川崎市議選「ヘイトに利用」 候補者へ非難

佐久間氏が第一声を行うと予告している池上町公園=川崎市川崎区

【時代の正体取材班=石橋 学】選挙運動に名を借りたヘイトスピーチが、川崎市議選の行われる川崎区で現実味を帯びている。立候補予定の佐久間吾一氏(無所属)が29日の告示を前に、同区池上町に暮らす在日コリアンを「不法占拠」と誹謗(ひぼう)中傷し、支援者も「朝鮮人は退去せよ」とヘイトスピーチを繰り返しているからだ。「選挙を差別に利用する意図はいよいよ明らかだ」。現職の市議も一様に憤る。

 「現実に生活している人々に出ていけと公言するなど前代未聞。しかも選挙で主張するなんて考えられない」。佐久間氏らの言動がいかに常軌を逸したものか、地権者であるJFEスチールの担当者の弁が物語る。「そもそも『不法占拠』とは認識していない。土地の賃貸契約がないのは確かだが、住民の居住実態を否定し、追い出すということは考えていない」

 終戦直後、JFEの前身日本鋼管の土地に朝鮮人がバラックを建て始めたのが町の始まりで、現在は日本人も多く暮らし、個人所有の土地も混在する。だが、佐久間氏は「不法占拠地帯『朝鮮部落』池上町」などと在日の住民をおとしめるヘイト投稿をツイッターで連発。選挙で「完全解決」を訴えるという。佐久間氏を支援する極右政治団体「日本第一党」最高顧問の瀬戸弘幸氏も「池上町に不法に住み着いている朝鮮人は退去せよ。我々はそれを強く訴える」と排斥を目的としたヘイトスピーチを行うとブログで宣言する。

◆政治ではない

 瀬戸氏は「川崎市が危険と言っているから、早急に立ち退かなければいけない」とも書くが、やはり川崎市も「防災・防犯対策として空き家対策を進めているが、住民が暮らしていることが前提。『立ち退かなければいけない』という考えはない」と否定する。

 会派を問わず、非難の声は現職の地元市議たちから上がる。「土地の問題を巡っては住民と企業、市が話し合ってきた。出ていけというのは対話のプロセスを否定するもので、政治とは呼べない。何の解決にもならない」と保守系の市議。

 無所属の市議も「在日の人々がなぜあの町で暮らすようになったか。戦前戦中だけでなく戦後もひどい扱いを受けたからだ。政策と企業の問題だ」と強調。「歴史的経緯を無視したあり得ない発言。発言に責任を持つ政治家になるつもりはないということだろう」

◆尊厳おとしめ

 別の市議も「ヘイトをしないと言いながら繰り返してきた。いよいよ選挙にかこつけて差別をしたいだけとしか思えない」。瀬戸氏は差別根絶条例をはじめ市のヘイト対策の「妨害」を公言し、デモや街宣、集会を続けてきた。行動を共にする佐久間氏は瀬戸氏の求めに応じ、前回の幸区ではなく、在日コリアンが多く暮らす川崎区で立候補することを決めている。

 佐久間氏は告示当日、池上町の公園で第一声を行い、周囲の住宅地を練り歩くと予告。瀬戸氏は動画をインターネット上で公開、拡散するよう呼び掛ける。「自分たちは追い出されるのかと住民を不安に陥れる行為。あってはならない」とベテラン市議。別の市議も「住民の尊厳を傷つけるものでしかない。防ぐ手だてはないものか」と思案し、差別主義者の悪辣(あくらつ)さと条例への認識を新たにする。「市は罰則を含めて実効性のある条例を検討しているが、抑止力を発揮できる条例にしないといけないという認識は市議会の各会派とも一致している」

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