【編集部が行く!】気鋭の演出家・松居大悟とJ-WAVEが送る異色の舞台『みみばしる』の魅力に迫る!

ラジオをテーマにした話題の舞台作品『みみばしる』が、2月6日(水)から上演中です。 この作品は、J-WAVE開局30周年記念として企画されました。 作・演出を手がけるのは、昨年旗揚げ10周年を迎えた劇団ゴジゲンの主宰、松居大悟さん。テレビ東京のドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズをはじめ、映像の世界でも脚本、監督として活躍する注目のクリエイターです。そこで、松居さんに番組や舞台制作の経緯、みどころ、ハマっていたラジオ番組などをたっぷりと語っていただきました。

松居さんは、J-WAVEで日曜23時から放送中の『JUMP OVER』でナビゲーターを担当。コンセプトは”稽古場ラジオ”。番組そのものや舞台作品を、リスナーと一緒に約1年かけて創り上げていきました。リスナーからタイトル案を募集したほか、愚痴、エピソードなども募り、脚本に反映しています。

「番組を通じて、脚本作りに半年以上をかけたことを含めても、新しい作品です!」と松居さん。フライヤーで使用する宣伝コピーもリスナーから募り、1041本もの作品が寄せられました。その気になるストーリーは……。

あらすじ

30歳になった途端会社をクビになった妙子(本仮屋ユイカ)は、なんとなく劇団の手伝いを始める。自分は誰にも必要とされていないのではないかと思う日々の中、妹の影響でラジオを聴き始める。音楽と共に、リスナーから送られてくる愚痴や悲しみを全力で励ましてくれるラジオに妙子はのめり込み、メッセージを投稿するようになるのだが……?

主人公はリスナー

――いよいよ、ラジオ好きも演劇ファンも大注目する『みみばしる』の本番がはじまりますね。(※取材日は2月3日)ラジオファンとしては、リスナーを主役にしている点も気になるところです。

松居:「ナビゲーターを主役にしない」ことを、最初に決めました。ナビゲーターを主役にすると、ドラマは作りやすいけど、選ばれた人の話になってしまうので、冷めてしまうところがあって……“選ばれた人たち”のお話では、観客が入り込めないと思ったんです。リスナーと創るなら、リスナーがどんな景色を見ながらラジオを聴いているか、ラジオによってどのように人生が変わったか、というところを物語にしたいと思って。

――主演の本仮屋ユイカさんも実際にラジオファンですが、劇中ではどういった役ですか?

松居:本仮屋さん演じる妙子は、ラジオに出会って、番組のファンになって、一度メッセージを読まれます。それまでは出すつもりはなかったけど、初めて読まれたことによって何度も送るようになるんです。その後はなかなか読まれなくて、それでもなんとかして読まれたいと思っていた矢先に事件が起きます。妙子が働いている職場、家族をはじめ、自分とは関係がないと思ってた人たちが、ラジオを通じて出会っていく……そんな物語です。

キャストには、本仮屋ユイカさんをはじめ、松居大悟が主宰を務めるゴジゲンのメンバーのほか、演劇ファンにもたまらない出演者が揃っています。音楽は石崎ひゅーいさんが担当。劇中ではワタナベシンゴさん(THE BOYS&GIRLS;)、タカハシマイさん(Czecho No Republic)などの歌唱シーンや、本仮屋ユイカさんが生で歌う場面もあるそうです。

※稽古中の集合写真(ワタナベシンゴさんのTwitter 1月 18 日の投稿より)

公募リスナーも出演!

さらに、番組を通じてオーディションも行われ、824名の応募のなかから、リスナー出演者が選ばれました。合格の基準は、松居さんが“ラジオに関する何か“を感じた人だといいます。

松居:リスナー役の本仮屋さんのまわりに、ラジオ好きな皆さんが立ったら、すごく説得力があるというか、何か感じるものがあると思ったので、リスナーから選びました。職場でいつもJ-WAVEが流れているという人や、いろいろなラジオ局の番組を聴いている人。さらには、ラジオが好きで、どうしても今回の舞台に立ちたくて、会社を辞めた人までいます。演技のことは知らなくても、ラジオと共に生活している人も登場するからこそ、この作品の意味があるのかなと思います。

――オーディションで選ばれた人も、かなりセリフが多いと聞きました。

松居:結構ありますね。僕は“全員が出演者”という考え方なので、それぞれの役に合ったセリフを書いただけなんですけど。オーディションで選ばれた子がラジオ愛を語る場面があるんですけど、その部分のセリフは僕が途中まで書いて、そのあとは本人に任せたんです。その場面は、特にグッときます。ラジオが好きな人の心からの言葉なので、感動しますよ。だから、ラジオ好きな人が観ると、気持ちがものすごくよく分かると思います。J-WAVEファンに限らず、他の放送局の番組を聞いている人にとっても、特別なものを感じられる内容です。ラジオに出会って、ラジオの魅力に気づく……ラジオ好きが必ず通ってきた道です。逆に、ラジオを聴いてこなかった人にとっても、さまざまな人の“ラジオへの想い”が分かる作品です。

※放送中の松居大悟さんと、癖のある準備体操をしているワタナベシンゴさん (JUMP OVER 公式 Twitter 1月 27日の投稿より)

ラジオを楽しむ気持ちで観てほしい

――『みみばしる』で初めて舞台を鑑賞する、という人も多そうですね。以前番組で「初めて観るので緊張する、という人もいるかもしれませんが、舞台に立っている人は笑ってほしいところは笑ってほしいと思っているから、リラックスして観てほしい」という話が出ていたのが、印象的でした。

松居:劇場に入るとお客さんが肩を並べて座るので、変に緊張してしまうのも分かります。上演中、客席は暗くなって、お芝居と一対一の関係になります。ラジオが好きな人がたくさん観に来ると思うので、ラジオを聴いて普通に笑ったり、心の中でツッコミを入れたりする感じで、普段と同じように楽しんでほしいです。開演前には、会場でしか聞くことのできない生ラジオもやろうと思っています。

――観る時のポイントはありますか?

松居:主役は本仮屋さんだけど、演奏と歌を務めるワタナベシンゴさんを含め、21名全員が“主人公”です。お気に入りの人を見つけて、その人を追っていくこともできるし、誰かしらに共感できると思います。ストーリー自体は、スポットライトが当たって喋っている人が進めていきますが、舞台上では複数のストーリーが進行しているので、例えばラジオ局での話を追っていったり、家族の話を追っていったりなど、視点をズラすことでさまざまな楽しみ方ができます。ラジコでいろいろな番組を聴いていく時のように、自由に楽しんでください。

東京・大阪・福岡…地域ならではの仕掛けも

――『みみばしる』は2月17日(日)までの東京公演が終わると、福岡公演(2月23日・24日)、大阪公演(3月1日~3日)に移ります。内容も少しずつ変わっていきそうですね。

松居:公演期間中は若干の修正をしていくので、雰囲気は変わっていくと思います。実は劇中でそれぞれの地域の“ある番組”が登場するのですが、「その街の人だからこそ、その番組を聞いている」という世界観にしたいと思っています。アフタートークも、その地域でおなじみのナビゲーターや、DJに出演してもらう予定です。あとは、出演者に大阪出身者が多いので、大阪のアフタートークの時は大阪ならではのトークが繰り広げられる予定です。観たあとはネタバレしない範囲で、SNSで拡散してほしいです! (笑) 。

『みみばしる』は、相手が発信したパスを受信して、次の人に発信するという内容なので、観劇した人はSNSで発信して、それをまた誰かが受信して舞台を観にくるっていうのがすごく理想的で、実際にそうなってほしいと思います。受信して、誰かに発信して、また受信して、誰かに発信する……そんな繰り返しが、大きな力になると思います。

――松居さんは、さまざまな作品を発表していますが、どんな内容のツイートをされていると嬉しいですか?

松居:「なんだかよく分からないけど、面白かった」という感じで書かれているとすごく嬉しいです(笑)。逆に「なぜ、この作品がいいのか」という感じで分析されたツイートは、ちょっと照れくさいから、感じたことをそのままツイートしてくれるのがありがたいですね。「観に行った方がいいよ!」と、誰かにその思いを届けようとしていること自体が、すごく嬉しいんです。しかも、ツイートは心がアツいうちに、観終わった直後がいいですね!(笑)

各劇場では『みみばしる』や番組グッズも販売されています。劇場のロビーには思わず写真を撮りたくなる撮影スポットもあります。『みみばしる』の感想や撮影した写真は、ハッシュタグ「#みみばしる」をつけて、どんどんつぶやいてください!

※みみばしるオフィシャルグッズ(JUMP OVER 公式Twitter 2 月 3 日の投稿より)

ハマっていたラジオ番組

――ところで、松居さんは福岡出身ですが、学生時代はどんなラジオ番組を聴いていましたか?

松居:CROSS FMで放送していた『HYPER SUNDAY SUPER TELEPHONE REQUEST』をよく聞いてました。プー&ムーのおたこぷーさんが2代目のナビゲーターとして出ていた番組です。僕は、おたこぷーさんが好きで、学校で夢中で話していました。高校の文化祭のゲストに来てもらって、めちゃくちゃ嬉しかった(笑)。『HYPER SUNDAY SUPER TELEPHONE REQUEST』は日曜夜の生放送番組だったので、ちょうど『JUMP OVER』と同じ時間帯なのも感慨深いです。あの頃の自分のような人が聞いていると思うと、「自分ももっと頑張らないと」と思います。

――実は、『JUMP OVER』を放送している東京も福岡も、日曜の23時台に生放送をしている民放番組は、『JUMP OVER』だけなんです。スケジュールの都合で収録になることはあるものの、基本的に生放送にしているのはなぜですか?

松居:生放送に魅力を感じているからです。「今日はこんなことがあった」という話しができたり、「今どうしてる?」って問いかけたらリスナーからすぐに反応があったりが嬉しくて、絶対に生放送にしたいと思いました。

生放送で感じるラジオのパワー

――『JUMP OVER』は松居さんにとって初めてのレギュラー番組ですが、番組がスタートして、誰かに勇気づけられたり、自分が成長させられたり、といった瞬間はありましたか?

松居:昨年の4月、番組がスタートする前の2月に、『JUMP OVER』の30分のパイロット版を、1ヶ月間だけ放送していました。その期間に僕が監督を務めていた『バイプレイヤーズ 〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』(テレビ東京)に出演していた大杉漣さんのことがあって、その2日後にこの番組の生放送があって、それまで誰にも連絡をとりませんでした。それでも、まわりの知り合いのみんながその放送を聴いていて、それが本当に嬉しくて心が救われました。「ラジオをやっていてよかった」と思いました。

――非常によく覚えてます。忘れられない放送です。

松居:あとは、世界が広がりましたね。仕事を辞めてまで舞台に挑戦してくれる人は、ラジオをやっていなければ出会わない人だと思います。ラジオを通じて、リスナーの皆さんとタイトルを考えたり、宣伝コピーを考えたりしたし、リスナーは“顔の見えない友達”っていう感じです。僕は友達が多い方ではないので、お互いの想いを共有できることが嬉しい。番組を始めてから、ゴジゲンの舞台を観に来てくれるリスナーも本当に増えました。ラジオネームをきいて「思っていたより若いね!」なんて言ったりして(笑)。ラジオでゴジゲンを知ってくれて、舞台に足を運ぶのって、とてつもない時間とお金と熱量が必要なんですよ。ラジオは人を動かします。つくづく、ラジオのパワーを感じています。

――ラジオの力って、いいですよね! そもそも、ラジオ番組で舞台作品を作ろうと、ラジオと演劇がガッチリとタッグを組むこと自体が稀有ですが、ラジオ番組と演劇の共通点は、どういったところにあると思いますか?

松居:ラジオも舞台も、自ら出会おうとしないと出会えない媒体です。しかも、生放送のラジオ番組と、生で演じられる演劇は、どちらもちょっと危険な匂いがします。テレビや映画では出会えないような表現をしようと意識する点で、親和性があります。そんな中で生まれた『みみばしる』は、出演者がみんなラジオ好きなので、どうすれば演劇でその想いが伝わるか、考えながら作りました。

――それでは最後に、これを読んでいる方へ向けて、メッセージをお願いします!

松居:観ればきっと「ラジオが好きでよかった」と思えるし、ラジオを聴いていないという人も、ラジオが好きになると思います。ラジオ全体が盛り上がるきっかけの一つになると、僕は信じています。だから「ラジオのことって、あまりよく分からないけど、なんだか面白そう」と薄々感じている人も、ぜひ観に来てほしいです。石崎ひゅーいくんが書き下ろした8曲も、ワタナベシンゴくんがその場で演奏して歌うので、心に突き刺さる何かが必ずあると思います。あとは、しつこいようですが、観終わったら番組に感想を送ったり、SNSでつぶやいたりして、あなたも発信者になってください。それでは、劇場でお待ちしております!

出演者プロフィール

松居 大悟(まつい だいご)

1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2009年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『スイートプールサイド』『自分の事ばかりで情けなくなるよ』など作品を発表し、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『アズミ・ハルコは行方不明』は東京国際映画祭・ロッテルダム国際映画祭出品。枠に捉われない作風は国内外から評価が高く、ミュージックビデオ制作やコラム連載など活動は多岐に渡る。監督を務める代表作に、池松壮亮主演映画『君が君で君だ』や、テレビ東京系連続ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズ等がある。

舞台『みみばしる』

作・演出:松居大悟
音楽監督:石崎ひゅーい
出演:本仮屋ユイカ(以下50音順)
市川しんぺー/祷キララ/工藤真唯/小松有彩/鈴木翔太郎/鈴政ゲン/タカハシマイ/玉置玲央/仲山賢/奈良原大泰/日高ボブ美/藤井克彦/前田航基/三浦俊輔/宮平安春/村上航/目次立樹/本折最強さとし/ゆうたろう
歌・演奏:ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS;)

【公演日程】
東京公演 2019年2月6日(水)~17日(日) 本多劇場
福岡公演 2019年2月23日(土)〜24日(日) 久留米座
大阪公演 2019年3月1日(金)〜3月3日(日) 近鉄アート館

【アフタートーク出演者】
2月7日(木)上田誠(ヨーロッパ企画)
2月8日(金)本仮屋ユイカ
2月9日(土)13:00回終演後 又吉直樹(ピース)
2月9日(土)18:00回終演後 MOROHA
2月10日(日)13:00回終演後 堀潤/阿部広太郎/きたむらけんじ
2月10日(日)18:00回終演後 石崎ひゅーい
2月11日(月)市川しんぺー/玉置玲央/村上航
2月12日(火)休演日:松居大悟監督作品「アイスと雨音」特別上映会
&トークイベント:松居大悟/特別(サプライズ)ゲスト
2月13日(水)稲葉友
2月14日(木)13:00回終演後 劇団ゴジゲン
2月14日(木)19:00回終演後 志磨遼平(ドレスコーズ)
2月15日(金)井上苑子
2月16日(土)13:00回終演後 祷キララ/前田航基/ゆうたろう
2月16日(土)18:00回終演後 Czecho No Republic
2月17日(日)13:00回終演後 工藤真唯/小松有彩/鈴木翔太郎/仲山賢
2月17日(日)18:00回終演後 別所哲也
※どのアフタートークにも松居大悟さんは参加予定

この記事を書いた人

やきそばかおる

小学5年生以来のラジオっ子。ライター・構成作家・コラムニスト。

「BRUTUS」「ケトル」などのラジオ特集の構成・インタビュー・執筆を担当するほか、radiko.jp、シナプス「I LOVE RADIO」(ビデオリサーチ社)/ J-WAVEコラム「やきそばかおるのEar!Ear!Ear!」/otoCoto「ラジオのかくし味」/水道橋博士のメルマ旬報など連載や、番組出演を通じて、ラジオ番組の楽しさを発信。

ラジコプレミアムを駆使しながら、全国のユニークな番組を紹介するツイキャス番組「ラジオ情報センター」(水曜21時〜22時)も放送。全てを合わせると、年間でのべ800本のラジオ番組を紹介している。

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カメラマン:ラジコ編集部

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