輸送人員減に危機感 都心直結で競争力強化へ 相鉄~JR・東急直通線 変わる沿線(上)

相鉄とJR・東急との直通路線図

 「もうすぐ新横浜が近くなる」

 昨年11月、小田原市に住んでいた会社員の男性(32)は期待を抱き、相鉄線・南万騎が原駅徒歩1分の新築マンションを購入した。

 東海地方や関西方面などへの出張が多く、よく東海道新幹線を利用する。小田原駅は「のぞみ」が停車しない。6千万円弱と、当初考えていた予算をだいぶオーバーしたが、周囲に緑が多い環境の良さと、妻の実家が二俣川にあったことが後押しした。

 相鉄線は、2019年度下期にJR線と、22年度下期には東急線と相互直通運転の開始を予定している。男性は「早く東急とつながってほしい」と、待ち遠しそうに話した。

 相鉄線とJR線、東急線との相互直通運転が実現すると、横浜市西部や県央方面から都心へ、乗り換えなしで結ばれる。都心への通勤・通学の利便性向上や東海道新幹線が通る新横浜駅へのアクセス向上を図り、沿線に人を呼び込む狙いがある。

 例えば、海老名駅や湘南台駅から来た相鉄線の直通電車が西谷駅で分岐する連絡線を通ってJR線に乗り入れると、横須賀線などを走行して渋谷や新宿方面へ向かう。二俣川駅から新宿駅までの所要時間は約44分の見通しで、横浜駅で乗り換えるより15分程度短縮されるという。

 一般的に、マンションや一戸建て住宅を購入する場合、駅からの距離や物件の広さ、規模などにこだわる人が多いが、相鉄線沿線では最近、ある変化が起きた。

 相鉄不動産(横浜市西区)が相鉄線沿線の不動産購入希望者に行ったアンケートでは、相互直通運転が始まることを理由に同線沿線を選ぶ人が多くなっているという。

 同社の担当者は、「南万騎が原の物件を購入した人が通勤する場所は、東京方面や川崎、横浜市港北区などで、相鉄線沿線よりも多い」と明かす。「東京・川崎方面は以前からいたが、港北区はあまり記憶にない。相互直通運転で近づく場所なので、そういう人たちからも興味を持っていただいている。注目度は着実に上がっている」と実感している。

 相鉄線の輸送人員は、1995年度の2億5141万人をピークに減少。少子高齢化に加え、都心回帰が背景にあり、2004年度はピークと比べ約1割減の2億2493万人まで落ち込んでいた。

 相鉄線とJR線の相互直通運転が決まったのは06年。相鉄ホールディングス(同)経営戦略室の鈴木昭彦課長は、「当社沿線は東京のベッドタウンとして発展してきた。通勤時間を縮めることで競争力を高めなければ、じり貧になるという強い危機感があった」と当時の状況を説明する。

 その後、輸送人員は増減を繰り返し、長年横ばいの状況が続いてきた。しかし、15年度からは3年連続で増加。「相互直通運転を見据えた沿線開発の効果」(鈴木課長)との見方が強い。

 「首都圏で都心に直接乗り入れていない路線は(私鉄大手で)当社線だけ。相互直通運転は人口減少の流れを変える大きな原動力になる」。鈴木課長は、相互直通運転による沿線への定住増加を期待している。

 19年度下期、相鉄線とJR線の相互直通運転が始まる。横浜市西部、県央方面から東京都内へ、速く、便利につながる新たな鉄道ネットワークの誕生で、沿線に変化が起きている。現状や課題を探る。

◇相鉄線とJR線、東急線との相互直通運転

 2019年度下期に始まる予定のJR線との相互直通運転で、相鉄線の電車は西谷駅からJR東海道貨物線の横浜羽沢駅付近まで新設される約2.7キロの連絡線を通ってJR線に乗り入れ、横須賀線などを走行して渋谷や新宿方面へ向かう。途中、新駅の羽沢横浜国大駅が設置される。22年度下期に予定される東急線との相互直通運転では、「羽沢横浜国大駅」と東急東横・目黒線の日吉駅との間、約10キロを新たに結ぶ。途中、新横浜駅(仮称)と新綱島駅(同)の2駅を設ける。大和駅から新横浜駅まで約19分と、横浜駅経由と比べて23分短縮される見込みで、東海道新幹線へのアクセスが大幅に向上する。

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