ホンダ インサイト 新旧比較 | 進化した“上質ハイブリッドセダン”の美点とは

ホンダ インサイト 3代目・2代目新旧比較

モデルチェンジごとにガラリと“変身”し続けたインサイト

進化度数の基準

ホンダ インサイトはトヨタのプリウスに相当するハイブリッド専用車で、3代目の新型は2018年12月に発売された。

デビュー間もないインサイトの新旧比較を行うにあたり、同車の歴史を振り返ってみよう。インサイトは、2代目にあたる先代型の発売は2009年にまで遡る。なぜならインサイトの販売期間は、初代モデルが1999~2006年、2代目は2009~2014年、3代目は2018年の発売という具合で、間隔を空けながら売ってきたからだ。

インサイトの性格も世代ごとに変わり、初代は小さくて軽い3ドアクーペボディに、直列3気筒1リッターエンジンとハイブリッドシステムを搭載した。いわば燃費スペシャル的なクルマであった。

2代目は5ナンバーサイズの5ドアハッチバックで、発売時点では1.3リッターエンジンをベースにしたハイブリッドを搭載した。Gの価格は189万円(消費税5%込み)と安く、ハイブリッドの普及を図った。

3代目の新型はボディのワイドな4ドアセダンで、内外装のデザインや乗り心地にこだわった。ハイブリッドが当たり前の存在になった時代を受けて、上質なクルマを目指している。

各世代が時代の流れに沿ったクルマ造りをしてきたが、逆にいえば車両の性格に継続性が乏しい。2代目の生産終了と3代目の発売には約4年間の開きがあるから、2代目のユーザーは乗り替えるクルマを失ってしまった。既存のユーザーに不親切な面があり、良くも悪くもホンダらしい商品開発といえるだろう。

ホンダ インサイト | ボディスタイル/サイズ/視界/取りまわし性比較

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

2009年に発売された2代目の先代インサイトは、実験的だった初代とは異なり、大量に売ることを狙って開発された。ボディタイプはプリウスと同様の5ドアハッチバックになった。

5ナンバーサイズに収まるボディは、全長が4390mm、全幅は1695mmで、全高は1425mmと低い。近年のトレンド風にいえば5ドアクーペ風の形状だった。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2550mmで、最小回転半径は5mだから、小回り性能も優れている。

2018年に発売された3代目の新型インサイトは、2代目に比べるとボディの造りが大きく異なる。セダンに変更され、プラットフォームやボディの基本骨格はシビックセダンと共通だ。

ボディサイズは全長が4675mm、全幅は1820mmだから、2代目に比べるとかなり大きい。全高は1410mmだから少し低く、外観はスポーティな印象だ。ホイールベースは2700mmで、最小回転半径は5.3mとなる。

フロントマスクなどの外観は、新型の方が上質だ。メッキグリルを緻密に造り込み、シビックセダンと比べても高級感がある。

ただし混雑した市街地や駐車場での取りまわし性は、先代型が勝っていた。

・進化度数:1点(もう少し頑張りましょう)

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」

ホンダ インサイト | 内装のデザイン/質感/操作性/視認性比較

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

先代インサイトのインパネは、速度計をデジタル表示にして最上部に設置するなど、独特のデザインを採用していた。ただしドライバーの体格によっては、見にくいこともある。エコドライブの度合いをスコアで表示するなど、ハイブリッドらしい工夫も施した。

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」

新型はフォーマルなセダンとあって、インパネは落ち着いた雰囲気だ。メーターも見やすい。

ATは切り替えレバーが装着されず、プッシュ式のスイッチで操作する。少々慣れを要するが、基本的には使いやすい。インパネに本物のステッチ(縫い目)を施すなど、質感も高めた。

・進化度数:7点(大幅に進化した)

ホンダ インサイト | 前後席の居住性比較

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)
ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

前後席ともに、居住性は新型が快適だ。新型は先代型に比べてシートのサイズに余裕を持たせ、座り心地にもボリューム感が伴っていて快適に仕上げられている。

車内の広さは、前席は十分だが、後席は新型も少し窮屈に感じる。新型では足元空間は広いが、全高を1410mmに抑えたから、後席の座る位置は低い。床と座面の間隔が足りず、腰が落ち込んで膝は持ち上がりやすい。頭上の空間も、身長170cmの大人4名が乗車して握りコブシ半分程度だ。

一方、先代型は頭上に加えて足元空間も狭く、ファミリーユーザーには不向きであった。先代フィットと比べても窮屈だったから、先代フィットにハイブリッドが加わると、インサイトは売れ行きを急落させた。

・進化度数:8点(大幅に進化した)

ホンダ インサイト | 荷室の広さと使い勝手比較

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

先代型は、駆動用電池や制御機能を荷室の下に設置しながら、積載容量を相応に確保した。リヤゲートを備えた5ドアハッチバックボディだから開口部が大きく、荷物を出し入れしやすい。リヤゲートのヒンジが前寄りに装着されるから、開閉時にリヤゲートが後方へ張り出しにくく、縦列駐車をしている状態でも使いやすかった。

新型は駆動用電池などを後席の下に設置して、トランクスペースの容量に余裕を持たせた。後席の背もたれを前側に倒せるので、荷室面積を拡大できる。それでも荷室の使い勝手は、5ドアハッチバックの先代型が優れていた。

・進化度数:1点(もう少し頑張りましょう)

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」

ホンダ インサイト | 動力性能比較

ホンダ インサイト(2代目)
ホンダ インサイト(2代目)

先代型が搭載したハイブリッドシステムは、「IMA(Honda Integrated Motor Assist System)」と呼ばれるシンプルなタイプであった。1個の薄型DCブラシレスモーターを装着して、減速時にはモーターが減速エネルギーによる発電を行い、搭載されている駆動用ニッケル水素電池に充電する。この電気を使ってモーターを駆動させ、エンジンの駆動力を支援した。

モーターは最高出力が14馬力、最大トルクは8kg-mとなる。駆動の主力はエンジンで、モーターは副次的な動力に位置づけた。

動力性能は1.3リッターエンジンを使ったベーシックなグレードで、感覚的には1.5リッターのノーマルエンジンと同等だ。低回転域など、エンジンの駆動力が不足する領域をモーターが補った。

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」

一方、新型インサイトが搭載する「スポーツハイブリッドi-MMD(Intelligent Multi Mode Drive)」は、システムがまったく違う。1.5リッターエンジンがホイールを直接駆動するのは、限られた高速巡航時だけだ。通常はエンジンが発電機を作動させ、その電気を使って、モーターを駆動して走る。減速エネルギーを利用した発電も行う。

つまり先代型のIMAでは、1個のモーターが減速時の発電と駆動を兼任したが、スポーツハイブリッドi-MMDは、発電機と駆動用モーターを別個に備える。

このメリットは、効率を徹底追求できることだ。エンジンが発電に専念すれば、速度の変化に応じてエンジン回転数を増減させる必要はない。実際にはドライバーの違和感を抑える目的もあって、ある程度まで速度に同期させるが、基本的には効率の良い回転域を維持できる。そうなれば燃費を向上させやすい。

また駆動を主にモーターが受け持てば、電気自動車と同様、加減速が滑らかになってアクセル操作に対する反応は機敏になる。

新型インサイトの動力性能は、ガソリンエンジンに当てはめると2.5リッタークラスだが、走りが滑らかで静かだ。走行中にエンジンの始動と停止を繰り返した時でも、ノイズがほとんど高まらず煩わしい印象がない。先代型に比べると、さまざまな機能を向上させた。

・進化度数:9点(超絶的に進化した)

ホンダ インサイト | 走行安定性比較

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

先代インサイトは、発売時点で走行安定性に不満があった。操舵に対する反応は機敏でスポーティだったが、危険を回避する時などは後輪の接地性が下がりやすい。マイナーチェンジで改善したが、走行安定性が良いとはいえなかった。

新型はシビックと共通のプラットフォームを使い、全幅もワイドだから安定性が格段に向上した。小さな舵角から車両の向きが正確に変わるので、運転感覚が上質になり、車両との一体感も得やすい。

・進化度数:8点(大幅に進化した)

ホンダ インサイト | 乗り心地とノイズ比較

先代インサイトは乗り心地が少々硬く感じられた。不満のあった走行安定性を改善すると、さらに硬くなった。

そこが新型では、大幅に柔軟になっている。ボディ剛性を高め、サスペンションはしなやかに伸縮するから、3ナンバーセダンの中でも快適な部類に入る。タイヤが路上を転がる時に発する音は少し大きいが、あまり気にならない。

・進化度数:9点(超絶的に進化した)

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」

ホンダ インサイト | 安全装備比較

ホンダ 新型インサイト

先代型には緊急自動ブレーキが採用されていないが、新型は運転支援システム「ホンダセンシング」を標準装着した。歩行者も検知して、緊急自動ブレーキを作動させる。EXには後方の並走車両を検知して知らせる機能も備わる。新型では安全装備が大幅に進化した。

・進化度数:10点(超絶的に進化した)

ホンダ インサイト | 燃費性能比較

1.3リッターエンジンを搭載した先代型のJC08モード燃費は、発売された時が26km/Lで、その後に27.2km/Lへ向上した。

一方、新型のJC08モード燃費は、買い得グレードのEXが31.4km/L、価格の安いLXは34.2km/Lに達する。新型は駆動用モーターと発電機を別個に備えることで、効率が高まり、重いボディで動力性能を向上させながら燃料消費量は減らしている。

・進化度数:7点(大幅に進化した)

ホンダ インサイト | グレード構成と価格設定比較

先代インサイトの価格は、後期型で最も安い1.3リッターのGが193万円、1.5リッターのエクスクルーシブXLが225万円だった。

一方、新型は価格が最も安いLXが326万1600円、安全装備などを上級化したEXが349万9200円だ。

新型は3ナンバーサイズにボディを拡大して、ハイブリッドシステムも高機能だから、動力性能と燃費性能の両方が優れている。緊急自動ブレーキが採用されて、内外装も上質だ。

しかしそれでも価格の割安感では、先代型が優れていた。

・進化度数:1点(もう少し頑張りましょう)

ホンダ インサイト | 旧型と比べて分かった新型の総合評価

ホンダ 新型 インサイト「INSIGHT EX」
ホンダ インサイト(2代目)

先代型インサイトが発売された時は、価格が最も安いハイブリッド車を目指していた。

しかし今では、フィットやシャトルのハイブリッドが用意されている。そこでインサイトは上級化して、実質的に「シビックハイブリッド」となった。

従って、新型を先代モデルと比べると、ボディが拡大して、走行性能、乗り心地、居住性、内外装の質感、燃費、安全装備など、機能を幅広く向上させている。先代型に比べると、明らかに進化した。その代わり価格も高い。先代型と新型は、全く違うクルマになっている。

・進化度数:6点(順当に進化した)

[筆者:渡辺 陽一郎 / 撮影:茂呂幸正・ホンダ]

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