武HD、プリンスホテル、同ビルの開発・管理など不動産事業を手がける西武プロパティーズの3社が本社を4月に移転させる。

同ビルの大きな特徴は線路上にあるだけでなく、BCP(事業継続計画)実行のためにも優れた機能を有していること。線路をまたぐ独特の構造であることから、3階と4階の間に中間免震層を設置。積層ゴムアイソレーター20基とU字型鋼製ダンパー32台で揺れを吸収する。鉄道のダイヤグラムをイメージした建物外周の独特のブレースも地震に効果を発揮し、オフィスフロアの無柱化につなげている。

西武HDの後藤社長は竣工式典で物件のBCP対応を語った

電力は2系統を確保。さらに非常用発電機と燃料も備えており、発災時に72時間は平常時とほぼ同じ執務環境をテナントに提供できるという。また3日分の水を常時確保し、排水も建物内に貯留できる設計とした。各フロア以外に地下1階にテナント用の備蓄倉庫もある。西武HDの後藤高志社長は25日に行われた竣工式典で「電力や上下水道のバックアップ、備蓄の面でBCP上優れたビル」と説明した。4~18階のオフィスフロアのうち14~18階は西武グループが入居。4~10階、12~13階も成約・内定済みで、まだ空いている11階も引き合いはあるという。

中間免震層にある積層ゴムアイソレーター

帰宅困難者問題と再開発への期待

「ダイヤゲート池袋」はテナントだけでなく、池袋エリアの安全・安心上も重要な役割を担う。1月に西武鉄道は豊島区と帰宅困難者対策の協定を締結した。一時滞在施設・一時待機場所の提供・運営や水や食料といった物資の提供、さらには備蓄のための倉庫や場所の提供が主な内容。この協定の役割を果たすのが「ダイヤゲート池袋」となる。一時滞在施設などに移動する前の一時待機場所として約1000人分、3日間の一時滞在場所として約270人分のスペースと備蓄を用意する。一時待機場所は2階の1300平方メートルのデッキスペース、一時滞在場所は1階エントランス付近の453平方メートル。マンホールトイレを5基用意するほか、地下1階には帰宅困難者用の備蓄倉庫も設置。今後、費用の6分の5を補助する東京都の制度も活用し、270人は3日分、1000人は1日分の備蓄品をそろえる予定。西武プロパティーズでは帰宅困難者受け入れのためのマニュアル作りや訓練も今後進める。

地下1階にある帰宅困難者用の備蓄倉庫。今後、備蓄品を入れる

豊島区によると首都直下地震が発生した場合、池袋駅から半径2キロメートルで約8万4000人の帰宅困難者が発生すると予想。そのうち買い物客や訪日外国人など、約5万3000人の行き場がないだろうとみている。高齢者などのため少なくとも2万7000人分は一時滞在施設を確保したいとしているが、区の施設で2000人分、都の施設も1500人分しか確保できていない。協定を結んでいる民間施設は「ダイヤゲート池袋」を除いて1万6000人分。まだ目標には達しておらず、今後も再開発などで新たな建物ができる際に働きかけを行っていく方針。

豊島区では2015年にできた計画を基にした「池袋駅周辺地域都市再生安全確保計画」があり、その中で一時滞在施設についても取り上げられている。池袋駅周辺エリアは都市再生特別措置法に基づく都市再生緊急整備地域に2015年に政令により指定を受けている。指定エリアでは条件により容積率の割り増しなど土地利用緩和を受けられ、再開発が行いやすい環境となっている。2020年には旧区役所跡地に東京建物が中心となり高層ビルやホールなどを整備し、一時滞在施設にもなるとみられる「Hareza(ハレザ)池袋」が竣工予定。「ダイヤゲート池袋」についてもこの地域内にあり、計画の段階で一時滞在施設について話し合いが行われたという。同ビルは都市再生特別措置法に基づき、金融や税制面での優遇を受けられる民間都市再生事業の国土交通大臣認定も2015年に受けた。豊島区では一時滞在施設確保のほか旧造幣局跡地には約1.7ヘクタールの防災公園整備計画も進めている。

一時滞在施設となる1階エントランス付近

私鉄の防災対策の意義

西武グループにおいて、西武鉄道は各自治体の一時滞在施設への避難を想定しており、駅で帰宅困難者を受け入れることは想定してはいないという。それでも全線で1万1500個の備蓄品は用意。豊島区以外に西東京市、東久留米市とも帰宅困難者の対応に関する協定書を締結している。また西武プロパティーズの物件では「ダイヤゲート池袋」以外にも、西武沿線ではないが西武池袋線と相互乗り入れをしている東京メトロ有楽町線永田町駅近くにある「東京ガーデンテラス紀尾井町」が2012年に千代田区と協定を結び、2000人の帰宅困難者受け入れの態勢を整えている。同社はさらに所沢駅の商業エリア「グランエミオ所沢」の2020年の第2期エリア開業後は駅スペース一帯で1200人の帰宅困難者を受け入れる計画を立てている。

都心のターミナル駅に百貨店やオフィスビルを、沿線で住宅や娯楽施設の開発を進め人口を増やし、通勤・通学客による安定した運賃収入を得ていくのが私鉄のビジネスモデルとしてわが国の都市部には定着してきた。しかし人口減と高齢化が進み、転機が訪れている。線路や駅、車両といった設備の強靭化に加え、万が一災害で運行できない時間があっても、安心して過ごせるスペースや備蓄を用意するといった防災対策は、新たに住民を呼び込むための私鉄の大きなアピールポイントになるのではないだろうか。西武鉄道・東武鉄道・JR東日本・東京メトロの4社が乗り入れる池袋駅は1日平均約267万人、西武鉄道だけでも約49万人(2017年度)が利用。そこにできた「ダイヤゲート池袋」での帰宅困難者受け入れは利用者の安全確保からみても大きな意味がある。西武HDの後藤社長は25日、記者説明会にも出席し防災について「安全・安心は当社の最優先事項。帰宅困難者対策も信頼のほか沿線価値の向上にもつながる」と語った。

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(了)

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