みらいの描き方 – 仮設住宅の集会所でみた光

昨年夏の災害から、約8ヶ月がすぎた。

「もう」と思う人にも「まだ」と思う人にも、等しく時間は流れている。

広島県坂町の町の花である梅が満開に咲き誇る2月末。JR坂駅から歩いて15分ほどの所にある、平成ヶ浜中央公園仮設住宅団地の町営の集会所で『ちいさな冬まつり』という会が催された。仮設住宅に住む人たちの日常に配慮しながら継続的に行われているイベントで、仮設住宅の住人以外は来ない。

兵庫県立大学院生が中心となって、兵庫県立大学災害復興支援団体LANの学生ボランティア28名と引率の森永速男先生とともに前日から広島入りして準備した。始まりの午前10時。少し肌寒いが、まばゆいばかりの快晴。

集会所の前では、10名位の男女の学生と先生がワイワイと楽しそうに明石焼きや、その後どら焼きも焼いていた。

今日初めて会った者同士も多いそうだが、仲良く協力している姿が微笑ましい。

森永先生によると、ボランティアに参加する学生はホスピタリティの高い看護学科の女子や工学部の男子などが多いとのこと。

ボランティアの現場で自分に出来ることや防災を学ぼうとしている彼らが、社会に出て求められるのは対応力のある人間力。それを現場でしっかり学んでほしいとおっしゃっていたのが印象的だった。

集会所の中では、住人と学生が一緒に餃子を作ったり、無料マッサージや足湯、後半には学生の出し物なども行われていた。

ボランティアの学生達が手を出し過ぎないことも大切で、一緒にやっていくのが大切なのだそう。 窓辺には幾つかのたらいが用意され、座布団に座って住民の人が足湯をしながら、学生たちとおしゃべりを楽しんでいた。

また違う場所では、温かいものを頬張りながら、近所の者同士がなんでもない話をしていた。 参加者は60代位以上の方が多いようだったが、中には馴染みの大学院生達に会いに来る子供達も何人かいたりと、30名近い住民が入れ替わり立ち替わり寄っていた。

この会は住民の人たちに抱えている気持ちを少しでも言葉にして出して貰ったり、体や心をほぐしていただき、悩みや心配事があれば小さな事でもすくい取る、というのも大事な目的だ。

今回の取材でも現地の空気の温かさに驚いたが、それは哀しみを抱えた人達も、か細い声や空気を読み取りながら一丸となって作っている温かさなのだろう。

私も参加者のお話を聞きたいと、何人かの方に声をかけてみた。

マッサージの順番を待っていたKさん(70才女性)は、災害で家が全壊し避難所で2ヶ月間生活をした。今はその後出来た仮設住宅に暮らしており、近くに住んでいる娘が時々買い物の手伝いなどしてくれる。この3月に仮設住宅の6ヶ月間の更新手続きをしたが、2年間しか入る事は出来ないので、その後は建設予定の公営住宅に住むことになるだろう、と話してくれた。

ある日突然我が家が無くなり、今も不安はあるうが「仕方ない」と締めくくる言葉が切ない。「この辺りは梅がすごいですね」というと「そうなんよ。うちの玄関前にもね、娘がホームセンターで買うて来てくれたチューリップの球根を植えてみたんよ。芽が一杯出とるけえ帰りに見てみんさい」と教えてくれた。

暮らしを作ろうと懸命に作り直そうとしているKさんの横顔と、帰り道、Kさんの家の前で見つけたチューリップの芽はとても綺麗だった。兵庫県立大学にて学ぶLAN所属のボランティア学生達にも何人か話を聞いてみた。

看護学部の檜垣七菜さん(18才)は「今回初めて訪れたが、小さな子供が思っていたより多く、子供と遊ぶことも大切な出来る事だと気づいた」と教えてくれた。

また、同じく看護学部の伊藤千紗さん(21才)は「挨拶を積み重ねていくことや、長期的に関わっていくような接し方や関わり方を今後も学んでいきたい」という。

工学部の馬医春希さん(20才)は「これからも自分が主体となって動いていけるように関わりたい」とのことだった。 皆、笑顔がとても柔らかい。

この会を主催した兵庫県立大学院生の一人で、この春から小学校教諭として働き始める内藤さんもこんな話をしてくれた。

「自分の生まれた南海地方は、昔からいつか大地震がくると言われ続けています。避けて通れない未来のために、そして顔の浮かぶ身近な人達に、一人でも多く最悪の事態を回避する知恵をつけてほしいんです」これから自分が教師となって関わる子供たちにも、自分が被災地で学んだことを伝えていきたいという。

変えられない未来に向かって私達は精一杯何ができるのか。ボランティアや被災地にぜひ一度、足を運んでみてはいかがかと思う。いまも続いていることを、そして、自分に起こりうるかもしれないことを知るために。

取材協力:兵庫県立大学減災復興政策研究科 総合教育教授・森永速男先生/同大学 大学院減災復興政策研究科・内藤悠さん/同大学看護学部・檜垣七菜さん、伊藤千紗さん/同大学工学部・馬医春希さん

文と絵:沢田妙

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