プロ選手を目指さない新種の留学!アルビレックス新潟バルセロナ松田氏インタビュー【後編】

3月某日、プロ選手を目指さない一味変わったサッカー留学の事業を行っているアルビレックス新潟バルセロナの松田氏に話を伺った。自身のスペイン留学を生かし、サッカー業界への就職を目指す人をサポートする松田氏の本音に迫る。

興味の幅や選択肢が広がる、「3つの柱」

辻本:引き続きよろしくお願いします。

松田氏:よろしくお願いします。

辻本:ここからは留学の中身について伺っていきたいと思います。

1年間のスケジュールは基本的にどういった流れで行われるのでしょうか?

松田氏:はい。基本的に「ビジネスカリキュラム」と「語学」と「サッカー」の3つの柱をベースにして44週間(約11ヶ月)進めていきます。ビジネスカリキュラムを行っている理由としては、サッカー業界で働くために、プロフェッショナルな講師陣によるセミナー、取材研修やインターンシップなどを通して実践的なスキルを習得し即戦力人材への成長を目指すためです。

進め方として、前期カリキュラムと後期カリキュラムに分かれて受講していただきます。8月スタートの留学があるのでそれを例にしていうと、8月から1月までが前期のカリキュラムになります。そのカリキュラムは「スポーツビジネス講座」と「指導者講座」「メディア講座」の3つをすべて受けてもらっています。スポーツビジネスは22回、指導者は11回、メディアも11回講座があるのですが、そこでは実際にバルセロナでその分野で活躍されている方を講師として招いて、毎回テーマを変えて講義をしていただいています。

辻本:3つすべての分野の講義を受けることができるのですね。すべて受けてもらっている理由としては何かあるのでしょうか?

松田氏:すべてを受けてもらっている理由としては、バルセロナには様々な可能性や世界が無数に広がっています。「初めからこのジャンルで」と一つの分野に絞ってしまうとせっかく選択肢や可能性が広がっている環境に身を置いているのに視野が狭くなってしまうともったいない。なので主にこの3つの講義を受講してもらい、こういう世界もあるんだとか、こういう選択肢もあるんだなというのをたくさん見てもらう期間にしています。

辻本:なるほど。では後期はどういった活動をしているのでしょうか。

松田氏:後期に関しては、やはり前期のカリキュラムを通して人それぞれやりたいこと、この先こういった仕事をしてみたいというのが分かれてくると思うので、それをもっと深く学べるような実習先を私たちが提供して、実際に現場に出てもらってより深く学ぶ。いわばインターンシップとか現場実習メインのカリキュラムになっています。

辻本:その具体的なインターンシップ先や実習先はどういったところになるのでしょうか。

松田氏:8月スタートと4月スタートの留学があるのですが、4月スタートの留学にだけビジネスカリキュラムのインターン制度とは別のものを用意しています。その理由としてはヨーロッパサッカーのシーズンは大体8月から5月にかけてですよね。なので4月にスタートとなるとすぐにシーズンオフになってしまうんです。しかもそのシーズンオフの期間は中々ビジネスカリキュラムもサッカーも出来なくなってしまうので、学校に通うしかなくなってしまう。

なのでそのオフシーズンの間だけ、アルビレックスシンガポールだったり、アルビレックスミャンマーに来てインターンシップを行っていただくことが可能です。これは希望制のプログラムにはなりますが、グループとしての強みを生かし、実際にプロの現場を肌で感じていただくために用意したプログラムになります。また語学レベルがある程度必要といった条件はありますが、バルセロナの企業にインターンに行くこともできます。

辻本:後期ビジネスカリキュラムにおいてのインターン先や実習先はまた少し違うのですか?

松田氏:ビジネスカリキュラムのインターン先に関して言えば、過去、バルセロナのビジネススクールに通っていた日本人の学生さんと協力をして、バルセロナにある日本人宿のお客さんを増やすためにはどうしたらいいかというテーマで、ビジネススクールの学生さんと一緒に論文を作成する。といった内容のものを行ったり、後は留学斡旋の企業のお手伝いをしたりだとか、現地クラブの指導者実習を行ったりと様々です。

辻本:何もサッカーだけではないのですね。驚きました。

松田氏:その他にビジネスカリキュラムにはビジネスセミナーといって、サッカー関係者だけではなく、いろんな業界で活躍されている日本人の方であったり、スペイン人の方だったりを招いてゲストスピーカーとして話をしていただく機会があります。

過去にはJTBバルセロナ支店の方だったり、FIFA代理人、元Jリーガー、スペイン人記者、アルビレックス新潟の立ち上げに携わった方、日建設計の方(ビックスワンの設計に携わっただけでなく、新カンプノウのコンペを勝ち取った企業)にどうゆう経緯でコンペを勝ちとったのか、そもそも何故スタジアム設計に携わろうと思ったのかといった話を伺いました。

後は取材研修ですね。フロムワンさんの協力のもと、エスパニョールのホームゲームに行って、取材席で試合をみてリーガエスパニュールの取材研修をしています。

こういったセミナーやビジネスカリキュラムでは知識や経験を得られるだけでなく、様々な講師の方が来るので一つ受講することで人脈ができるというか、人との出会いがたくさんあるのでそこで出会った方たちをフルに活用してもらえるようなそういう環境を作っているというのがビジネスカリキュラムです。

辻本:かなり充実した内容になっていますね。語学とサッカーについても教えてください。

松田氏:まず、なぜ「スペイン語」の学習なのか。というところですが、世界人口(約69億人)の約13%が、生活言語としてスペイン語と、その兄弟言語のポルトガル語を使用しています。一方で日本の人口は約1億3000万人ですが、スペイン語やポルトガル語を使用できる人はわずか15万人ほど(約0.1%)ほど。つまりこれからの「サッカー人」としてスペイン語を取得していることは大きな強みになると言えます。

こちらも44週間、キングスブルックという語学学校に通って、スペイン語を学びます。もちろん通っているとレベルも上がってくると思うので、その参加者のレベルにあわせたクラス設定で学校側も分けてくれています。留学を通して、スペイン語の習得を目指すことが目標です。

サッカーに関してはリーグに参加しているので、8月から留学をスタートしたらプレシーズンの期間が1カ月間あって、9月からリーグが開幕します。練習は平日に週3回で週末に1回試合があるのでサッカーをプレーする機会としては週に計4回ですね。

辻本:そうなんですね。アルビレックス新潟バルセロナはリーグに参加されているとのことでしたが、ではこのカタルーニャ州リーグについて少し教えていただけますか。

松田氏:カタルーニャというのはバルセロナのある地方のことで、アルビレックスが所属する、カタルーニャ州4部リーグは一番上のカテゴリーから数えると8番目、レベル感でいうと社会人リーグみたいなところです。平日は仕事、週末に試合をするといったようなチームが多いような印象があります。ただこのカタルーニャ州4部リーグだけでも、計300チーム以上登録されています。そういうところでもやはりサッカーが文化になっているんだなと感じますね。

そして一つ見ていただきたいのが、カタルーニャ州サッカー協会のホームページ。

州リーグではありますが、各チームの情報がしっかり掲載されているんです。順位、ゴール数、チーム内の得点ランキング、ユニフォームの情報、登録選手、ホームスタジアムなどこういった細かい情報が見られるようになっていて、協会自体がすごく充実しているんだなというのを感じますね。

辻本:カタルーニャ州リーグだけのサイトですもんね。

松田氏:そうです。だから純粋に「カタルーニャ州リーグ凄いな」と思うと同時に、サッカーの整備がきちんとされている素晴らしい環境だなと感じています。もちろん全てのグラウンドが人工芝でロッカールーム等も完備されていますしね。

カタルーニャ州リーグのHPにあるアルビレックス新潟バルセロナのページ。各チームの情報がこうして細かく掲載されている。

FCF Federació Catalana de Futbol

カタルーニャ州リーグの公式HP

松田氏:留学の中身に戻ると、これはあくまでサッカー選手になる留学ではないですし、ビジネスカリキュラム、語学、サッカーの3つの中で言うと優先順位は低いので、やらないという選択肢もありです。その分、語学にもう少し力を入れるとか、そういうリクエストがあれば全然OK。ただ例えば指導者を目指すということであれば、自分でプレーしてスペインのリーグを肌で感じるという経験は、後に自分がチームを持った時に必ず活きてくると思いますし、サッカー業界で働く上でも活きてくるとは思います。また未経験者の方も参加してもらっているので、そういう方はどういう関わり方をしているかというと、プレーヤーとしてではなくてチームスタッフとして帯同してもらっています。

今年の参加者の方でいえば、アルビレックスバルセロナのインスタグラムの運用をすべてやってもらっています。画像編集や動画編集、文章を考えたりだとか、広報的なところをチームスタッフとしてお願いしているので、この留学に関してはサッカー経験の有無は問いません。1年間の中身、流れとしては大体こんなところでしょうか。

辻本:ありがとうございます。あくまでもサッカー業界に入るための留学ではあると思いますが、1年間取り組んで帰って来た時にはサッカー業界に限らず、その興味の幅や、選択肢はかなり広がっているはずですね。

松田氏:そうですね。この留学の一番の目的は「サッカー業界で働くための人材になること」ここをきっかけにいろんな景色を見てもらって、その子の進路選択に活かせるようなものは作っていきたい。与えないといけないなと思っています。

松田氏が考える「スポーツ業界が求める理想の人物像」とは

辻本:スポーツ業界はやはり新卒で入ることが難しく、即戦力を求めている傾向があると思います。松田さんが考える、「スポーツ業界が求めている理想の人物像」を是非教えていただけますでしょうか?

松田氏:おっしゃる通りで、欲しがっているのは即戦力というのが現状です。資金力がないので、新人研修っていうのがあまりなく、会社として若手を育てるというよりか、もう出来る人を採用した方が早いという傾向があったりするので新卒が少ないとか、現に中途が多い。ただそういうのは変えていきたいなと思う。大学生でスポーツ業界で働きたいという人はかなりいますが、彼らがその夢をあきらめる理由としてはまず新卒でいけないから。ではないでしょうか?そうすると今度は一般企業を経由してみようというのがほとんどだと思います。その選択も武器を増やすという意味では間違っていないと思います。ただこれには懸念するところがあって、結局サッカー業界に入るために一般企業に入社したはずだったのに、中々スポーツ業界で働くことができない。気づいたらモヤモヤを抱えながら年を重ねている。みたいなことになって欲しくないのです。

しばらく採用の基準は変わらないとは思う。ただ新卒が出ていないからあきらめよう、ではなく可能性は探ってほしいなとは思う。僕も大学生時代、就職活動をしている時に、アルビレックス新潟に直接電話をして、「新卒採用はありますか?」と問い合わせ、「やっていません」って言われましたけど、結果としては新卒で入社できました。すべてあきらめずに動くべきですし、縁とタイミングというものもありますのでそれを逃して欲しくないなと思います。

いかに持っている「武器の数」と「熱」とその「質」を磨けるか、後はタイミングを探りながらその時にそのレベルに達していればいいので。とにかく努力次第、動き次第。それにはもちろんある程度時間かけないといけないし、信念をもっていないと厳しいですが、そういう時間を費やす価値がある業界だと思うんですよ。

サッカー業界を目指す人たち、留学に興味をもっている人たちに伝えたいメッセージ

辻本:今後サッカー業界を目指す人たち、留学に興味をもっている人たちに伝えたいメッセージはありますか?

松田氏:そうですね、人それぞれやりたいこととか夢は違うと思いますけど、自分は死ぬとき自分の人生楽しかったなぁと思って死にたい。あの時ああしとけばよかったなというのをできるだけ減らしたいんですよ。わくわくの度合いとか何でわくわくするかはその人次第ですけど、その人にとって最善の選択をしてほしい。わくわくしながら生きていってほしいと思います。好きなことはなんだろうとか、将来の夢ってなんだろうというのを考えて、それがあるのであれば、必死にその夢の実現に向かってチャレンジしてほしい。チャレンジした人にしか見えない景色や、そうした人にしかない得られないもの、できない経験っていうのはあるし、それは今後の財産になる。そうして得た財産や武器を存分に生かして、夢の実現に向けてつなげていってほしいなと思いますね。

またサッカー業界やクラブチームで働きたいのであれば、こうした留学を利用するだとか、他のインターンに行ってみるのもありだと思います。

私たちはその一つのきっかけを与えてあげたいなと思うので、引き続きサービスの質をあげながら、いろんな人に知ってもらって、「この留学に行ったから夢が実現しました」という人を増やしていきたいなと思っています。

アルビレックス新潟は「僕の人生を豊かにしてくれた存在」

辻本:では最後に、松田さんにとってアルビレックス新潟という存在はどういった存在かを教えていただますか?

松田氏:このクラブがなかったらまったく違う人生を歩んでいたと思います。少なくともアルビレックスに関わる仕事が出来ている現状が幸せですし、全く知らない人からアルビレックスのエンブレムをつけて歩いているだけで、「頑張ってね」と応援してもらえる。こういった経験は中々できるものではないと思いますし、周りの人に誇れる仕事ができてるなぁと感じています。アルビレックス新潟はそういうきっかけをくれたクラブです。このクラブがなければ面白くない人生になっていたと思いますしとにかく感謝しています。サポーターとしての時期、働き始めてからの立場もありますけど、トータルしていうと「人生を豊かにしてくれた存在」ですね。

辻本:「人生そのもの」ということですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。

松田氏:ありがとうございました。

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