多様な人材活用へ発想転換 思い込みを反省 中小企業の障害者雇用「旗振り役」へ

 諫早市多良見町の廃棄物回収・処理業「菅原産業」の菅原千代枝取締役(45)は、自社の経験を基に、県内中小企業における障害者雇用促進の「旗振り役」として奮闘している。子ども向けの環境教育にも力を入れ、雇用と環境の両面で「固定観念を変えることが大事」と社会の変化を促す。

 菅原氏は愛知県出身。結婚後、夫の実家である同社で勤務。6年前、従業員を募集すると、市内の福祉団体を通じて知的障害のある男性が応募してきた。「無理だろう」と思いつつ受け入れたが、缶の選別を難なくこなす姿に驚かされた。自身の思い込みを反省し、正規雇用に切り替えた。男性は現在30歳。従業員18人の一人として毎日、汗を流す。
 「障害者の親には、働けないから一生子どもを守ると心を閉ざす人が多い。働いて賃金を得て、親に頼らずに生きる障害者を増やしたい」。障害者雇用に対する思いは、代表を務める県中小企業家同友会のダイバーシティ(多様性)委員会を中心に、会員企業を巻き込む形で発展しつつある。
 同委員会が昨年実施したアンケートで回答した125社のうち、障害者を雇用しているのはわずか16%の20社。一方、特別支援学校に通う生徒の職場実習受け入れに興味がある企業は36社(29%)に上る。「勉強会や情報交換を続け、『無理』という企業が『できるかも』という見方に変わりつつある」
 ダイバーシティの概念は障害者だけでなく、ひきこもり経験のある人、シングルマザー(ひとり親家庭)、65歳以上の高齢者、性的少数者(LGBT)、外国人なども含む。アンケートによると、シングルマザーと高齢者は4割、外国人は1割の雇用にとどまり、障害者と同様、壁が厚い。
 同社は近年、年商約1億2千万円で推移。「人を生かすという企業理念が自然と利益を生み出している。他の中小企業に伝えることで地域全体の利益になる」。慢性的な人手不足に悩む企業が増える中、障害者に対する知識不足が雇用を阻む現状を伝え、多様な人材を戦力化する「発想の転換」を促す。
 環境教育にも力を注ぐ。同社工場に持ち込まれるペットボトルの中には、外して捨てるはずのラベルやふたが付いたままのものもある。シャンプーボトルやアルミ缶なども混入し、従業員が1個ずつ取り除く。
 「きれいに捨てれば、再資源化でき、それがお金になる」。そこで始めたのがペットボトルを使った子ども向けの環境教育。ふたやラベルを競争しながら外したり、たばこや飲み残しに例えたビー玉やクリップを取り除いたり-。ゲーム感覚でリサイクルの流れを教え、自然と身に付けてもらう狙いだ。
 「多様な人材活用も環境教育も人の固定観念を変えることが大事。地道だけど伝え続ける」

「障害者雇用も環境教育も地道に続けることが大切」と話す菅原さん=諫早市多良見町、菅原産業

© 株式会社長崎新聞社